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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『悪夢の研究』と『今は無き国』  作者: 橋本 直
第十三章 個人的な、あまりに個人的な

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第78話 敵の高貴な姫を汚すこと

「カウラ。そいつは……」 


 かなめの表情が曇る。カウラも自分の言葉がかなめの心に刺さったことに気づいて黙り込んだ。


「そいつは物を知らない、甲武と言う国の構造を知らない人間の台詞だな。一体これまでアタシと付き合って来て何を学んだのか不思議になるくらいだ」 


 相変わらずうつろな瞳のかなめをじっと誠は見つめていた。


「アタシが入った陸軍は親父とは対立関係にあった組織、『官派』の牙城だ。爺さんを三回爆殺しようとしたのは退役軍人の貴族主義活動家ということだが、全員が陸軍の予備役の身分だった連中だ。今じゃ語り草の醍醐将軍のアフリカでの活躍にしても、西園寺家の被官と言う醍醐さんの家柄を煙たがれて僻地に飛ばされたと言うのが実情みたいなもんだ」 


 かなめの抑揚の無い言葉に誠は心をかきむしられる気分がした。周りの計画性の欠如した建物の群れもそんな気持ちに後押しをするように感じられてきた。


「前の甲武の内戦、『官派の乱』のきっかけも、自分になびかない陸軍への政治干渉を狙った親父の挑発に陸軍が乗っかったのが真実だ」 


 そう言うとかなめは窓を開けてタバコを取り出す。いつもなら怒鳴りつけるカウラも珍しくかなめのすることを黙って見つめていた。


「『官派の乱』に負けて外への発言が出来なくなった陸軍の貴族主義的な勢力は、露骨な反政府人事を内部で展開したわけだ。内戦で勝利した陸軍の親父のシンパの醍醐文隆将軍が親父が何度も任命権を発動したにもかかわらずしばらく陸軍大臣に就任できなかったのもすべては陸軍の貴族主義勢力の根回しが原因だからな」 


 かなめの言葉には甲武と言う国の持つ政治の世界の重みと屈折が有る。誠にはそのように感じられた。


「なるほど、『官派の乱』の敗北で頭の上がらなくなった陸軍の『官派』の貴族主義者が民主勢力の旗頭の西園寺義基首相の娘に汚れ仕事を引き受けさせて面子を潰そうとしたわけか……まるで子供の発想だな」 


 明らかにかなめのタバコを嫌がるように仰ぎながらランが言葉をつむいだ。


「でも西園寺公がお前の配属にブレーキをかけるくらいのことは出来たんじゃないのか?公爵家の嫡子が元娼婦なんてスキャンダル以外の何者でもないぞ」 


 カウラの言葉には誠も賛同できた。甲武の貴族制度はもはや形骸になりつつあると言っても長年の伝統がすぐに廃れるはずは無い。誠はそう思いたかった。かなめが見知らぬ租界の成金達にもてあそばれる姿など想像もしたくなかった。


「ああ、でもアタシは志願したんだ」 


 あっさりそう言うとかなめはタバコを携帯灰皿に押し込んだ。カウラはその様子と気が抜けたような表情の要を見るとそのまま車を出した。


「親父さんへのあてつけか?それにしては度が過ぎてるぞ」 


 ぼそりとランがつぶやいた。ドアに寄りかかるようにしてかなめは上の空で外を眺める。街は再び子供達が駆け巡るスラム街の様相を呈して来た。


「それもあるな。『貴族制は国家の癌だ』なんて言ってるくせに法律上の利権だけはきっちり確保している親父の鼻をあかしたかったって気持ちが無いって言ったら嘘になるよ。自分の手で何かをしたい、親父や醍醐のとっつぁんの世話にはなりたくない。そうつっぱってたのも事実だからな」 


 かなめは上の空でつぶやく。その姿はコンクリートの壁など一撃で砕くような軍用義体の持ち主のかなめにしてはあまりにも小さく見えて誠は目をそらして正面を向いて街を眺めていた。冬の日差しは弱弱しく見える。まだ時間が早いのか繁華街にたどり着いたカウラの車の両脇には無人の酒場と売春窟が続く。


 その時ランの携帯端末がけたたましく鳴った。ランは黙ってそれを取り出して画面をのぞき込んだ。


「おう、茜達も仕事が済んだらしい。このまま寮に直帰だ」 


 ランの言葉がむなしく響いた。カウラもランも一人ぼんやりと外を眺めているかなめに気を使って黙り込んだ。誠もこの痛々しい空気に耐えられずに外を眺めた。


 警備部隊は遼北人民軍に変わっていた。だが彼等もやる気がなさそうにカウラの『スカイラインGTR』を眺めているだけだった。


「良いことも無い街だったが、なかなかどうして、アタシの今を作ったのはこの街なのかも知れねえな。こうしてこの街を見ていると生まれ育った甲武の御所より懐かしく感じやがる」


 ぼんやりと窓の外を眺めていたかなめがそんなことをつぶやいた。カウラはその声にはじかれるようにして車のアクセルを踏み込み、大通りへと向かった。


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