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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『悪夢の研究』と『今は無き国』  作者: 橋本 直
第三十七章 用済みの研究者

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第168話 交わらない会話

「法術特捜の捜査権限で事情聴取と考えて言い訳ね、これからのお話は。法術特捜……存在自体が奇妙な物ね。あの『近藤事件』が無ければ存在していなかった組織。私もあの『近藤事件』がもっと早く起きていたら気が楽だったかもしれないわね」 


 冷たい笑顔で三人を見回した後、片桐博士はタバコに火をつけた。その姿を見たかなめがどこか落ち着かない様子で腰のポケットのあたりに手をやった。


「良いんですのよ、あなたもタバコを吸われるんでしょ?匂いで分かるわ。どうぞ、お吸いなさいな」 


 明らかにいらだっているかなめにそう言うと片桐博士は煙を天井に向けて吐いた。この部屋の主の許可を得たこともあってかなめは安心するとそのままいつものコイーバクラブを取り出し口にくわえた。


「法術特捜の動きまで分かっているということは、先ほどの質問内容について知っていると判断してもよろしいんですね。当然、それは罪になります。厚生局の研究は被害者が存在する違法な研究ですから。貴方は罪に問われることになりますがそれでもよろしいんですね?」 


 念を入れるようにカウラがつぶやいた。タバコをくわえながら片桐博士は微笑んだ。


「今ここで、こんな話をするのは変に聞こえるかもしれないけど。たとえば百メートルを8秒台前半で走れる素質の子供がいたとするわ」 


 その言葉がごまかしの色を含んでいると思ったかなめが立ち上がろうとするのをカウラが押さえた。


「その才能を見抜いてトレーニングを施す。これは悪い事かしら?その子供には可能性がある。未来が約束されている。それをみすみす見逃すなんて私にはできなかった。例えてみればそれだけの話よ」 


 言葉を切って自分を見つめてくる片桐博士の態度にいらだっているように無造作に口にくわえていたタバコにライターに火をともした。片桐博士は目の前の灰皿をテーブルの中央に押し出し、再びカウラの方に目を向けた。


「その能力が他者の脅威になるかどうか。本人の意思に沿ったものなのか。その線引きも無しに才能うんぬんの話をするのは不適切だと思いますが?少なくとも今回の法術師のたどった運命は自滅だった。他にも実験の全段階で失敗に終わった犠牲者も多い。それを考えた時、あなたは良心の呵責と言うものに囚われませんか?」 


 カウラの言葉に満足げな笑みを浮かべた片桐博士はタバコをくわえて満足げに煙を吸っていた。


「本人の意思ね。でもどれだけの人が自分の意思だけで生きられるの?時代、環境。いろいろと自分の意思ではどうにもならないものもあるじゃない。結果が死に終わったとしても彼等には可能性があった。不死と絶対的力の行使。どちらも地球人には考えられない魅力的なものですもの。私達遼州人はその点恵まれているのよ。誰にもこの二つを手に入れるチャンスがある。素晴らしい事じゃなくって?」 


 あてつけの笑み。そして片桐女史は再びウィスキーのグラスに手を伸ばした。誠は黙って上官の二人を見た。


詭弁(きべん)だな。不死?無限の力?命がけで手に入れる価値のあるモノには到底思えねえ。それにさっきのランナーの話に戻るが、百メートルを八秒で走れる奴の上を行く、何を教えなくても生まれながらに百メートルを七秒で走れる奴がこの世には存在したってことはアンタが基礎理論を作った例の化け物が完成した法術師に負けたことで明らかになったんだ。アンタの研究は無駄だったんだよ」


 かなめはタバコをくゆらせながらそうつぶやいていた。カウラもまたきつい表情で一人のんびりとペースを守って酒を口に運ぶ片桐博士をにらみつけた。


「詭弁?でも能力を開花させた暁には栄光が待っているのよ?東和租界のゲットーで朽ち果てるよりよっぽどマシな人生だもの。たとえその実験が失敗に終わってもあの地獄の生活からは解放される。生きていること自体が苦しみの地獄から。立派な人助けをしたと私は思ってるわ。それに研究が続けばいずれは百メートルを六秒で走れるランナーを作り出せるかもしれない。それが科学と言うものなのよ」


「あの化け物が能力開花か?笑わせるね。それに租界は地獄だが。あんな化け物になるくらいならその地獄で朽ち果てた方が千倍マシだ。それにうちには百メートルを一秒もかからずに走れるランナーが『人類最強』を名乗って副隊長をやってる。科学には限界があることを思い知りな」


 かなめはそう言うとテーブルを思い切り叩いた。響いた音に反応するわけでもなく、片桐博士は微笑みながらかなめを見つめていた。


「ともかく所轄が来ます。証言はしていただけますね。貴方の回答次第で厚生局の幹部の罪の量刑が変わってきます。場合によっては遼北と東和との外交問題にも発展するでしょう」


 そう言ってカウラはかなめに手をやると彼女を片桐女史から引き離した。


「あなた達が聞いてくれるわけではないのね……私の話を」


 片桐博士は少しばかり残念だというようにうつむくとグラスの中のウィスキーを一息で飲み干した。誠はその様を見ながら遠くでパトカーのサイレンが響くのを聞いていた。



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