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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『悪夢の研究』と『今は無き国』  作者: 橋本 直
第十二章 かなめのかつての任務

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第70話 どんな人間でも腐る場所

「カウラ、ちょっと止めな。この車がお釈迦になるのは見たくねえだろ?」 


 かなめは突然そう言った。カウラがブレーキを踏んでまっすぐ行けば港に着くという大通りの路肩に車を止めるとすぐにどこから沸いたのか色の浅黒い明らかに東和人とも遼州人とも違う人種のおそらく地球系の兵隊が駆け寄ってくる。


 その独特の迷彩服は誠には見慣れないものだったが、かなめは一目見て相手の素性を察した。


「南方諸島軍か。でもまあ……見てな、面白れえもんが見れるぞ」 


 都市型迷彩のグレーの戦闘服の袖に派手な赤い鳥のマークの刺繍をつけている兵士達はそのまま銃を背負って車の両脇に群がった。それはカラスがゴミにたかる時のそれに似ている。誠にはこの光景がそんなもののように見えた。


「トマレ!」 


 窓を開けた誠に銃を突き付けて南方諸島の正規軍の兵士は叫んだ。誠は後ろのかなめに目をやるが、かなめもランもただニヤニヤ笑いながら怯えた様子の誠を見つめているだけだった。


「カネ、カネ!トウワエン!イチマン!」 


 どうやらアルバイト気取りの兵士達は通行料を巻き上げるつもりのようだった。ニヤついた笑みを浮かべる兵士がそう言うとかなめは爆笑を始めた。それに気づいた若い褐色の肌の兵士が車のドアに手をやった。壊されると思ったのかカウラはドアの鍵を開けた。


「西園寺さん!勘弁してくださいよ!相手は銃を持ってるんですよ!」 


 そう言ってそのまま引き出された誠は路上に這わされた。そしてすぐに兵士は誠の脇に拳銃があるのを見つけた。そのままにんまりと笑い銃を突きつける兵士とそれをくわえタバコで見ていた下士官が後部座席で爆笑するかなめとランに銃を向けていた。


「ケンジュウ、ミノガス、30マン!30マン」  


 そのままかなめとランも車から降ろされた。下士官は良い獲物を見つけたとでも言うようにくわえていたタバコを地面に投げ捨てた。


「30万円?ずいぶんと安く見られたもんだ。じゃあこれで手を打ってもらおうかな」 


 ランはそう言うと再び身分証を取り出して下士官に見せた。そしてランの左手はすでに拳銃の銃口を下士官の額に向けていた。タバコを吸いなおそうとした下士官の口からタバコが落ちた。彼はそのまま誠の後頭部に銃口を向けていた部下の首根っこを押さえて誠の知らない言葉で指示を出した。


 獲物と思っていたものが獲物どころか自分が獲物になるところだった。そんな事実を知って兵士達は動揺しているようだった。


 話し合っていた兵士が突然銃を背負いなおし、青い顔で誠を見つめた。そこには何と過去の行為を見逃してくれと言うような懇願の色が見ることが出来た。


「カネ、カネ、30マン!」 


 兵士の言葉の真似をして手を出すかなめを見つめると、兵士達は今にも泣き出しそうな顔で走り去っていった。


「良いざまだな。小遣い稼ぎのつもりが逆に同盟司法局にお縄になるところだったんだ。連中もビビるわけだ。ここの駐留軍はどこの国籍の軍の正規軍もここじゃあ夜盗と変わらねえ。良い勉強になったろ?これがここの真実さ」 


 そう言うとかなめはそのままポケットからタバコを取り出して火をつけた。


「でも、南方諸島でしょ?あそこは遼州南半球ではもっとも民主化が進んだ国でそれなりに治安も安定していますし、主要産業は観光ですから……あの兵士達は……」 


 そう言って立ち上がる誠をかなめは呆れた表情で見守った。


「あのなあ、そう言う考えは安全地帯にいる人間が自分はあいつ等と違うと思い込んだときの発想だな。ここじゃあつまらない不条理で、誰もがいつくたばってもおかしくない。そんなところに仕事ってことで放り込まれて頭のタガが揺るがない人間がいるのなら見てみみたいもんだな」 


 そう言ってかなめは周りを見渡した。正規軍との交渉に勝利したと言うような形になった誠達を見て下心のある笑顔を浮かべて近づいてくる租界の住民の姿が見える。


「さっき逃げてった連中。仲間を連れて自分達がしたことの証拠を消しに来るかもしれねえぞ。巻き込まれたら面倒だ。とっととおさらばするか」 


 そう言うとかなめは吸いかけのタバコを投げ捨てて再び車の後部座席に体をねじ込む。誠も慌てて助手席に乗り込んだ。



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