器用貧乏の出会い
やっとメインヒロインを出せました。メインヒロインがエルフなのは私がエルフが好きだからです(笑)
ハルトが気がつくと、地面に突っ伏していた。どうやら戻ってきたようだ。
「まだ多少体がダルいが、まあいいか」
ハルトは起き上がると戦闘に使った武器の回収を始めた。片手斧と盾はまだ使えるが槍は駄目だった。
それから魔法で水を出して汚れを落とし着替えた。
「ふう。じゃあお待ちかねのお宝タイムといきますか」
ハルトは部屋の奥にある宝箱に近づいて手をかけた。
「なにが出るかなー」
箱が開き、ハルトの目に飛び込んできたのは金銀財宝だった。それは宝石だったり、金塊だったり、お金だったり様々な財宝のようだ。
「なんだ財宝か……。強力な武器とかだと思ってたのになー」
価値がわかっていないハルトは残念そうにしているがお金だけでも相当な額であり、他の財宝もお金に換算すれば一生遊んで暮らせるくらいである。ちなみにお金はストレージの容量に関係なくいくらでも入るので持ち運びに苦労しない。
「さて、いよいよやることもなくなったし、ここから出るか」
ハルトの視線の先には魔方陣がある。アゲインストを倒したことで出現したようだ。
「名残惜しくもなんともないからさっさと行くか」
ハルトは躊躇なく魔方陣に足を踏み入れた。
光に包まれた瞬間、何かに引き寄せられるような感覚がしたがすぐに光に呑み込まれてわからなくなった。
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「あれれー、おっかしーなー」
ハルトがなぜ某メガネ少年のようなことを言っているかというと、彼が上空三百メートルにいるからである。光が収まると下に地面はなく、またもや強制命綱無しバンジージャンプ状態であった。
しかしハルトは学んだ。魔法があれば三百メートルくらいなら落ちるくらいわけないと。
即座に装備に刻んだ刻印魔法を起動させ、風魔法で減速をする。それと同時に詠唱を始める。
「理を越える力よ、我が内なる魔力を糧に迫り来る敵意を防ぐ障壁となれ 〝断壁〟!」
地面に水平に結界魔法を発動して即席の足場にした。落下距離は百メートルといったところだ。ハルトは同じことを繰り返し、無事地面に降り立った。
「ふー。意外となんとかなるもんだな」
ハルトは人生無駄な経験なんてないもんだな、クラスメイトに裏切られて落ちた経験も役に立ったなーとか思ったが、そもそも裏切られなければ命綱無しのバンジージャンプなんぞ二度も経験することは無かったのだが。
「さて、ここはどこなんだか」
ハルトが空中から確認した限り、近くにカリルカもテーリノートも無くかなり遠くに飛ばされたようだ。
ハルトが知るのはもう少し後のことだが、ハルトはエスタ・エンパイア王国の端に飛ばされている。
「普通はダンジョンの入口の前に転移するって習ったんだけどなー。ベルを封印してたダンジョンだから特別なのかな?」
ハルトはしばらく考えていたが、答えが出ないので考えるのをやめた。別にどうでもよかったし。空から見たときに道があったので、そこに向けて移動を開始した。
草を掻き分けて道に近づいていくと、戦闘音が聞こえてきてハルトはいぶかしんだ。魔法による爆発音やら悲鳴やらが聞こえる。
索敵スキルで確認したところ大型の魔物と数人の人間が戦闘中のようだ。熟練度が足りず魔物の種類まではわからないがけっこうな強さみたいだ。
「どうするかなー」
助ける義理は微塵もないのだが、現在どこにいるかわからない迷子なので誰かに聞くのがてっとり早い。魔物から助けて恩を売るのがベターだ。
助けることにしたハルトはそうと決まればと急いで道まで向かう。道の手前で草むらに身を隠して、隠蔽スキルを発動させながら覗くと戦闘中のパーティーが見えた。
どうやら商人のキャラバンらしきものを護衛しているようで、馬車を守りながら戦っていたようだ。なぜ過去形なのかというとパーティーの大半は既に倒れており息はなく、馬車が襲われているからだ。
襲っている魔物はドラゴンで空中から襲い掛かっている。ハルトが索敵スキルで確認するとクリムゾンワイバーンとでた。とりわけ秀でた能力やスキルは無いようだが、ハルトが戦った中ではヒュージラプトルの次に強い。
そうこう言っている間にパーティーは全滅してしまったようで、ワイバーンは逃げ惑う商人をムシャムシャし始めている。ハルトはその隙に背後に回り込もうと移動を始めた。なぜさっさと倒さないかというと、カースフォルムを見せたくないからだ。恩を売る相手にあの姿は見せられない。絶対に警戒されるからだ。かといって通常のままでは確実に勝てるとはいえないので不意打ちをするのだ。
しかし、今回は確実さを優先したことが裏目に出た。ハルトがワイバーンの後ろに移動したときには商人も全滅していた。
「やべえ。間に合わなかった」
ハルトは間に合わなかったことはたいして気にしていない。勝手に召喚した世界の住人なんぞに良い感情なんて無いからだ。それよりもワイバーンをカースフォルムを使って殺すかどうか迷っていると、ワイバーンが今捕食している人が生きているのに気づいた。
さすがに今から助けても死ぬので、今のうちに不意打ちしようかと構えると何かおかしいことにハルトは気づいた。
原因はすぐにわかった。食べられている人間だ。ハラワタをムシャムシャされているのだが、少し経つと傷が治るのだ。まるで巻き戻すかのように。
思わず動きを止めてしまったハルトと食べられていた人間の目が合った。食べられて人間は若い女のようでじっとハルトを見ている。
彼女の口が動き掠れた声が聞こえた。
「こ、殺して…………」
ワイバーンは女の傷が治るのを理解したのか、わざと治るのを待ってから食べている。彼女からしたらたまったものではないだろう。どれだけ痛く苦しくても死ねず延々と食べられ続けるのだから。
再び彼女の口が動いた。しかし今回は声が出ず、パクパクしているだけだ。だがハルトにはわかった、わかってしまった。次の瞬間、ハルトは凄まじい速さで飛び出した。
彼女は早く死なせてと言ったのだ。その言葉を理解した瞬間、体が勝手に動いていた。
ハルトは飛び出すと同時に『リミットブレイク』を発動させる。なぜハルトがダンジョン攻略ボーナスで『リミットブレイク』を取ったかと言うと、カースフォルムの使いどころが限定されるからだ。カースフォルムは公衆の面前では使えない。いくらこの世界の住人がどうでもよくてもまったく関わらずには生きていけない。なので人の目があるところでは『リミットブレイク』を使う。
一瞬でワイバーンに肉薄すると、背中に剣を突き立てた。ハルトが現在装備している剣はダンジョンでドロップしたゴブリンの剣だ。名前にエリートと付くだけあってそこそこ良い性能である。
「ギュアアアーーー!!」
ハルトはエリートゴブリンソードを手放し、距離をとる。ワイバーンが怯んだ隙にストレージを操作して、アゲインストから貰った大剣を取り出す。大剣の名はグラム。地球でも有名な魔剣の名前だ。大きさはハルトの身の丈に迫るほどの大きさだ。
「オラァ!!」
ハルトは跳躍すると空中で一回転して、その勢いをもってグラムをワイバーンの首筋に叩き付けた。
ワイバーンは断末魔の声もあげれずに首ちょんぱされた。
「ふう」
ハルトは『リミットブレイク』を解除した後、顔をしかめた。反動による疲労ではなく勇者を思い出したからだ。赤い光を見ると勇者が頭をちらついてイライラする。
ハルトがダンジョン攻略ボーナスで『リミットブレイク』を取った理由に勇者達へのわだかまりがないといえば嘘になる。ハルト本人は自覚していないが。
「さてと」
頭を切り替えて女を見ると、彼女もハルトを見ていた。咄嗟に助けちゃったけどどうしようとハルトが内心困っていると、彼女の方から話しかけてきた。
「……な、なんで助けたんですか?……」
彼女の目は死んでおり、生きることへの絶望が伝わってきた。
ハルトは返事に困った。だが咄嗟に助けてしまったが、本当はわかっていた。なぜかは知らないが自分と同じ再生能力をもっている。それだけでほっとけなかったのだ。
「なんとなくだ」
返事をぼかし、彼女を観察する。傷は既に治っており、傷跡すらない。そして、彼女の首には首輪がついていた。それは前にカリルカに向かう途中で見た奴隷のものと同じだった。
「お前奴隷か?」
彼女はハルトの言葉にビクッとなりつつ頷く。
「主人はどうした?」
「し、死にました」
辺りを見回すと、生きているものはいなく、死体が散乱している。
「主人が死んだ場合は奴隷はどうなる?」
「さ、最初に見つけた人に所有権が移ります」
「じゃあこの場合はお前の所有権は俺に移るのか?」
「はい、そ、そうです」
ハルトは一瞬瞑目した後、彼女に近づいていく。そして目の前まで移動して、座り込んだ彼女と目線を合わせるためしゃがんだ。よくよく見ると彼女は耳が長い。エルフのようだ。
「お前はエルフなのか? それと名前は?」
「はい、エルフです。名前はク、クリスです」
「わかった。俺はハルト。クリスこれからよろしく」
「え、え? は、はい」
これが不死者と不死者の最初の出会いだった。




