表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『悪夢の研究』と『今は無き国』  作者: 橋本 直
第十六章 暴走が予想されていた人物

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/206

第91話 東和遼南人協会

 端末に集中しようとした誠の視界に、島田が久しぶりに見る整備班員のつなぎ姿で廊下を見ながら部屋に入ってきたのが見えた。隣にはサラがニヤニヤ笑いながら廊下の騒動を眺めているのが見えた。


「ベルガー大尉。あれ、何とかした方が良いですよ」 


 そう言って島田は隊長室の辺りを指差す。誠が島田が開けたドアの向こうをのぞき見るとそこにはかなめとかえでがいた。かえではかなめにしがみつきながら泣いている。ドサクサ紛れに胸を揉む彼女の手をかなめは思い切りつねり上げている。


「お姉さまー!お姉さまが解雇なら僕もー!」


「だから違うって言ってるだろ!人の話を聞けよ!」


 叫ぶかえでをかなめはなんとかたしなめようとする。その隣ではその様をかえでの補佐役である渡辺リン大尉が無表情のまま黙って二人を見つめていた。その異常な光景に誠達はただ唖然としていた。


「まあ……あれは一つのレクリエーションだからな。これからはああいった光景を見ても美しい姉妹愛と言う風に思いこむことにしよう」 


 カウラは自分に言い聞かせるようにそう言って冷ややかな目を騒動の本人達に向けていた。


「どうなんだ、そっちは?」 


 ひとたび呆れたようにそのまま席に戻ったランが島田に声をかけた。頭を掻きながらかなめ達の騒動を見つめているサラを振り返ると諦めたような笑みを浮かべた。


「どうもねえ。口が堅い人が多いのか、それとも本当に何も知らないのか微妙なところでしてね。とりあえず今日は独自のルートで捜査するからって茜お嬢さん達は出かけたわけですが……また厚生局ですよ。どうせ門前払いを食らってお終いってところじゃ無いんですか?背後に遼北をちらつかせて……連中も手慣れたもんですよ」 


 明らかに煮詰まっているのがわかって誠も島田に同情した。


「アタシ等も第三者に監視されている状態だしな。どこかの馬鹿がかなめみたいに状況にいらだって動いてくれると楽なんだけどなー」 


 始末書の作成を終えたランが苦笑いを浮かべながらそう言った。


「不謹慎な発言は慎んでください。一応、ここも司法執行機関なんですから。犯罪を誘発するような発言をされては困ります」 


 ランの言葉にカウラが慎重にそう突っ込んだ。それを見て舌を出すランを見て誠は萌えを感じていた。


「でもこの監視している画像を撮った人は何者なんですかね。何かを見せたかった……そしてわざと流出させた。そうとしか思えないんですけど」 


 誠の言葉にランは覚えが無いと言うように首をひねった。実働部隊の詰め所のドアにはようやくかえでを引き剥がしたかなめが息を荒げて部屋に入って来た。


「それか?出所は在東和遼南人協会のサーバーからのアクセスだそうだ」 


 そう言ってかなめは詰め所に押し入った。誠達もそれに続く。かなめに逃げられたかえでは廊下で指をくわえてかなめに熱い視線を送っていた。


「在東和遼南人協会。初めて聞く名前ですね。それってどう言う組織ですか?」 


 誠の何気ない発言にカウラが失望したようにため息をつく。


「遼南内戦で敗北した共和軍の亡命者が作った団体だ。主に構成員は前政権の官僚や軍の関係者が多かったが、最近では遼皇帝即位後に叩き潰した遼南東海州の花山院軍閥の関係者が多いな。一時期の人民党の圧政や経済の混乱で発生した難民の相互利益の確保を目的としていると言うのが建前だが実際のところは現政権の悪口を喧伝して回っている暇人の集団だ」 


 カウラの言葉にかなめが苦々しげにさらに話を続けた。


「表向きはそうだが実際には裏ルートでの租界の物資の流通を管理していると言う話もある……まあ胡散臭い団体だな。近藤事件でも非合法物資の売却で得た資金のロンダリングを一部を近藤中佐に頼んでいた資料はお前も見てるはずだから覚えておけよ」 


 その言葉でようやく誠も親甲武系のシンジケートの中にその名前があったのを思い出した。


「でもなんでそこの関係者がこんな画像を撮れたんですか?確かに遼帝国には法術師が沢山いるって話を聞きますからそのなんとか協会の関係者が法術師であってもおかしいことは何もないのですが……」 


 誠の言葉にランは心底呆れ果てたと言う顔をしてため息をついた。


「サーバーを使ったからってこのビデオの撮影をした人間が在東和遼南人協会の関係者とは限らねーだろうが。そのくらいのことは考えろ?良い大学出てるんだろ?自頭はいいならただサボってるだけ。もっと頭を使う訓練をしろ」 


 キーボードを叩きながらランが突っ込んだ。


「無関係では無いとは思うが少なくとも技術部の士官にそのサーバーを介して情報を流す意図を持った人物が、アタシ等の監視をしていることを印象付けたかったと言うことは間違いないだろうな。大体、そんな誰にでも分かるようなサーバーを通して情報を送ってくる意味が分からねえ。恐らく在東和遼南人協会自体はこの撮影者とは無関係だ」 


 かなめはそう言って自分の端末の画面を開いた。かえでもあきらめたようにようやく自分の席に戻って訓練メニューの消化報告書の作成に入った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ