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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『悪夢の研究』と『今は無き国』  作者: 橋本 直
第三十四章 心無き研究者達

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第156話 追い詰められた不死の人

「あれ?今日は帰ったんじゃねえの?」 


「残業ですよ!……班長が居ないから面倒ごとが増えてるんです!」 


 スキンヘッドの整備班の隊員がかなめに向けて叫んだ。彼の軽い敬礼に右手を上げると再びカウラは車を駐車場へ向けた。


「いかがしましたか?お姉さま」 


 車から降りた誠達に声をかけたのはとうもろこしを持った日野かえで少佐だった。先日のセクハラ騒動でランに厳しい叱責を受けたのか、最近はかえではかなめへのセクハラ行為は控えていた。かつては甲武海軍で『斬弾正(ざんだんじょう)』と恐れられた切れ者であるかえでには島田と違って学習能力と言うものがあった。


「今日は暇そうですね。訓練の方は順調ですか?」 


 誠もかえでから『許婚』だと認識されているので、少しこわごわ凛とした姿に似合わないとうもろこしを食べているかえでに声をかけた。


「たまには息抜きもいるものだ。神前君も捜査ばかりしていると疲れてしまうよ。僕のようにたまにはゆとりを持って一日を過ごすと良い。訓練の方だが、こちらは期待してくれていい。これまでのようにお姉さま達だけに頼るようなことは無くなる。僕を頼ってくれても良いんだよ。なんと言っても神前君は僕の『許婚』なんだから」 


 かえではそう言って話しかけてくる誠に笑顔を返した


「島田は先輩はどうしたんですか?隊長室を出てから見ていないんですが」


 誠はとりあえずかえでの機嫌が良さそうなことに安心してそう尋ねた。 


「ああ、彼ならハンガーに向かった。彼は疲れを知らない体だからな。実は僕にも若干だが、身体回復能力がある。だから、お姉さまにいくら激しく鞭打たれても次の日には傷が消えてくれるんだ。便利なものだろ?」 


 かえでの特異体質がおそらく法術のもたらすものなのだろうと誠も察することが出来た。カウラは隣に立っていたアメリアに目を向けるとそのままハンガーへ向かった。


「しゃあねえなあ。島田の奴を放置しとくと何をするか分かんねえかんな。アタシが言うのもなんだけど、アイツにはもうちょっと冷静さが必要なんだ。今の時期は特にそうだ。捜査が行き詰っている時はそれなりに待つってことも大事だってことを覚えるべきだな」 


 かなめもカウラ達が歩いていくのを見て誠もハンガーを目指した。


 グラウンドの前に立つシュツルム・パンツァーを待機させているハンガー。誠達は沈黙に支配されている夕闇が近づくハンガーを覗き込んだ。


「あ、ベルガー大尉」 


 兵長の階級章の整備員がカウラを見て敬礼する。その敬礼を返しながら静かなハンガーをカウラ達は見回していた。


「居ねえなあ。どこに隠れやがった?この忙しい時に気分転換にバイクをいじってるとか言ったら射殺してやる」 


 かなめはそう言いながら東和陸軍の標準色の誠の機体に目をやりながら奥の階段に向かった。


「いくら島田君が馬鹿でもそんなことはしないでしょ。どうせ先に行ってるのよ。ひよこちゃんの話を聞くなら第一会議室がやはり一番機密性は保てるでしょ?多分そこよ。島田君はこの建物に一番長い時間居る人だから良く知ってるのよ」 


 アメリアは後ろに続く誠にそう説明した。いつもならもっと活気にあふれているハンガーが沈黙していたのはそこに島田がかなりの剣幕でひよこをつれていったと言うことを暗示していた。そう彼女には思えているようだった。


 管理部は主計担当の菰田がいないので私服で上がってくる誠達を気にするはずも無く、隣の実働部隊の詰め所ではかなめを心配そうに見つめるかえでの姿があるだけだった。


 取り出したセキュリティーカードでセキュリティーの一部を解除した後、カウラが網膜判定をクリアーしてセフティーの完全解除を行った。そうして開いた司法局実働部隊の情報分析スペースである会議室の中にはひよことそれを監視する島田の姿があった。


「ああ、おそろいなんですね。島田、何か妙なことを神前軍曹にしていないだろうな」


「え?俺がひよこに何するって……」 


「私は島田さんには何もされてませんけど……」


 振り返ったひよこに頭をかきながら正面に座るのはカウラだった。カウラの質問に答える島田はやはり『絆』を優先するヤンキーであることを誠にも理解させた。


「基礎理論の研究者のお話なら私も入りますけど。私は今回の研究に関しては何もしてませんよ」 


「なにか?何かをするつもりはあったってことか?でも、ぽわぽわポエム娘にあんな化け物を作り出す理論が作れるとは到底思えねえけどな」 


 ニヤニヤ笑うかなめに島田は硬直したように静かに視線を落とした。


「まあ茜ちゃんを待つ必要も無いでしょ。私達が来た理由は島田君から聞いてるでしょ?」 


 アメリアの言葉にひよこは頷くとそのまま端末に手を伸ばした。


「確かに今回の研究と関連する論文を書いている研究者はそう多くは無いんです。地球人に無い能力を遼州人が持っているということになれば混乱は必至ということで、ほとんどの研究発表は秘密裏に行われていたから。法術師について学んだ時にはオカルト信者と仲良くやれって言われたこともあったくらいです。もっとも誠さんが『近藤事件』であれだけ派手にアピールしたおかげで今や人気の研究テーマですから。どこにでも相当研究費を出したい人達がいるらしいですけど……」 


 そうつぶやきながらひよこのか細い指が器用にキーボードを叩いた。


「しかも、今回のあの可哀そうな女の子が変化した化け物が展開した干渉空間と彼女の体質の不死に関することの基礎理論を研究していた研究者となるとさらに絞られてきます。特に不死については研究自体が禁秘(きんぴ)の領域に近いですから研究者の数自体が少ないんです。それに不死の研究者はそれを専門でやっている人が多いですから、それ以外の能力を同時に発生させる理論を確立している研究者となると容疑者はかなり絞られてきますね」


 キーボードを叩きながらひよこは丁寧に説明をした。そして画面には顔写真つきの資料が並ぶ。三人の比較的若い研究者のプロフィール。誠達はそれに目を向けていた。


「茜さんの資料と東都近辺に勤務している法術の特に干渉空間展開と不死の同時に研究している基礎理論の研究者と言うことで絞り込むとこの三人になります。全員若手の法術研究者としてその筋では知られた顔なんですよ」 


 そう言って笑うひよこを無視して誠達はそれぞれの個人の携帯端末の三人の情報を落とし込んだ。


「若いってことは野心もあるだろうからな。人間を研究する法術関連の技術開発だ。金はいくらでも欲しいだろう。厚生局が目をつけるには最適の人物だ」 


 かなめはそう言うと三人の顔を表示させて見比べていた。めがねをかけた細身の四十くらいの男。三十半ばと言う美人とはいえるもののどこか目つきの悪く感じる女性研究者。少しふけて見える生え際の後退した男。


「この三人の人となりは警部が来てからでいいか?」 


 そう言うと再びひよこは端末に手を伸ばした。その次の瞬間部屋のセキュリティーが解除されて茜が姿を見せた。


「おい、無用心だぞ。アタシの端末にもオメー等の情報が落とし込まれているぞ。少しは配慮ってものをしろよな。もしこの端末に厚生局の情報管理室の枝でもついてたらどーする。厚生局の連中に基礎研究の研究者がガードされたらこの捜査は終わりなんだ」 


 苦笑いを浮かべた子供の様に見えるランがそのまま彼女の小さな体には大きすぎる椅子に登るのを萌えながら誠は見守っていた。


「そうはいいますが神速が必要な時期ですよね。慎重も過ぎると手柄を取り逃して本当にここをやめることになっちまいますよ」 


 そう言ってかなめは平然として三人の顔写真から目を離そうとしなかった。



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