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だけれど僕は桃太郎じゃない  作者: pai-poi
第5幕 迎え称えんと欲すれば
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慇懃に平和的かつ公平な親睦

「こちら手土産というほどのものではないのですが、宜しければお召し上がり下さい。

 先日、とても良い白桃が手に入ったものですから。

 幌谷さんから、お姉さまが大変フルーツがお好きだと伺ったものですから、お裾分けにと。」


「あらあら、あらあら! こんな立派な白桃を4つも頂いていいの? ご丁寧にごめんなさいね。

 ゆっくりしていってくださいね。わたし、これから仕事なものだから、何もお構いできなくてごめんなさい。 本当ありがとう、冷やしておいて帰ってきてから頂くわね。」


「素敵なお姉さんがいて羨ましいなぁー。

 お邪魔しまーす。」


 なんだこの慇懃な会話運びは。いつの間に着替えたか雫ミスミ。

ミスミは黒のパンツスーツに白いブラウスという、典型的フォーマルな出で立ちで再登場し、姉と通り一遍の挨拶を繰り広げた。

そしてニコナ。君はお辞儀して靴を揃えて礼儀は出来ています風を装いつつ、相手の反応を待たずしてスタスタと家にあがるという年相応の無邪気さアピールか。玄関から入ったのは初だがな。



「じゃあ、はーちゃん、お姉ちゃん行くね!」


「あぁ、いってらっしゃい。気を付けて。」


 姉は上機嫌で自室に戻っていった。僕は鍵の切断された玄関扉を形式上に閉めて一息つく。

絶妙なタイミング、絶妙な佇まい、そして絶妙な「幼馴染で密かに姉を理想の女性像として憧れていました」という自己紹介を兼ねたミスミの会話ジャブ。単にこの状況を打破するだけでなく、今後の自身のポジション取りを見据えた戦略的かつ効果的な一手。いったいミスミはどこのポジション取りに入っているのか。

いや、考えまい。


 いずれにしろ、極限的難所を無事に突破したことには間違いない。

僕は気を取り直し、「明るく元気に生きていこう!」をモットーとすべく笑顔で振り返った。



「いやいやみんな、緊急対応ありがとう! これもそれもも全て君たちが招いた、僕に対しての災厄だとはいえな! はぁさて、みんなで食事でも……


 って、おーいっ!

なになに? 何かしらのメンテナンス業者のように真剣な眼差しで作業に当たってますがミスミさん!

コンセントだとか棚に並ぶケース入りの本だとかいじっていますが、セキュリティレベルの向上、構築ではないですよね? それってプライベート侵害行為ですよね? それ盗撮とか盗聴の類だよね? 堂々とやってるから「盗んでいない」とかならないよね?

それよりもさ、まずウズウズの切断した扉の鍵をついでに直してくれないかなぁ?


 そしてニコナさん! まるで我が家のように、そりゃ訪問回数は姉に次いで多い方だとは思うよ? でもベランダの窓閉めてエアコン付けて、イヤホンを装着してミュージックスタート? 完全に自己世界に入って僕のベットに寝ころびながら暇つぶしに雑誌を眺めていますな日常? どんだけ自分んちリラックスモードかよ! たまに飛んでくるハサミだとかカッターをノールックで返すとか、どんな日常だよ!


 あー、ウズウズさん。君は未だに気配を消しているようだけれども、視線がその、ピザケースにくぎ付けだな。まぁ君が買ってきたわけだし、あれなんだけれどもな。

カーネルのおじさん以上に僕らの意識の外に不動で佇んでいるな。不動と見せかけて未だに僕んちのハサミとカッターを装備しているようだけれども、それは紙を丸めてキャッチボールするような類のものではないぞ。とりあえずニコナに投擲するのはやめなさい。

怖くて二人の間を横断できないわ!



「あっあー、んっんー。

 さて諸君、仕切り直しだ。昼時だし食事をしよう。

 食事をしながらミーティングだ。

 ちなみにこちらのピザパーティセットはウズウズからの差し入れだ。」


「それはそれは佐藤さん、ありがとうございます。」


「タダだから…、大丈夫。」


「うん、ウズウズ。タダと現物支給は違うけどな。そしてピザの前にナゲットを頬張るときたか。」


「いただきまーす。」


「先にまずはコーラかニコナ。確かに皆で乾杯するほどの流れではないが。」


「食事も戦いのうちです、幌谷くん。

 話してるうちに無くなると思いますが、100%」


「そうだよにぃちゃん。あ、それ取って。」


「あ、あぁ。」



 それぞれがドリンクを片手にピザを頬張っている。まるで洋画に出てくるホームパーティのような光景じゃないか。僕もとりあえず流れに乗っかってピザを口にする。


 同じ時間を過ごし、同じ物を食べ、お互いの空間を共有する。

「真の人間性に最もよく調和する愉しみは、よき仲間との愉しい食事である。」とは、哲学者イマヌエル・カントの言葉である。

食事を共にするというのは、ただ同じ卓についているだけではないということなのだろうか。僕らの間に何かしらの連帯感が生みだされている気がした。

時たま、タバスコの瓶がキャッチボールのように卓上でパス回しされていたが、それとて僕らの連帯感を深めることに一役かっているのかもしれない。


 なんとなくこれが日常的にあったような気がする。これはやはり、過去世の記憶からくるものなのだろうか。各々の顔を眺めながら、僕はそんなことを考えていた。



「このゴーヤのやつタバスコ合わないよね。にぃちゃん胡椒ある?」


「あぁ、粗挽き胡椒ならあるよ。」


「ボクがとってきましょう。」


「どこにおいてるか教えた記憶がないんだが。」



「もしかしてミスミちゃん、ナスがダメなタイプ?」


「そんなことは47%、ありません。」


「好き嫌い……、良くない。」


「そんなウズウズは肉中心だけどな。」


「こっちはラー油の方があってる気がする。」


「ボクがとってきましょう!」



 そうこうしているうちに、あれだけあったピザが全て食べ尽くされていった。まぁ、半分は黙々とウズウズが食べていたわけだが。



「さて、各々の腹も満たされ親睦も図られ、そろそろ今後についてミーティングを行おうかと思うのだが。」


「ところでさ、にぃちゃんはモテたいの?」


「ちょっと待て。

 なんだ、ニコナは藪から棒に。」


「ん。」


 そう言うとニコナは少し冷めた視線で傍にあった、先程ペラペラと眺めていた僕の雑誌を目の前に掲げた。


「この夏、乙女の心を鷲掴みにする『モテる男の必須アイテム』特集。

 幌谷くんはこういう姑息な手段でモテたいのですか?

 このような雑誌に頼るほど飢えているのですか? 乾いているのですか?

 ボクはそのようなものに頼る必要は無いと思うのですが、96%」


「いやいやちょっと待ってくれミスミちゃん。題号をわざわざ読まないでくれたまえ。

 けっして僕はそのキャッチに釣られて買ったわけでは無いのだ!

 たまたま偶然、

 そう。たまたまいつも買っている雑誌が、たまたまそんな特集を組んでいただけだよ。

 ニコナはいつまでも件の雑誌を掲げているんじゃない!」


「ブレスレットのところに折り目が付いてたけど?」


「それもたまたまだ、ニコナ!」


「いつも買ってるのは、別の雑誌だったはずですが?」


「たまたま今月号からそれが「いつもの雑誌」に昇格したんだよ!

 身近なところまで調査し過ぎだよミスミちゃん!」


「モテ…、モテトコロッケ?」


「大丈夫だウズウズ。何も心配ない!

 気にしなくても大丈夫だ!」


「ホロゥヤァ、旦那さん…、心配ない……。」


「旦那ちゃん?」

「旦那様?」


 ニコナとミスミから一瞬、仄かなオーラが立ち上がる。それに呼応したかのように、俯いているウズウズからもオーラが滲み出た。


「にぃちゃんは猿のナニに釣られてんだろう、なぁ。」


「それもそうですがニコナさん、ちょっと幌谷くんと距離を縮め過ぎではないでしょうか。敬愛の念を込めて幌谷くんを兄と呼ぶのはわかります。であればボクのことも姉と呼んで差し支え無いと思います。まだ先の話かもしれませんが。」


「ミスミさんが何を気にしているのか、よくわかんないんだけど。」


「ふっ。」


「今、笑いませんでしたか? 佐藤さん。」


「誰が一番か決めておいた方がいいのかなぁ?」


「ちょっと待て待て待て!

 わかった、100歩譲って僕の雑誌が悪いとしよう。そして密かに煽らないでくれウズウズ。

 そうだ、そうだよ。まだまだ我々の親睦が足りない気がするから、ここはひとつ、ジェンガでもしようじゃないか。

 ジェンガをしながらミーティングというのも、良いアイデアじゃ、ないかなぁ!」


「なるほど。平和的かつ公平に一番を決めるには良いかもしれませんね。

 接近戦では二人に遅れを取りますので、ボクとしては異論在りません。」


「ジェンガって、ブロックを崩さないように抜いて積んでいくやつ?

 うんいいよ、わかった。

 じゃあにぃちゃんは、ジェンガで勝った人に従うということだよね。」


「ジェ……ジェ…。」


「大丈夫だウズウズ。ジェンガのルールは難しくないから大丈夫だ。

 それよか僕が従うとか意味がわからんのだが。ま、僕が勝ったら僕の自由にさせてもらうがな!」




 こうして僕の想像を超えたジェンガバトルの火蓋が切って落とされたのだった。

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