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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『悪夢の研究』と『今は無き国』  作者: 橋本 直
第十章 複雑な大人の事情

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第57話 『廃帝ハド』の影

「渉よ。お前さんはこの面はどこかで見たことあるか?歴史の資料集に出ていた。それはこいつが歴史的人物だった。そう言う意味だろ?そう言う意味じゃなくて、何かの機会に直接であったとか……お前さんもお役人で顔は広いんだから。そう言う機会で見た記憶とかは無いの?」 


 嵯峨の突然の言葉に高梨は首を振った。それを見て嵯峨はにんまりと笑った。


「でもこの写真は兄さんが出したんですよね、その机から。それとも兄さんの机には誰かが写真を放り込むことが出来るようになっているんですか?つまり、兄さんはこの人物について十分知っていると考えるのが普通ですよね?それと歴史の資料集に載ってた人物とこの人物が同一人物だとしたらこの人物は不死人と言うことになりますよ」 


 高梨の言葉に嵯峨が苦笑いを浮かべた。


「そうだな。悪かった。知らないふりをしていたが、さすが兄弟だ。どうやら隠し事は出来ないらしい。それにこいつは歴史上の人物だ。そして不死人なのも間違いない」 


 しばらく嵯峨はそのまま沈黙した。高梨の目は嵯峨から離れることが無い。その沈黙は情けなさそうな顔をした嵯峨に破られた。


「あのさあ、話は変わるけど、気分転換にタバコ吸って良い?この顔見ると無性にタバコが吸いたくなるんだ」 


 緊張した空気を台無しにするためだけの嵯峨の言葉。仕方なく頷く高梨を見て嵯峨は机に置き去りにされていたタバコの箱からよれよれの紙タバコを一本取り出してゆったりと火をつけた。


「俺は元々甲武の東和大使館付き武官で軍人の生活を始めたわけだけどな。最初の三か月だけだけどね。まあ、資料整理ばかりの事務仕事。ああ、事務屋の渉を馬鹿にしているわけじゃ無いよ。それはそれで重要な仕事だ。でも俺には不向きなんだ。俺には片付けると言う習慣が無い。そう言う人間に事務仕事は難しい。そんな面倒な仕事をしている最中に俺はその時偶然この写真を手に入れちまってね」 


 嵯峨は大使館付武官として軍人の人生を始めた過去があった。その時に見つけた資料だと言うが、高梨はその言葉を半分くらいしか信用していなかった。


「偶然?大使館付き武官の任務は情報収集活動ですよね。そんな任務の将校が偶然?むしろ探してたんじゃないですか?その男の顔写真を。その写真が大使館の資料の中から出てくると言う事実を」 


 高梨の突っ込みに嵯峨は再び泣きそうな顔をした。


「そんな人を嘘つき扱いするのか?渉、ひどいじゃないか。まあ当時から一般メディアで出てこないだけで法術の存在は甲武軍もその存在だけは知ってたからな。東和はこの惑星遼州の富と情報が集まる国だ。いろいろあって法術関連の情報を集めていて手に入れたのがこの写真だ」 


 そう言うと嵯峨は同じ男が写っている写真の一枚を取り上げた。そこには軍服を着た長髪の男が部下と思われる坊主頭の兵士に何かを指示している写真だった。


「コイツは遼帝国開国以前の遼帝国の制服ですか……この人物がクバルカ中佐達に喧嘩を売ったとしたらこの顔つき……やっぱり不死人ですか。この制服は三百年前の遼帝国の制服ですよ。……兄さんと同じ不死人?年を取ることも死ぬことも無い。永遠に生き続ける存在」


 三百年前の遼帝国の鎖国解禁は目の前の中年男、嵯峨惟基誕生以前の話である。先ほどの誠達に法術のデモンストレーションをやった人物と同一人物であるならばサイボーグ化でもしていない限り変化の無いことなどありえないことだった。だが法術に耐え切る義体の開発は未だどの国も成功していない。それに人の脳幹の寿命は三百年と言う時間を耐えることが出来ない。目の前の人物は明らかに不死人だった。


「まあね……。だけどこの写真を手に入れて数日後に俺はこの本人に会った。俺もラッキーだったのかそれとも不運だったのか……今こうしてこの椅子に座っているのもその出会いがあったからだ。もしそれが無かったら今でも東都で貧乏弁護士をしていたことだろうな。その方が気楽で良いんだけれど」 


 その言葉に高梨は黙り込んだ。冗談は言う、嘘もつく、部下を平気でだます。そう言う嵯峨だがこの状況でそんなことをするほど酔狂でないことは長い付き合いで分かっていた。


「じゃあ誰かは分かるんですよね。三百年前は例の遼帝国の鎖国解禁のきっかけとなった『廃帝ハド封印紛争』が遼帝国であった時代だ。つまり、その関係者とみて間違いないんですね?」 


 高梨が嵯峨を見つめて話の続きを待つが、嵯峨はのんびりとタバコをくゆらせるだけだった。



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