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器用貧乏と上下関係2

恥ずかしながら帰って参りました。

 


 アフェクたちを仲間にした(手下にしたとも言う)ハルトたちは、アフェクたちが宿泊している宿に移動した。いくら夜中とはいえ、あれだけ派手に戦えば人が集まって来てしまうからだ。

 ちなみに、門番たちはアフェクたちに無力化されていた。

 移動する際に、屋敷に火を放って綺麗さっぱり痕跡を消し去ったので、ハルトたちの犯行だとバレることは無いだろう。やっていることが、強盗殺人で放火魔だとは言ってはいけない。


「丸ごと貸し切りとは、金持ちは凄いなー」


 こんなことを言っているが、ハルトも今回イウザから金目の物をかっぱらった為、また資産が増えて立派な金持ちである。


「まあ、座ってくれ」


 宿の一室に案内されたハルトたちは、高そうなソファに腰を下ろす。


「じゃあ、話しの続きをしようか」


 ハルトは、偉そうにふんぞり返っている。


「そんなに警戒すんな。さっき攻撃してきたことは、イウザの情報もらったことでチャラにしてやるから」


 言ってることまで偉そうだ。


「で、獣人や亜人を助けるって何をするんだ?」


 ハルトの質問に、アフェクは真剣な顔になった。


「実はな……」


 ゴクリとモームが唾を飲み込んだ。獣人を助けるとあって、他人事ではないのだろう。


「何も考えて無いんだ」


 モームがずっこけた。


「これだけ期待させといて、何ですかそれ!?」


 モームの叫びに、ハルトとクリスも激しく同意した。


「正確には俺がやっていることはあるんだが、お前たちと一緒となると皆目検討がつかない。お前らが何できるか知らないし」


 確かにアフェクの言っていることは間違ってはいないが、期待外れ感は否めない。


「じゃあ、お前は何をやってるんだ?」


 いつまでもずっこけてはいられないので、気を取り直してハルトが再び質問する。


「俺は奴隷として売られている者を、資金が許す限り買い取っている」


 正攻法っちゃ正攻法ではある。


「なるほどね。どおりで宿に獣人の従者がたくさんいるわけだ」

「……でも、その方法って助ける人を選んでるってことですよね?」


 だが、モームの言う通り、全ての奴隷を買えないのだから助ける者を取捨選択しているということだ。


「その通りだ。悔しいが、俺の財力では全ての者を買うことはできない」


 まあ、そもそも全ての奴隷を買うなど、土台無理な話だ。そのことは、アフェクも十分承知はしているようだ。


「だから、同志を探していたんだ。俺とは異なる方法で獣人たちを助けてくれる者を」


 アフェクの真剣な瞳を見て、遊びや気まぐれで言っているわけではないことをハルトたちは確信した。


「お前は何者なんだ? ただの一般人という訳では無いんだろ?」

「ああ。俺は帝国の貴族だ。領地もある」


 流石に、これにはハルトも驚いた。前々から疑問ではあったが、まさか貴族だったとは。


「貴族ねぇ。何で貴族様が反乱染みたことなんてするんだ?」


 ハルトが、ふと気になったことを聞いてみると、アフェクは何を今更という顔をした。


「さっきも言ったろう。俺は獣人の女の子が好きなんだ」


 いや、さっきは女の子うんぬんは言ってなかっただろう。ハルトがツッコむか迷っているうちに、アフェクは畳みかける。


「男が女を助けるのに、それ以上の理由がいるか?」


 なんか格好良さげに言ってはいるが、要は女好きのスケベということだ。

 ハルトは、難しく考えるのをやめた。ばかばかしくなったのだ。ハルトは、この世界が気に入らない。ならば、なにをこの世界のことで(おもんばか)ることがあるというのだろうか。好きにすればいいだけのことだ。この世界が、ハルトを好きにしたように。


「いいだろう。獣人たちを救ってやるよ」

「本当か!?」


 もっと説得に苦労するかと思っていたのに、意外とすんなりいったことにアフェクは驚いた。


「正確には、結果的にと言ったところか」

「どういうことだ?」


 首を傾げたアフェクは、次のハルトの言葉に吹き出した。


「俺は帝国と王国を潰す。その過程で獣人たちを救う」

「ぶっ!」


 アフェクの隣で紅茶を飲んでいたリーアは、比喩抜きで紅茶を吹き出した。


「アンタバカじゃないの!?」

「お前汚いぞ」


 リーアが目を剥いて絶叫するが、ハルトは自分めがけて紅茶を吹き出したリーアを睨んでいる。ちなみに吹き出された紅茶自体は、ハルトが無詠唱で発動した〝風壁〟によって弾き飛ばされている。ハルトの隣にいるモームに。


「モー……」


 とばっちりを受けたモームは涙目で、クリスに紅茶を拭ってもらっている。


「安心しろ。策ならある。今さっき三秒で考えた」

「今、三秒で考えたって言った!?」


 リーアのツッコミをハルトは華麗にスルーした。


「そもそも大国である帝国と王国を潰すなんて可能なのか?」


 アフェクの疑念に富んだ言葉に、ハルトは急に真顔になって答えた。


「差別の原因を潰さずに獣人たちを救えると思うか?」

「っ!」


 ハルトの言う通り、原因を何とかしないかぎりは永遠に獣人や亜人の奴隷は無くならないだろう。


「まあ、お前が自分の国を潰す覚悟があるかは知らないけどな」


 ハルトの問いに、アフェクは一瞬瞑目してから答えた。


「俺も今の帝国は間違っていると思う。だから帝国が無くなるのは仕方が無いとも思う。だが、全ての国民を虐殺するとか言われたら流石に従えない。要は方法次第だ」

「方法なら決めてある」

「それ三秒で決めたやつでしょ!?」


 何やらリーアが煩いが、ハルトは努めて無視する。


「一つ言っておく。俺が帝国と王国を潰すのは間違っていると思っているからじゃない。単純に俺が気に入らないからだ」


 ハルトのあまりの凄みに、アフェクたちはそんなことで国を潰すのか等、常識的な事を言うことは出来なかった。


「さて、話の続きといきたいところだが、もう夜も更けた。流石に眠い。続きは明日にしよう」


 ただ、重たい雰囲気は長くは続かなかった。だって、ハルトだもん。


「ああ、そうだな。俺も頭を整理したい」

「面倒くさいから、今日はここに泊まっていっていいか?」

「ああ、構わない」

「アンタたち! 客室の用意をしな!」


 ヴィレッタがメイドらしき獣人たちに指示を出す。


「部屋は一つでいいのかい?」

「ああ」


 しばらくすると準備が整ったようで、リーアがハルトたちを案内した。


「ふー、疲れた」


 部屋に着くなり、寛ぎだすハルトにリーアは微妙な顔だ。


「アンタやる気あんの?」

「やる気はあるよ。でも、疲れたまま話し合っても仕方ないだろ?」


 ハルトの言っていることは正しいが、ベッドでゴロゴロしながら言われても説得力は皆無である。


「そういうことにしといてあげる」


 リーアは不承不承だが納得したようだ。諦めたとも言う。


「もう寝るから出てけ、出てけ」


 泊めてもらっている立場のくせに、まるで自分ちのようにシッシッとリーアを追い出そうとするハルト。


「ぶっちゃけお前らとの話し合いよりも、こっちの方が大事なんだよ」


 そう言うなり、ハルトはモームを手招きした。現在、ハルトはベッドの上である。


「ア、アンタねえ」


 これには、リーアの目が吊り上がった。


「私たちとの話し合いよりも、そーいうこと(・・・・・・)の方が大事だって……」


 リーアが怒りに震える。彼女にとっては、自分の同胞たる獣人や敬愛する主の命運がかかっているのだ。ハルトの態度は、到底受け入れられない。


「何を勘違いしているか知らないけど違うぞ」


 モームを自分の目の前に座らせると、ハルトは珍しく真面目な顔になった。


「モーム。今日はよくやった。もう大丈夫だ。だから我慢しなくていいんだぞ?」

「は? アンタ何言ってんの?」


 リーアは、ハルトに気を取られすぎて気がついていなかったが、先程からずっとモームの手は僅かだが震えていた。アフェクと話している時からずっとだ。


「い、いえ。だ、だいじょ、大丈夫です」


 モームは気丈に振る舞おうとしたが、途中で声が震えてしまった。もう限界だったのだ。


「大丈夫なわけないだろうが。……初めて人を殺したんだから」


 そう。モームは、初めて人を殺した。ダンジョンでゴブリンはたくさん殺しているが、人を殺すのは訳が違う。


「う、ううっ、バルドざ~ん」


 涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになったモームは、ハルトの胸に抱きついた。


「よし、よし。好きなだけ泣け。いくらでも付き合ってやる」


 普段はモームをぞんざいに扱うハルトだが、要所要所では大切に扱っている。というかなんだかんだで結構甘い。


「やっぱり、俺一人でやるべきだったな。モームの手を汚させるべきじゃなかった」


 強引にでも止めるべきだったとハルトは後悔したが、モームは首を振った。


「ち、違います。殺したことは後悔してません。ただ、どうしようもなく怖くて震えてしまうだけです……」

「そうか……」


 ハルトは、それ以上は何も言わず、黙ってモームを抱き締めた。


「な、なによ、そういうことなら早く言いなさいよ!」


 動揺したリーアが、どもりながら文句を言っている。だが、目線が揺らいでフラフラしているので、ただのポーズであるのが丸わかりだ。


「お前らが来なかったら、ゆっくりじっくりモームを慰めてたんだがな」


 ハルトがボソッと半眼で呟くと、リーアの動揺が大きくなった。


「わ、わかったわよ。さっきのは取り消すわ。じゃあ、ごゆっくり」


 そう言うなり、リーアはそそくさと出て行った。


「さて、邪魔者もいなくなったことだし。……モーム……」

「……ハルトさん……」


 静かになった室内で、ハルトとモームは至近距離で見つめ合う。良い雰囲気だが、すぐに霧散した。


「…一応、私もいるんだけど」


 クリスだ。すっかり除け者にされていたクリスだ。忘れられていたクリスだ。

 ビクッとなったハルトとモームは、慌ててクリスの方を向いた。


「もしかして、私のこと忘れてたの?」


 悲しそうな瞳をしたクリスが、ハルトをじーっと見ている。ハルトは、この瞳に弱い。


「そ、そんなわけないだろ! 三人で川の字で寝るぞ! 今日は、モームが真ん中だ!」


 モームを慰めながら拗ねたクリスの機嫌を取るのが、今晩で一番大変だったのはハルトだけの秘密である。




1ヶ月も空いてしまった言い訳を少々。実は気分転換に新しい作品の下書きを書き始めたら思いの外楽しくてそっちばっかり書いてました。そのうち投稿出来たらいいなーと思うので、その暁にはどうぞよろしくお願いします。

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