121.広い世界
ミブロはどうやら氷鬼に命を握られているようだった。
私は彼女にかけられた呪いを解くため、倒すことにした。
「…………!」
ミブロが三段突きを放ってくる。
離れた場所にも大穴を開けるほどの、強烈な突き技だ。
だが私はその攻撃を見切ってギリギリで避ける。
「すげえ……おっさんあいつの突きみえてるのかよ!?」
「いえ、見えてませんよ」
見えない刀身からはなたれる、神速の突き。普通なら交わせないだろう。
「あなたの弱点は、攻撃が正確すぎることですね」
「正確……?」
「あの子は、人体急所を的確についてきてるのです」
頭、心臓、そして……みぞおち。
その三箇所を狙った突きを放ってくる。
……逆に言えば、そこにくるとわかっていれば避けるのはたやすい。
「そうか、被弾位置がわかってるなら、そこをガードなり避ければいいわけだな! さっすがおっさん!」
私はミブロに接近する。
ミブロは三段突きを放ってくる。だが、そのすべてを私が避ける。
……避けながら、私は思う。
彼女は【相手を殺すことにこだわりすぎてる】と。
だからこそ、敵に攻撃箇所を見切られてしまう。
やがて、私は彼女の目の前までやってきた。
「くそぁあああああああああ!」
ミブロが放つのは、やはり三段突きだった。
よほどこの技にこだわりがあるのだろう。それはいいことだ。だが……。
パァンッ……!
私は彼女の突きに対して、胴を放つ。
彼女の持っていた刀の刃が粉々に砕け散ったのがわかる。……なるほど。
「極薄の刃、ですか」
薄氷のごとく薄い刃をした刀だった。
これなら、相手に間合いを把握されにくいだろう。だが。
「貴方の得意技とは相性が悪いですね。レイピアなど使うのどうでしょう?」
「…………」
「おや、どうしました?」
ミブロがうつむいている。
「……殺せ。ぼくは、負けた。負けた武士は、死なねばならない」
……なんだそれは。
「そんなの誰が決めたのですか」
私は木刀を振り上げ、そして彼女の頭を横になぐりつける。
パァン!
「男女平等パンチだ! ミブロの頭パァンしたぜ!」
「パンチじゃないですよ。頭も無事です」
私の木刀は確かにミブロの頭に一撃を加えた。
だが彼女は無事だ。
「この子の頭のなか……脳ないに呪いが埋め込まれていました。それを、木刀で破壊したのです」
一流の剣士はどんなものでもきれる。
逆に言えば、斬る斬らないも自由自在ということだ。
私は相手の闘気の流れを見て、相手の体調をしらべることができる。
闘気の流れから、脳内に呪いがあることがわかった。あとは呪いだけに絞って、斬撃を放っただけである。
「すぅ……はぁ……よし!」
古竜がなんだか深呼吸をする。
大きく口を開くと……。
「ありえない……なんだその剣は。頭部に傷つけることなく、一撃を食らわせるなんて……おかしい……」
ミブロが呆然とつぶやく。
「それはあくまで、貴女の知ってる狭い世界でのことでしょう? 世界は広いのです。ここは異世界なのです。このように、木刀で呪いを切ることだってできる人はいるのです」
ミブロは何か言いたげだった。でも、黙ってしまった。ふむ……。
「おれの……唯一のアイデンティティが、うばわれたぁあああああ……!」
古竜が頭を抱えて叫んでいた。
この子のように、思ったことを口にしてもらった方が、楽なんだけどな。




