器用貧乏への悪意は突然に
初の実戦を終えたハルト達は二日後に予定されているダンジョン攻略に備えて連携の強化を行っていた。
他の生徒達もパーティーごとに訓練を行っているが第一訓練場、生徒達の間では〝グラウンド〟と呼ばれているが、グラウンドは広いので他のパーティーがどんな訓練を行っているかはよくわからない。
アレクの話だと大きな問題があったパーティーは無いとのことでダンジョン攻略はそのままのパーティーで行われるそうだ。
はてさて、ハルトのパーティーはというと、ハルトが冷や汗を大量にかいていた。
ハルトの冷や汗の原因は菜奈と深雪のジト目である。なぜ二人がハルトにじとーーーとした視線を浴びせているかというと、ハルトが訓練に槍を使っているからだ。
「日向くん、どうして槍を使っているのかな?」
「そうね、確か昨日までは片手斧を使っていたわよね?」
「あ、いや、えーと…」
ハルトは目線をあっちにフラフラ、こっちにフラフラとさ迷わせている。
「そもそも昨日の戦闘は剣を使ってたよね?」
「どうしてコロコロ装備を変えるのかしら?」
「あのー、そのー」
じとーーーーーー
「わっ、わかったわかったよ。話す、話すから」
はぁっとため息つきつつハルトは計画について話し始めた。
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「へえー! すごいね!」
「ちゃんと考えてたのね、安心したわ」
「褒められてるのかなこれは?」
菜奈は素直に褒めている気がするが深雪はホッとしているような感じだ。まあパーティーメンバーが謎の行動してたら心配にもなるだろう。
「でも、このことは内緒にしてくれよ」
「え、どうしてかな?」
「わざわざ自分の手札をばらす気は無いからね」
「でも計画のことを教えればみんなだって…」
「俺の計画は穴だらけなんだ。スキルModでの強化なんてスキル熟練度が低い間しか使えない。俺は熟練度が上がりづらくなるからね」
ハルトの話を聞いて菜奈は納得がいってない様子だがなんとか了承してくれた。深雪は特に口出しする気は無いようだ。
ハルトは自分で言っていて暗い気持ちになってきた。しょせんハルトの計画は一時しのぎにしかならないとわかっているから。
翌日、ハルトは朝早くから訓練をしていた。槍スキルをダンジョン攻略の日までに熟練度50まで上げておきたいからだ。
一人黙々と槍を振っていると兵士が数人歩いて来た。
兵士と会うことは珍しくもなんともないが、兵士の中にはハルトのことを快く思っていない兵士もおり、歩いて来た兵士はまさにそれだった。
普段なら嫌みの一つや二つを言って通りすぎるが今回は違うようだ。
「おい見ろよ。器用貧乏さんが訓練していらっしゃるぞ」
ばかにしたように話しているのはジェイクという騎士で、彼は召喚された勇者達を嫌っており、その中でもハルトが特に嫌いだった。
ハルトが特に反応を示さないことにジェイクは頭にきた。しかし表だってケンカをふっかける訳にもいかないので建前を使う。
「一人で訓練するのも味気ないでしょう。私と模擬戦をしませんか?」
すかさずまわりの兵士達が同調する。
「それはいいですね。さすがジェイクさん」
「本当にジェイクさんは騎士の鏡ですね」
「素晴らしいアイデアです」
ハルトは内心舌打ちしつつもこれで断れば後でどんな厄介事に巻き込まれるかわからないので受けざるを得ない。
「…よろしくお願いします」
ハルトが了承するとあれよあれよと言う間に準備が整った。
「ルールは簡単だ。スキルも魔法も何でもありだ。勝敗はどちらかが降参するまでだ」
「わかりました」
ジェイクは両手剣を装備している。騎士団に所属しているのでレベルは低くはないだろう。
ハルトはバスタードソードを腰にさげて、槍を構えている。
「ケガについては心配すんな、回復魔法で治してやるからな」
だんだん言葉使いが荒くなってきている。もう敵意を隠す気も無いようだ。
「行くぞ!!」
ジェイクが一直線に間合いを詰めてくる。騎士というだけあってハルトより動きが速い。
ハルトは槍を構えてASを発動させる。
槍AS『シングルスティング』
ただ真っ直ぐに突くだけの技だがASとあって、普通に突くよりスピードや威力は高い。
「うりゃっ!!」
ハルトの突きは簡単に避けられた。
「あん? そんなもんか?」
ギィン! ギィン!
ジェイクの攻撃にハルトは防戦一方になる。ハルトが槍を使っていたのは熟練度を上げるためなので、大きく間合いを取って槍を捨てる。
「なんだ槍はおしまいか?」
ハルトはバスタードソードを抜き、正面から突っ込む。
ハルトの攻撃はジェイクに簡単に避けたり、受け止められているがかまわずに攻撃を続ける。
「槍よりはマシって感じか」
キン!!
「っ!!」
完璧に弾かれ、ハルトの体勢が崩れる。
ドッ!!
ジェイクの蹴りで吹っ飛ぶハルト。
「ぐっ…」
体勢を立て直して魔法の詠唱に入る。
「理を越えし力よ、我が内なる魔力を糧に燃え盛る炎の…」
「遅せえよ!」
ドッ!!
またジェイクの蹴りが決まる。
「ぐ、がはっ」
「バカかお前。この距離でチンタラ詠唱する暇があるわけねーだろ」
「く、くそっ」
「まだだぞ、おら!!」
その後も手も足も出ずボロボロになるハルト。
キン!!
ハルトがジェイクの剣を受け止め、鍔迫り合いになる。
「意外と頑張るじゃねーか。ま、勝負は見えてるがな」
「ま、まだだ!!」
ハルトがバスタードソードにほんの僅かな魔力を流すと刀身に稲妻が流れた。良く見れば刀身に小さな魔方陣が浮かんでいる。
「なっなんだ!? グアッー!!」
稲妻はジェイクに直撃した。さすがに効いたようだ。
しかし、すぐに距離を取られた。
「やるじゃねーか。そういえば刻印魔法が使えたんだったな」
「一応切り札のつもりだったんだけどな…」
「調子に乗ってんじゃねーぞ、ガキが!!」
ジェイクの攻撃が勢いを増し、ハルトは防衛もままならなくなった。浅い切り傷が増え始めて、疲労も溜まってきた。
そして遂にハルトは膝をついた。
「はぁ、はぁ。降参だ」
ドカッ!!
ジェイクの蹴りが土手っ腹に決まった。
「な、なにすんだ! 降参しただろう!?」
「あ、知らねえなー」
ジェイクの顔が醜悪に歪む。
「生意気に俺に一撃いれやがって、くたばれおら!」
「ぐっ!」
兵士達にも蹴られ、ジェイク達が満足したころには複数箇所骨折して酷い有り様だった。
回復魔法でケガは治ったが王国に対する不信感はうなぎ登りだ。
「くっそ! 好き放題やりやがって」
去り際のジェイクの笑い声を思い出してイラッとくるが、回復魔法で治って証拠がないのでどうしようもないだろう。
「けど良いこと思いついたぞ。覚えてろよ…」
今回ジェイクに一撃いれた刻印魔法は実験のつもりだったのだが思いのほか使い勝手が良いことが判明した。
短所は一回しか使えないことと、刻印するのに短くない時間がかかることだ。戦闘中に刻印するのは無理だ。
刻印魔法は空中に描いてその場で発動させるものと、武器等に描いて微弱な魔力を流して発動させるものの二つがある。
前者は今のところ役に立たないが後者は使い方によっては役に立つだろう。
転んでもただでは起きないハルトはダンジョン攻略に向けて秘策を練るのであった。




