3人による3連続3ピース
くくくくくっ、ふはははははっ! かかったな!
いつかうちで友達とパーティをする日が来るんじゃないかと用意し、確かにそんな日は買ってから1年経った今日まで来なかったわけだが、そんな1年の間に姉と時々ジェンガをしてきた僕は、まさにジェンガプロ!
勝率9割超えの僕が負けるはずがない! その1割の敗因とて、負け続けると姉が泣いてしまうから忖度したに過ぎない!
まさに平和的かつ公平な勝負! 戦闘面で三人に劣る僕とて、ここは断然有利!!
僕は正確かつ公平を期すため無造作に手に取ったジェンガを積み上げながら、それでいて割と重要なる順番についての提案を行った。
「まぁ勝負事なのだから真剣勝負でいこうとは思うのだが、一応はミーティングを兼ねているのでそこははかとなく気楽にいこう。ルールは基本ルールの通り、片手オンリー利き手封じ無し、他のピースに触るのは有り。制限時間は無しの常識的な範囲内ということで。
んで順番なのだが、通常は実力等を加味するとこかもしれないが、各々の経験値等が未知数、かつ練習等も無しという流れなので公平にジャンケン……というところだとは思う。
だがウズウズが初ジェンガということもあるので、僕が1番目で手ほどきを見せ、次に隣のウズウズが2番、以後はそのままミスミちゃん、ニコナの順で時計回りに進めたいと思うがどうだろうか。」
「あたしも初なんだけど。
でもま、ルールは何となくわかるから別に最後でもいいかなぁ。」
「ボクはそれで特に異論在りません。」
「……。」
「ウズウズ? 一応はウズウズに配慮したつもりなんだが、お腹が満たされて寝てるとかないよね?」
ウズウズはうな垂れるように下を向き、無反応だ。
まぁいい。それがウズウズの通常運転のような気がするので、まぁいい。
「では、初手の僕からだ。
まずは最上段以外で任意のピースを、こぉーーー、慎重にーーー、抜きっ。
そいつをこれまた慎重にーーー、最上段に---、置くっ!」
「こぉ……、しんちょ……、抜いて置くっ。」
「そうだウズウズ。
最後はなんか慎重さがなくやっつけな感じで置いたが、ま、崩さなければそれでいい。
ではミスミちゃん、どうぞ。」
「はい。
鬼の存在とボクらが為すべきこと、鬼を討伐することについては説明はいらないかと思います。」
ミスミがピースを事も無げに抜き、新たな最上段を完成させながら会話、主の目的たるミーティングのスタートを切った。
「それはまぁ、覚醒した段階で漠然とはわかったかな。」
ニコナが会話とジェンガを積む。
「まぁ僕も鬼を倒さなくちゃいけないことぐらいは、理解してる。」
「でも……、勝てなかった。」
「はい。佐藤さんの言う通り、ボクらは中鬼の討伐を達成できませんでした。
半鬼やただの鬼ならばボクらの敵ではありません、100%
ですが中鬼、その中でも最上位に当たる「最古の鬼」については、太刀打ちいかないのが現状です。」
「最古の鬼? 最強じゃなく?」
僕もウズウズも、無言で自分の手番を終え、ニコナの質問に対するミスミの言葉を待った。
「最古の鬼とも原初の鬼とも呼ばれますが、中鬼に対する漠然としたカテゴリーの一つです。特にそういう名称があるわけではありません。そもそも中鬼についてですが、」
ミスミが言葉を切り、ジェンガの中ほどからピースを取る。
「半鬼や鬼が鬼気に支配され破壊衝動に心が囚われているのに対し、中鬼は鬼気をコントロールすることが出来ます。その鬼気を隠すこともです。
鬼は、人が強い嫉妬や憎悪、抱えきれぬほどの心の闇により鬼門が開き「我」を失った状態、鬼と化した状態ですが、中鬼は鬼気を超えるほどの偏った心の拠り所、強き想いによりそれを克服したと者と言えるでしょう。」
ミスミが手元のピースを眺め、一度深く息をし、ジェンガに視点を合わせた。
「ただ、中鬼の発生率は1%にも満たないはずです。」
ミスミがピースを最上段に並べ、引き継ぐようにニコナが応える。
「負の感情に囚われない強い心を育むのが武だってじぃちゃんが言ってたけど……
それを支配するほどの強い想いって。」
「負の感情を超えるほどの心の闇か……。」
「…………。わかる。」
ニコナから僕、そしてウズウズへと繋がれた言葉だった。ウズウズの消え入りそうな呟きだったが、僕は聞き逃さなかった。触れていない、触れられないウズウズの過去から紡ぎ出された「同意」だと思った。
「そもそも論ですが、鬼の発生率が高すぎます。
そしてこの度の中鬼どもの発生、ここで話が最初に戻りますが最古の鬼の出現。どれもこれも大鬼の出現に他ならない。むしろボクらの存在自体が大鬼が現世にいる証拠です。100%」
「その大鬼ってやつも気になるけど、最古の鬼って結局何なの?」
「大鬼は鬼を意図的に増やす…、故に「母なる大鬼」ってやつだろ?
最古の鬼ってのは僕もわからないが。」
「最古……、サイコ。……サイコで能天気。」
「幌谷くんフォローありがとうございます。そして佐藤さんの解釈はあながち間違いではありません。
ボクが相対した中鬼は「高鬼」ではないかと推測してます。そして報告を聞く限り、ニコナが接触したのは「氷鬼」で間違いないでしょう。
伝承の鬼と符合する能力とあれほどのポテンシャル。96%、大鬼が生み出し関係した鬼に間違いありません。伝承、民俗文化に残るほどの強烈な個性、故に「最古の鬼」と呼ばれるのです。」
「次は倒す。」
ニコナのその強い意思表示、言葉とは裏腹に、冷静にジェンガが進められる。
「倒せ(おっと危ねぇ!)……、るのか(鬼は倒してもこれは倒しちゃだめだろ!)。」
「無理と……、思う。」
ウズウズの発言にニコナが突っかかろうとするのを、ミスミは自分の手番だというように静かに制した。
「ニコナの気持ちも佐藤さんの判断もわかります。ボクだって同じ気持ち、同じ判断です。
中鬼、ひいては大鬼を討伐するために、ボクら3人は今以上に強くならねばならない。」
抜いたピースに想いを込めるように、ミスミがジェンガ最上段の中央に力強く置いた。
「そのためには幌谷くん、桃太郎である幌谷くんとの本契約が必要なのです。」
「だってさ、にぃちゃん。」
ニコナがやや不満げにピースを抜いて最上段に置き、僕の顔を見る。いや、ニコナだけではない。皆の視線が僕に向いていた。
「僕だって鬼の存在は許せるものじゃない。
いや、鬼が生まれ続けるこの状況を何とかしたいとは思う。ただ何というか、僕にできるのか、何をするべきなのか未だにわからないよ。
そもそも本契約って、僕らの関係は契約の上にあるのか。」
僕は自分の言葉と同様に、ジェンガの抜くべきピースを慎重に選んだ。
「窓辺……、まど……、まどろもどろこしい。」
そう言ってウズウズは若竹色のオーラをヌルっと纏い、出現させた三面六臂の猿の手をもって瞬時に3つのピースを抜き取り、間髪入れず最上段へと置いた。
「なるほど、確かに片手ですね。
3連続というのも良いかもしれません。場の進行を早める上では。」
ミスミが対抗するように薄紅藤のオーラを立ち上げ、腕をまっすぐ伸ばすと同時に袖内から送出された隠し銃で瞬時に3つのピースを打ち弾く。
僕の右頬、左耳、頭髪を掠るように弾かれたピースが通り抜け、振り返って確認するまでもなくそれぞれが壁に突き刺さったことを音で判断した。
「失礼。」
銃をしまったミスミが立ち上がり、僕の後ろの壁から3つのピースを回収する。
「片手ですし「能力」という意味では、銃器の使用を許可願います。」
そう言いながらミスミは、事後申請であるのにもかかわらず平然と、回収した3つのピースを置く。
「あたしは素手だけど、二人のそれは別に構わないかなぁ。」
ニコナが二人以上にオーラを、若竹色のオーラを立ち上げ、三本の指で静かにジェンガのピースに触れる。空いたもう一方の手を握り、腰溜めに引くと同時に寸勁が放たれ、対象の3つのピースが弾かれる。
弾かれたピースがニコナの正面にいたウズウズへと強襲したが、ウズウズは難なくピザパドルで打ち返えした。
ニコナの頭上へと返されたピースが、美しい3つの放物線を描く。
座していたニコナが無挙動で飛び上り、前転宙返りしながら的確に3つのピースを蹴り入れ迎撃する。
カカカと、それぞれのピースが最上段へと加えられた。
「だから蹴りもありだよね? にぃちゃん?」
ニコナは何事もなかったかのようにふわりと元の位置に座し、僕ににこやかな微笑を向ける。
僕は難易度が爆上げされたジェンガタワーを見つめる他ないのだった。




