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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『悪夢の研究』と『今は無き国』  作者: 橋本 直
第四十四章 『特殊な部隊』のお節介な面々

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203/206

第203話 亡き息子のこと

「このたびは私達の捜査の犠牲になられた息子さんの事で見えたのですよね?」 


 応接用のソファーに腰掛けながらかなめはそう切り出した。目の前の老人がおどおどとしている様を見て自分の甲武帝国宰相の娘、次期四大公筆頭と言う身分が恨めしく感じられた。


 老人は相変わらず黙っている。事件の始まりに彼のところを尋ねたときは彼女のそんな素性も知らずにうどん屋の亭主と客と言う関係だったと言うのに、この老人の息子、志村三郎の葬儀で老人が手にしている金色の一億東和円の入金されたカードを渡した時からどことなくぎこちない関係になってしまったことを後悔した。


「いいえ……それよりこれ……なんですけど」 


 金色カードをテーブルに置いてかなめに老人は差し出した。かなめからも老人の瞳には覚悟のようなものがあるのが見て取れた。それはかなめが手渡した銀行口座のカードだった。


「それは一度差し上げたものです。貴族が一度手放したものです。それは受け取れません」 


 かなめはサイボーグなので誠達がこの様子を盗撮していることは電子の脳で理解していた。恐らくこの様子を盗撮していることがかなめにバレていないだろうと思っているカウラ達はこのカードの中身をランから聞いてどよめいていることだろうと想像すると、かなめには苦い笑みが浮かんだ。


「でも……こんなことをしていただくことは……こう見えても私は商売人です。ただ何もせずにこんな大金受け取れません」 


 老人はそう言ってカードを置いたまま黙ってしまった。


「私と三郎さんが付き合っていたのは事実ですから……それに私にかかわらなければ彼はきっと死ななかった。三郎さんが掛けていた生命保険だと思ってください。それならば受け取っていただけるでしょ?」 


 そう言って笑顔を作っているが、老人はただテーブルの上のカードをさらに押し出すために手を伸ばすだけだった。


「私は貴族です。一度差し上げたものを返していただくのは、その主義に反します」


 かなめは頑なに金を返そうとする老人にそう言った。老人は大きくため息をつくとここで初めて正面からかなめを見つめて語り始めた。 


「じゃあ、これを貰えば息子が帰ってくるんですか?三郎が帰ってくるんですか?アレはグレてはいましたが私の最後の息子です。長男は内戦で兵士として死にました。次男はこの国に来るまでの移民船の中で疫病に罹って死にました。最後に残ったのがアレです。これをいただくと奴が戻ってくるんですか?」 


 老人の言葉にかなめは言葉が詰まった。かなめにははじめての経験だが、叔父である嵯峨の前に詰め寄る先の大戦中非人道的作戦に従事し、処刑された嵯峨の部下達の親達の姿でいつか自分も同じことを言われるだろうと思っていた。


 実際にそんな光景をぶつけられて初めてかなめは目が覚めたような気がした。


「知っていますよ。警察の人が来てアイツが何をしていたかはわかっていますから。じゃあなおさらこれはいただけません。人様のものは盗むな。商売は信用が大事だ。弱いものの気持ちを分かれ。いろんなことを教えましたが奴は一つだって守れないままなりばかりでかくなって……」 


 そう言う老人の目に涙が浮かぶ。かなめもようやく諦めてカードに手を添えて自分の手元に寄せた。


「アイツのしたことが許されないことだとはわかっています。命で償うような悪いことだって事も……でも奴はワシの最後まで生き残った息子なのも事実ですから……」 


 老人が似合わない白いジャケットの袖で涙を拭った。かなめは何も言えないまま黙って老人を見つめていた。


「わかりました。これは受け取れないんですね」 


 かなめの言葉に静かに老人は頷いた。ようやく気持ちを切り替えたように唇をかみ締めたまま老人は無理のある笑みを浮かべた。それを確認するとかなめはカードを自分の胴着の裾に仕舞った。



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