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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『悪夢の研究』と『今は無き国』  作者: 橋本 直
第十四章 官庁街と租界

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第82話 わずかな成果と呼べるもの

「携帯端末、持ってんだろ?それを出してみろ」 


 かなめの言葉に茜の隣のラーナが素早くかばんから比較的モニターの大きな端末を取り出す。その後ろに島田とサラが移動してのぞき込む格好になった。誠はアメリアが取り出した端末をのぞき込んだ。


 画面には租界のうどん屋で三郎と呼ばれた男の画像とデータが表示されている。


「この男、本名は志村三郎。東都の人身売買組織の一員だ。これまで営利目的誘拐容疑で三度、人身売買容疑で二度逮捕されているがどれも証拠不十分で起訴は免れている。まあ、どこで金をばら撒いたのか知らねえが、嫌疑不十分と呼ぶには証拠が揃いすぎてるようなヤバい事件だったらしい。それが今では最近かなり羽振りが良いらしいや。羨ましいもんだ」 


 そう言うとかなめはタバコを取り出して火をつけた。画面はすぐに東和でも有数の指定暴力団のデータに切り替わった。


「大物が出ましたわね。恐らく金の出どころはこの人物……志村三郎に塀の中に居てもらわれては困る人物と言うことですわね」 


 苦々しげに茜がつぶやいた。その言葉に不敵な笑みを浮かべるとかなめは話を続けた。


「志村三郎関係のどの事件でも共犯者には東都の暴力団の組員が手配されてる。まあ東都の中に商品を運ぶとなれば協力者としては最適の相手だからな。関西の対抗暴力団との絡みも考えられるが、この世界は一度裏切ったら命の無い世界だ。となると道は一本しかねえ。簡単に金の筋は探れるだろう」


 かなめはあっさりとそう言って茜の顔を見た。


「分かりました。東都警察の暴力団対策室に連絡を取ります」


 茜はそう言って素早い反応を見せた。 


「でもこれは臓器取引とか売春組織なんかの関係の取引でしょ?法術の研究なんて地味で利益が出るかどうか分からないようなことやくざ屋さんが協力してくれるのかしら。法術はむしろ軍関係の方が怪しいわよ。法術を使うとしたら戦場……その方が効果的なのは誠ちゃんが証明してるもの」 


 皮肉るようにアメリアがつぶやくが、タバコをくわえたかなめはただうつろな瞳で天井に向けて煙を吐くだけだった。


「まあな。だからあたしは直接あの男のところに出向いたわけだ。アイツが暴力団相手の臓器売買程度で満足する器の男なのか、それとも軍やそれに近い組織に近づいて法術研究の実験体の供給に関わるところまでの野心を持った男なのか計るためにな」 


 その言葉に誠は疑問しか感じなかった。そんな誠をちらりと見たかなめだが、後ろめたいことでもあるとでも言うように目をそらして、タバコの煙を食堂の奥へと吐いた。


「それで西園寺はどう見たんだ?」


 カウラはかなめの三郎が何処までの男と見たかを尋ねた。


「どっちかな……あの面は騙されてるって感じかな……取引先の方が一枚上手。租界の中は馬鹿しか住んでねえからな。外の利口に利用されて捨てられるなんて言うのは良くある話だ」


 かなめはそう言って三郎がどうやら直接は今回の事件に関与していないと考えていると言った。


「じゃあ今日はこんなもんか」


 そう言ってランは立ち上がる。


「クバルカ中佐?」 


 誠は椅子から降りてちょこちょこ歩き出したランに声をかける。


「なんだよ!シャワーでも浴びようってだけだよ」 


「お子ちゃまだから9時には寝ないとな」 


 いつもの軽口を吐いたかなめを一にらみするとランは手を振って食堂を後にする。


「じゃあ私も今日はいつも見てる深夜アニメが3本あるから……それにラジオも聞かなきゃなんないし」 


 立ち上がったのはアメリアだった。他の全員が彼女の言うのがチェックしているアニメの数であることを納得して静かに立ち去る彼女を生暖かい視線で見送った。


「ああ、そうだ」 


 そう言ってカウラが立ち上がる。端末を片付けるラーナを見守っていた茜と目が会うと茜も立ち上がった。


「ラーナさん。明日にしましょう」 


「え?もう少し西園寺大尉の情報を……」 


「いいから!」 


 サラもラーナの肩に手をかける。仕方なくラーナはバッグに端末を入れて立ち上がる。


「もう終わりですか?」 


 そう言った島田に茜とサラから冷ややかな視線が浴びせられた。


「かなめさん。少し神前曹長とお話なさった方がよろしいですわよ」 


 茜の言葉にただかなめはタバコをくわえてあいまいに頷いた。それを確認して茜はほほえみを浮かべた。サラは空気の読めない島田を引っ張って食堂を出て行く。


 そしてかなめと誠は食堂に取残された。



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