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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『悪夢の研究』と『今は無き国』  作者: 橋本 直
第十三章 個人的な、あまりに個人的な

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第75話 暗黒街の人材紹介業

「で?西園寺。アタシになつかしの遼南うどんを食べさせるって言うだけでここに来たんじゃねーんだろ?目的はなんだ?言ってみろ」 


 三郎が席を外しているのを見定めてランがそうつぶやいた。そのタイミングから考えてかなめが三郎目当てでこの店に立ち寄ったことを誠も察した。


「今回の事件の鍵は人だ。そして人を集める専門家ってのに会う必要があるだろ?奴は昔からそう言う仕事をしてた。この街では一度コネが出来ると絶対抜け出せない仕組みになっているから転職は難しい。恐らく今でも似たような仕事をしているはずだ」 


 明らかにかなめは表情を押し殺しているように見えた。その視線が決して誠と交わらないことに気づいて誠はうつむいた。


「確かに確かに。この街で転職は難しいですからね。そう言うことでしょうね。そりゃあそうだ。姐御にそんなに頼りにされるのは悪い気はしませんね」 


 聞き耳を立てていた三郎が引きつるような声を上げた。


「俺は専門家ってわけじゃないですが、今は俺がここらのシマの人夫出しを仕切っているのは事実ですよ。昔も今もおんなじ稼業。でも今は少し立場が上がりましてね」 


 そう言うと三郎はぞんざいに誠の前にコップを置いた。


「人の流れから掴むか。だが信用できるのか?こんな男」 


 手に割り箸を握り締めながらカウラは不安そうに三郎を見つめた。カウラの口調からカウラが三郎をまったく信用していないことは誰の目から見ても明らかだった。だが三郎の視線が自分の胸に行ったのを見てすぐに落ち込んだように黙り込んだ。


「失敬だねえ。一応ビジネスはしっかりやる方なんですよ。外界の法律が機能しないこの租界じゃあ信用ができるってことだけでも十分金になりますから」 


 そう言って三郎はタバコを取り出した。


「こら!客がいるんだ!おとなしくしてろ!それより、できたぞ」 


 店の奥の厨房でうどんをゆでていた三郎の父と思われる老人が叫ぶ。仕方がないと言うように三郎はそのままどんぶりを運んだ。


「人が動く……入り口の通行証の管理もオメエがやってるのか?」 


 受け取った釜玉うどんを手にするとかなめはそのまま三郎を見上げた。


「俺も一応出世しましてね。わが社の専門スタッフが……」 


「専門スタッフねえ、どうせ通行証の偽造を専門でやってる外注の業者の弱みを握って引き込んだんだろ。それにしても舎弟を持てるとこまできたのか。その前にとっととくたばるとアタシは見てたんだが」 


 かなめはそう言うとうどんを啜りこんだ。三郎も二度と同じことはしない主義らしく、今度は誠も無視されずに目の前にうどんを置かれた。


「ああ、そうだ。同業他社の連中の顔は分かるか?信用第一なんだろ?この世界は狭いんだから当然わかるよな?」 


 一息ついたかなめの一言に三郎の顔に陰がさした。そしてそのまま三郎の視線は誠を威嚇するような形になった。


「ああ、知ってますよ。ですがこの業界いろいろと競争がありますからねえ。俺の口から言えることと言えない事が有る。業務上の秘密って奴ですよ」 


 三郎はすっかりここの外の世界のビジネスマンを気取ってかなめにそう語りかけた。


「同業他社の顔さえわかればそれで十分だ。さっきお前の通信端末にデータは送っといたからチェックして返信してくれ」 


 あっさりそう言うとかなめはうどんの汁を啜った。昆布だしと言うことは遼南の東海州の味だと思いながら誠も汁を啜った。


「まじっすか?あの頃だって店の連絡先しか教えてくれなかったのに……ヒャッホイ!」 


 いかにもうれしそうに叫んだ三郎が早速ポケットから端末を取り出した。


「馬鹿なこと言ってんじゃねえよ!これは仕事だ。それにそいつは仕事の用の端末だからな。落石事故かタンカーが転覆したときに連絡するのもかまわねえぞ。アタシのシュツルム・パンツァーで駆けつけてやる。最もこの街特有の銃撃戦はうちでも扱ってるが、それは駐留軍のお仕事と決まってるからアタシ等に連絡されても無事を祈ることくらいしかできねえがな」 


 かなめはそう言って一気にどんぶりに残った汁を啜りこんだ。そんなかなめに三郎は心底がっかりした様子でうどんをすする様子を見つめていた。



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