精霊さまと女の子
「え?要の奴が女の子と歩いてた?」
ある日のお昼休み、今日もいつも通りにこの教室には七瀬さんと如月さんがやってきていた。
七瀬さんは私の言った言葉を聞くと驚いた表情をして、先程まで口元に付いていたパックジュースのストローを口から離した。
「はい…昨日の放課後なのですが少し買い出しに行こうと近くのスーパーに向かっていた時に、女の子と腕を組んでいた月城さんの姿を見かけまして…」
「はぇ〜要のそう言う噂は昔から一切聞いたこと無かったからびっくりだわ。で、その女の子の姿とは見たの?」
「しっかりと見ました。少し青みがかっているような黒髪で長さは肩辺りまであり、恐らく中学生と思われる制服を着ていました」
「…ほ〜なるほどなるほど」
七瀬さんは少し目を閉じて右手を顎に当て、何かを考えるような体勢を取っている。
正直、私も月城さんとはかなり距離も近くなってきたと思っているし、ただの友人と言う関係よりかは少し先を行っていると思っている。
だからこそ昨日のあの女の子が一体誰なのかというのが気になってしょうがないのだろう。
「そうだね〜…そうだ!昨日は珍しく要に一緒に帰るのを断られたんでしょ?」
「は、はい。帰る先が同じなので普段は当然のように一緒に帰っていますが、昨日は珍しく「一人で帰っておいてくれ」と言われました」
「ということはあいつがその女の子と会う時は必ず「凛ちゃんからの誘いを断る」時、だったら次に断られた時に尾行すればいいんだよ!」
「び、尾行…ですか?それは少し悪い事だと思うのですが…」
いくら月城さんが優しい方だと知っているとしても、後をつけてプライベートを勝手に覗き見るのは良くないことだというのは変わらない。
と言ってもその女の子の正体が一体誰なのか、というのも自分の勝手な感情だけれど絶対に暴かなければいけない…。
「…七瀬さん、私月城さんの後をつけてみます」
「お、尾行するんだね、頑張れ!」
「はい!」
私は月城さんとその女の子との関係性を明らかにする為に、月城さんを尾行する事を決意したのであった。
「…なぁ伊織」
「ん?どうしたの蒼真」
「涼風さんと言ってる「中学生で黒髪の女の子」ってまさかさ…」
「まぁ〜分かっちゃうよね。でもちょっと面白いから凛ちゃん泳がせてみよ」
「…いい性格してるな」
「お褒めに預かり光栄です」
× × ×
じ〜
私は今、駅前で何やら人を待っている様子の月城さんを建物の角から観察している。
今日もまた帰る約束を断られ、そそくさと一人で先に帰ってしまったので放課後の月城さんを尾行する事にしたのだ。
「おまたせ〜!!」
「遅いぞ。約束の時間に10分も遅刻だ。」
「許してよ〜」
建物の角に隠れながら、あの女の子は一体誰なのだろうと考えていると、携帯を見ながら待っていた月城さんの元に一人の女の子がやってきた。
その女の子をじっと見ると、この間見た通りの黒髪ロングで中学校の制服を着ている女の子だった。
(凄く親しげに話しているから本当に恋人なのかな?)
私は女の子と一緒に歩いていく月城さんの後をつけて歩き始めた。
× × ×
「ねぇ〜あのぬいぐるみ取ってよ〜」
「はぁ?自分でやって取ればいいだろ」
「え〜そんなこと言わずに〜UFOキャッチー得意でしょ?」
月城さんと女の子は駅前から近くのゲームセンターへと移動した。
ものすごく楽しそうに女の子と遊んでいる月城さんの様子を見ると、なんだかチクチクと胸が痛くなったような気がする。
何故こんな気持ちになるのかは分からないけれど、今は月城さんを尾行して正体を暴くしかないのだ。
「お〜凛ちゃん、本当に尾行してるじゃん」
「ひゃあ!」
「うぉ!し〜、バレちゃうよ!」
私は後ろから話しかけられ、驚いて後ろを向くと七瀬さんが片手で私の口を押さえ、もう片方で人差し指を口元に当てて「シー」としていた。
「いや〜用事がだいぶ早く終わってねぇ〜凛ちゃんが本当に尾行してるのかなって思って駅前から探してたんだよね。そしたらビックリ、ゲームセンターで物陰に隠れて人を観察してる凛ちゃんを見つけたのだよ」
「そういう事ですか…びっくりした」
実は、今日月城さんから帰りに「今日は用事があるから一人で帰ってくれ」と言われたので尾行をしようと七瀬さんを誘ったのだが、今日は用事があるという事で私一人で尾行をする事になっていたのだ。
「んで、知りたかった事はわかったの?」
「それが確証まではまだ…でもあの女の子は月城さんにとって大切な人ということは確定のようですね」
「ん〜そっかそっか〜でもまだ確定するには早いと思うからもう少し尾行して情報を探ってみようね」
「は、はい!」
「…涼風、そんなところで何をしてんの…」
「へ?」
私の名前を呼んだ声の方向に体を向けると、そこには月城さんとあの女の子が立って私の方を見ていた。
「…あちゃ〜バレちったか〜」
私はどうにか言い訳を考えていたのだが、一切この場で使えるような言い訳が出てこない。
なのでもうこの際諦めて本当の事を聞こうと思い、私は思い切って月城さんに尋ねることにした。
「…えっと…その月城さんの横の女の子は一体…」
「ああ、こいつは俺の『妹』だ」
私はたった今、とんでもない勘違いをしていたのだと一瞬にして悟った。




