第33話 油断するとバレちゃいそうです
琳加と蓮見に続いてしおりん、あかりん、みほりんも引きつった表情で家の中を見ていた。
「オープンキッチン。オーブンも凄く大きい……海外ドラマみたい」
「あ、あそこに5つ並んでるのってもしかして酸素カプセル!? す、凄く高いんじゃ!?」
「テレビが私の身長くらい大きいよ!? こ、こんなお家使っていいの?」
……やっぱりそう思っちゃいますよね。
これでも一番地味な住宅付きのスタジオを選んだ。
他の場所はバルコニーが付いていたり、海辺のクルーザー付きの豪邸だったり、もはやお城みたいになっちゃってる場所もある。
ここには最新AIロボットとかも無いし、何とかいけると思ったんだが……。
でも、どうにか気兼ねなく使ってもらいたい。
「な、なぁ……ここを貸してくれたリツキのお父さんの友達ってもしかして凄くお金持ちなのか……?」
琳加の問いに俺は頷いた。
そういうことにでもしておかないと納得してくれないだろう。
もちろん、本当はペルソニアとして音楽で稼いだお金で建築している。
「……琳加、実はそうなんだ。この場所を所有しているのは凄いお金持ちのおじいさんなんだけど、この家も持て余してて。だからぜひとも使って欲しいってお願いされているくらいなんだ」
俺は昨日の夜から考えていた理由を言った。
無縁社会が生んだ孤独な資産家の老人。
みんなの頭の中にはきっとそんな人物が浮かんでいるだろう。
相手の同情心にもつけ込むような汚い方法で俺はこの場所を使ってもらえるように説得する。
「そ、そうなんだ……じゃあ、使わせてもらっちゃおうかな」
「本当に凄い豪邸だね……いつかこんな場所に住みたいなぁ~」
「で、できるだけ汚さないようにしよう! 設備も使うのはシャワーくらいにしてさ!」
作り話を真に受けたしおりん達から遠慮の色が少し薄くなっていった。
俺はここでたたみかける。
「いや、ぜひとも存分に役立てて欲しいって言ってたよ! 大浴場もプールもたまに使わないと設備が劣化しちゃうから使って欲しいんだって!」
俺はなんとかしおりんたちが居づらくならないように説明をする。
練習とは関係ない部分で疲れさせてどうすんだ。
「そ、そっか……じゃあ、少しだけ使わせてもらおっか」
「高そうな物ばかりだし、あまりはしゃいで何か壊しちゃったら。私たち弁償できないかも……あかり、気をつけてね」
「でぇぇ!? 何で私!? で、でもそうだね。生活空間はあまり使わずに、その代わりスタジオはいっぱい使わせてもらおう!」
これだけ言っても遠慮して笑うシンクロにシティのメンバー。
そんな謙虚なみなさんが大好きです。
心の中で告白を済ませると、俺も家の中を一通り見回して心の中で大きく安堵のため息を吐く。
(よかった……メンバーの私物は置いてないな。これならバレなさそうだ)
「みんな、ここまで歩いて喉が乾いただろ? 今、飲み物を用意するよ」
俺はそう言ってリビングの大きな冷蔵庫を開いた。
中には大量の缶ビールがあった。
ベースを担当してる大学生のお姉さん、セレナのだ。
その隣にはヴィンテージワインも冷やしてある。
ギター担当のザイレムのだな。
そして、一番やばい物が置いてあった。
プリンだ。
下に敷いてある紙にはシーナとマジックでがっつり名前が書いてある。
しかも、その紙には書き置きまでツラツラと書かれていた。
"このプリンを勝手に食べると私はヘソを曲げて練習をしなくなるから注意。シオンは食べていい。でも使い終わったスプーンは私に寄越すこと"
(アウトぉぉぉ!!)
俺は心の中で叫ぶ。
「スプーンを寄越せ」とかいう椎名のいつもの意味が分からない書き置きはこの際どうでもいい。
"シオン"って思い切り書いてあんじゃねぇか!
結局、ちゃんと私物を置かないでいたのはゼノンだけかよ!
俺は椎名の書き置きを握りつぶしてポケットに突っ込むと未開封の水のボトルを人数分取り出した。
これは練習スタジオに持っていくために常に冷蔵庫に補充されている。
「れ、冷蔵庫にはお酒とか入ってたけど気にしないで! プリンは食べていいから!」
「分かった! もともと置いてある物にはあまり触らないようにするね!」
俺が水のボトルを手渡すと、しおりんは笑顔で受け取った。
「あかり、お酒は飲んじゃダメだよ。プリンは食べていいから」
「でぇぇ!? だから、なんで美穂は私を注意するの!? の、飲まないよぉ……プリンは食べたいけど……」
みほりんが人差し指を振りながらあかりんを注意する様子を見てみんなで笑った。
やばいな、もうアイドルってだけでどんなやりとりも輝いて見える。
これ、無料で見ていいやつなの?
「それじゃあ、練習スタジオに行こうか!」
実際にレッスンをする場所を確認するため、俺はみんなを地下へと案内した。
バンドメンバーたちの雰囲気が何となく分かってきましたね……!
毎回1話が短くなってすみません!





