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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『悪夢の研究』と『今は無き国』  作者: 橋本 直
第四十三章 かすかな希望が持てる話

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第196話 表に出る話、出ない話

『悪夢のような厚生局違法法術研究事件』と報道された出動から一週間が経っていた。


 事件は翌日に開かれた同盟加盟国首脳の電話会談であっけなく幕を閉じた。


 厚生局に強い影響力を持っていた遼北人民共和国を宗教問題で揉めている相手国西モスレムが厚生局の暴走は本国の指示の下に行われた犯罪行為であり、許すことはできず、同盟加盟国に遼北非難決議を議決するように迫った。


 しかし、ベルルカンの西モスレムに支援を受けている失敗国家が同調する程度でその決議は行われず、逆に厚生局の暴走を示す資料を遼北の盟友ともいえる外惑星共和国連邦の諜報機関が提出したことで西モスレムは振り上げたこぶしの落としどころに困る結果となった。


 遼北はこの機に乗じて、厚生局の暴走は同盟機構の管理不行き届きであり、同盟機構の存在する東和にその責任があると非難を始め、その証拠として東和陸軍が厚生局の違法研究に深く関わっていた事実を上げて東和共和国非難を始めた。


 遼北、西モスレム、東和の対立する中、中立の立場を取っていた甲武国とゲルパルと連邦共和国が仲裁に入り、厚生局再建に当たっては西モスレムが主導権を握ることと、厚生局の違法研究関係者の捜査に西モスレムの司法当局が参加することで会議は終結した。


 結局はこの事件も同盟内部ではよくある同盟内の覇権争いの一つの出来事に過ぎず、当事者として捜査に当たった司法局や同盟軍事機構を称える言葉はどの首脳からも発せられることは無かった。


 そんな政治的な事情とは無関係に『特殊な部隊』はいつものような日常を取り戻していた。


「姐御!早く片付けてくださいよ!」 


 司法局実働部隊のハンガー。並べられたシュツルム・パンツァー達の前で剣道の胴着に身を包んだかなめが叫んだ。誠は目の前のランに正眼に構えた竹刀に力を入れた。


 今日の訓練メニューは剣道だった。誠が剣術道場の跡取りと言うことで始まった剣道勝負もすでに5回目を迎えていた。ラン一人に対して機動部隊第一小隊を中心とした『特殊な部隊』の選抜チーム5人が対決するのだが、これまでの成績はランの全勝だった。


 今回もランの前にすでに先鋒のカウラ、次峰のかなめ、助っ人の中堅アメリア、副将のこれも助っ人の島田が倒されていた。


「ヤー!」 


 雄たけびを上げながら大将を務める誠はさらにじりじりと間合いをつめた。120センチに満たないランである。手にした竹刀も普通のものより二割も短い。だが、運動量を生かした軽快なフットワークでいつも誠はその誠の隙を突いての突然の突進の前に倒れていた。


『間合いを取れば勝てると簡単に考えたのがいけなかったんだな……アウトレンジからの奇襲が得意なクバルカ中佐だ。逆に間合いを詰めれば……』 


 だがランの左右への飛ぶような動きの前に攻撃に集中できない誠に勝機があるわけがなかった。すぐに面の下にランの笑みが広がるのが見えた瞬間、ランは竹刀を誠の長いそれに絡ませて思い切り振り上げた。自信があるはずの誠の握力でも、手にした竹刀が飛ばされるのを防ぐことなど出来なかった。


 そして飛んでいく竹刀を確認してから誠の面にランの一撃が落ちてきた。


「はい!面一本!それまで」 


 正審をしていた司法局実働部隊運用艦『ふさ』火器管制官、パーラ・ラビロフ大尉の声が響いた。もはやランの勝ちが当たり前になって賭けさえ成立しないので無関心な整備員達がやる気のない拍手をランに送った。


「神前!また負けやがって!それでも剣道場の跡取り息子か?『神前一刀流』ってのはお座敷剣法で役には立たないと……オメエのお袋連れてこい。オメエのお袋が姐御に勝ったらそうじゃないと認めてやる」 


 面を取ったばかりの誠の首を飛び出してきたかなめは掴んで締め上げた。


「苦しいですよ!マジで!それに母さんは他流試合はしないんですよ!苦しいです!勘弁してください!」 


 誠の叫びを無視してかなめは誠の頭を振り回した。


「西園寺!テメーも負けた口じゃねーか!もっと善戦をねぎらってやれよ!神前の構えには隙が無かった。アタシはその隙の無い構えの中にも見えるわずかな隙を突いたんだ。褒めるならアタシを褒めろ」 


 あれだけ大勝しておいて息一つ切らさない小学生用の胴着に身を包んだランが笑いながら軽口を飛ばした。


「でもさあ。もう少しやりようってもんがあるじゃないですか。それにアタシだって剣法はお袋からイロハの『イ』くらいまでしか習ってないんですよ。ああ、かえでは相当鍛えられてた……ああ、変なのの事を思い出したら寒気がしてきた。明日までかよ……第二小隊の隣の工場での訓練。明後日にはアレがうちに来るんだ……対策立てておかないとまたセクハラの嵐だ……」


 かなめは剣と言うことで妹のかえでの事を思い出し、そのセクハラに耐える日々を想像して頭を抱えた。 


「デモもストライキもねーってんだよ!アタシに手も足も出ないで負けた奴に神前を攻める権利なんてあるわけねーだろ?じゃあ罰ゲームだ。いつもどおり胴着を着たまま十キロマラソン。ちゃんと身体はほぐしとけよー。それにしても、明後日に第二小隊の人間は来るが肝心の機体が来ねーんだ。まー明後日からはかえでにはオメーへのセクハラを許可しとくから。それで奴にはストレスを解消してもらおう」 


 あっさりとそう言うとランはそのまま更衣室のあるハンガーの奥へと消えていった。


「ったく……神前の馬鹿が。それにクバルカ中佐、なんかもの凄い事言ってなかったか?機体が来ない?予算がねえからか?そのストレスの発散先がアタシって……そうだ、神前に責任は取ってもらおう。アイツはかえでの『許婚』だ。アイツの童貞をかえでに捧げればかえでの矛先はアイツに向く。我ながら良いアイディアだ」


 自己中心的なかなめはすっかりすべての責任を誠に擦り付けることに決めていた。 


「しょうがないじゃないの。相手はクバルカ中佐。剣で暴れたらそう簡単には倒せない相手よ。まあ、誠ちゃんは剣術指南役としていつかは倒さないといけない相手だけど。それと本当に良いの?誠ちゃんとかえでちゃんが結ばれたらこれまでみたいに誠ちゃんはかなめちゃんにかまってくれなくなるのよ。私は反対するわ。かなめちゃんは今まで通りかえでちゃんのセクハラの標的になりなさい」 


 アメリアが意味ありげな笑みを浮かべた。カウラはただいつものこんな穏やかな日常に満足しているように満面の笑顔で誠を見つめていた。


「またかよ……次回はやる気ゼロのアメリアさんじゃなくてサラに頼もうかな、助っ人。パーラさんに頼むのは……勝負弱さは筋金入りだからな……」 


「正人!何で私に振るのよ!パーラの方が強いのよ!アタシなんか瞬殺されて終わり……と言うか誰が相手になってもクバルカ中佐に勝てるわけが無いじゃない」 


 座り込んだまま面をいじりながら誠を見上げていた島田の一言にサラが抗議した。



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