青年期 二一歳の冬 四六
とことん性癖がねじ曲がっているか、ボスに辿り着かせたくないDMでなければこの迷宮は作り出せまい。
私達はまたもや分断されたので、堂々と叫んでやる。
「ネタが尽きたなら尽きたって言わんかクソGM!! 連携させる気がないなら一党で挑ませんな!!」
天丼、しかも三回目の上に三連続。最早ゆるさぬ。
しかし、その響きは真面に私の耳を揺らさなかった。
合成音声とでもいうのだろうか、男のような女のような、子供のような老人のような、何とも判別し難い、いや人語とも理解できない響きが溢れるばかり。
しかも、体を見下ろせばのっぺりとした衣装飾り人形めいた物ばかりが目に浮かび、自分が自分でないようだ。
頼り甲斐のある得物だけが腰にあるのは感じるが、これも姿形はハッキリせず、抜いたところで誰も〝送り狼〟だとは分かるまい。
ああ、そういう趣旨ねと思いながら、また一人で突っ立たされた部屋を眺める。
四方向に扉があり、真ん中に私がぽつねんと立っているだけで殺風景なものだ。壁は石造り、床は大理石と寒々しい限りで広さは一六畳ほどであろうか。天井は無為なまでに高く、これまた石造りだ。
何ともまぁ、戦うのには丁度良い広さだな。長柄の武器を振り回すのにも、そこそこの人数がぶつかるのにも具合が悪くない。
「とことん同士討ちさせたいようだな……」
私は頭をガリガリ掻いて、性質の悪さに嫌気が差してきて湧いた怒りを誤魔化した。
それにしても長大な迷宮だ。塔の長さから分かっていたけれど、そろそろ終わってはくれないものか。
精神的に削られすぎていい加減疲れたぞ私は。
もうちょっと、こう、直截にハック&スラッシュを楽しませてはくれんものか。せめてもう少し真面な謎解きがあればダンジョンだなぁと心から楽しめるのに。
「まぁいい、また合流すれば登れるって小細工だろう」
私はこういうのに詳しいのだ。案ずるより産むが易し、さっさと行動に移ろう。
それに、切り札も握っていることだしな。
懐に手を突っ込んで一枚の硬貨を取りだし、ピンと弾く。
表なら前か後ろ、裏なら右か左。
こういう時は考え込んだって仕方がないので運任せだ。自分のリアルラックが終わっていることは分かっているけれど、こういう時は適当に選ぶのが一番良いんだよ。
表が出たので、じゃあ次は前後だな。表が出たら前ってことで。
「……よし、じゃあ後退!」
実質1D4を転がしたようなものなので――確率計算的に違うけど――ダイスの女神は前に行けと仰っている。
なので、私はあの信頼できない上に、ここぞという場面で眷属こと〝妖怪一足りない〟を差し向けてくる邪神の指示に背を向けた。
私は今まで期待値がでれば死なずに済む生命抵抗判定やら、ファンブル振らなきゃ成功するような物語を左右する識別判定、絶対に喰らっちゃいけない場面での不意討ち判定に一足りなくて何度も……なんっども失敗してきたんだ。
喩え転生したってアイツの言うことなんぞ聞いてやるものかよ。
後ろの扉を開けると、そこには同じくのっぺりした姿をしたナニカがいた。
ナニカは困惑しているようで腰の得物を抜いたが、その形状は判然としない。
だが、判然としないのに間合いは分かるし、性質も分かるという気味の悪い状態に陥った。
分かっているのに分からない、なんだこの脳味噌に奇妙なフィルターをかけられたような状態は。魔物知識判定には失敗したが、PL知識として敵が分かっているような奇妙な感覚。
ああ、モヤモヤする。ここまで心を繊細に操れるなら、入った瞬間自殺するようなデストラップでも用意した方が早いんじゃないか?
それともデスゲーム主催者の如く我々の魂が右往左往しているのを楽しんでいるか。だとしたら死なないように丁寧に四肢を〝詰めて〟そっから言葉でも散々に〝詰めて〟やる。
試しに今、後ろ手に閉めた扉が開かないか試してみたが、鍵がかかっていてダメだった。錠穴も開いていないし、殺し合えということだろう。
或いは、さっきと同じくこの状態でも仲間と見抜いてみろってか。
なら上等。お前達の操る小細工と此方の力押し、どちらか通じるか試してやる。
こっちには切り札があると言っただろう。
「来い」
それに五月蠅かったんだ、暇だ暇だと夜ごとに泣き叫んで盲いた愛を軋り叫ぶ剣が。
ここには斬り甲斐がある敵がいるぞ、自分を抜け、自分を抜けと脳裏で叫んで。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」
呼び声に応えて、ずるりと空間から這いだしてくる〝渇望の剣〟が私の手に収まった。長大な特大両手剣は呼んで貰えたのが余程嬉しいのか精神を削る絶叫を上げ続け、嫌に手の中でしっくりくる手応えで吸い付いてくる。
斬れと、斬ってくれと頼んでいるのだ。
姿の判別できない敵は〝渇望の剣〟に恐れおののいて一歩引いた。そして、咄嗟に武器を構えて抵抗しようと試みる。
つまり相手はコイツの姿を〝正しく認識した〟上で私が私であることを知らない。
「これを知らんか。つまり敵だな」
一歩踏み込み、更に念のためとばかりに加減して斬りかかれば、渇望の剣は見事に受け止められた。
加減しているのは万が一味方だった時に殺さないようにすることと、味方の武器を破壊してしまっては洒落にならないからだ。
ふむ、アドオンの噛まない両手剣状態で、しかも手加減したけれどきちんと掲げた武器で止められたな。これは中々の使い手と見える。
武器は刃噛みの状態に入らないことからして恐らく鈍器。
私の仲間に片手用の鈍器を使う者はいない。これで二重確認ヨシッ!!
「いよっと」
武器を止められた瞬間足が止まったとこを狙い、長靴で敵のつま先を踏んで拘束。生まれた一瞬の隙を使って刃を縦に滑り込ませ、顎下に潜り込んだ長い柄で顎をカチ上げる。
すると、敵は仰向けに倒れて動かなくなった。
結構な力で殴ったから脳震盪を起こして気絶したのだろう。
「殺さないと次に行けないとか言わないよな」
呆れながらポンポンと剣の腹で肩を叩いていると――どうして斬らないと抗議の思念が五月蠅い――不意にぼやけていた姿が明確になった。
倒してから答え合わせね……分からなかったら仲違いの種を蒔くとか、ほんと性根が螺旋を描く勢いで曲がってやがる。
目の前に倒れているのは中年のヒト種だ。着ている鎧は随分と時代がかっており、兜はどこかでなくしたのか被っていない。
武器もこれまた古めかしいな。鉄製の棍棒で剣術が今より発展していない時代、装甲目標を膂力で叩き潰そうとして発展した物だ。
現在ではメイス様というより洗練された武器があることと、全金属製というのは流石に重すぎて携行に難があるため廃れたが、単に古い物を使っているのか〝これが廃れるだけ永い時間〟ここにいるのか判断が難しいところだ。
倒れた儘にしておくのは可哀想なので姿勢を整えてやり、顎の様子を確認する。
うん、絶妙な力加減だったようで顎が粉砕されていることもなければ、舌が千切れたりもしていない。ただ、ちょっと前歯に罅が入っているが……これは命を堕とさず済んだ代価と思って我慢して貰おう。
前歯の治療って高価なんだけど、流石にどうしようもしてやれんから、心から謝っておくよ。
「何処の誰だか知りませんが、ご無礼をお許しあれ」
なむなむ拝んで、またダイス神にお伺いを立てる。結果は先に進めという啓示であったので、思い切って最初の部屋へと戻ってみた。
すると、また姿がぼやけた某かがいた。今度は二人……っと、危ねぇ。
先制攻撃で矢を放ってきたので斬り払う。〈雷光反射〉によって引き延ばされた体感時間の中、靄が掛かっていたように詳細が分からない矢は、二つに断たれると同時に姿がハッキリとする。
鏃の形状、矢羽根の種類、どれもマルギットの物ではない。
まぁ、そもそもマルギットなら、この忌むべき剣の存在を知っているからいきなり射かけてくることはないわな。
私は連携して斬りかかってきた剣士の初撃を受け流そうとして……失敗した。まずい、歯噛みではなく鍔迫り合いに持ち込まれた。
今は〝渇望の剣〟が特大両手剣状態なので多くの片手剣アドオンが死んでおり、全力から幾枚か落ちる状態になっているが、それでも私は〈神域〉の剣士。
やはり、この迷宮に挑むだけあって敵も相応か!
しかし、斬りたがりで駄々っ子ながら、こいつは私の命令を聞くことを覚えた。長さを瞬時に片手剣の状態に変え、そのまま圧し斬らんと肩に刃を添えていた敵を受け流す。
そして、すれ違い様に膝を軽く切った。
許せ、貴方程の剣士相手に手加減してる余裕がないんだ。
それに背後からは矢の第二射が来ている。
これを切り払い〈閃光と轟音〉の術式を叩き付けたが、敵は小揺るぎもしなかった。
チッ、いい装備してやがるな、何らかのデバフ阻害系か。
しかし、前衛を喪った後衛に負けるほど弱くない。私は三射目を番え終える前に肉薄し、渾身の前蹴りを放って転倒させ、晒された首に刃を突きつける。
降伏の合図か敵は全容が良く分からない弓を捨てたけれども、残念ながら認識のモヤは消えない。
仕方がないと顎を下から剣の腹で殴り上げれば、頭を床に打ったのもあって気絶して姿が見えるようになった。
って、長命種じゃないか、珍しい。魔法を使うでもなく矢を扱うとは、これじゃまるでエルフだ。恐らく魔法は自分の防護と味方の強化に使うだけとかか?
さて、膝を切って無力化した敵も……と、あぶなっ。
剣士は柄に刺さっていた小柄を抜いて投擲してきたのだ。本来は楊枝を作ったりする程度の細工に使う物だが、彼は戦闘用に改造していたのか綺麗に私に当たる距離、四回転半させてきた。
剣で弾き飛ばせば、膝立ちでにじり寄って斬りかかってくる。足に力が入るまいに、腰と腕の粘りだけで相当の剣速が出ており、〈神域〉に至る前の私であれば十分に斬り殺せていたであろう威力に舌を巻く。
ここまで頑丈とは、種族はなんだろう。
横に回り込むように回避して剣を持つ手を打ち据え武器を奪い、また顎に一撃……いれたのだが、気絶しなかったのでもう一度顎を蹴り飛ばせば、ようやく大人しくなった。
って、この髭もじゃと幼長の区別が付けづらい面は坑道種じゃないか、そりゃ頑丈な訳だ。
しかし、長命種と坑道種の二人連れとは珍しいな。しかも片方は私が搦め手を使わないと、ともすれば斬り殺されていたかもしれない熟練の剣士とは恐れ入る。弓手も味方にバフを巻き敵のデバフを無効化する優秀な一党であったのだろう。
また、何やかんや趣味の悪い罠を潜り抜けてきた精鋭なのだ。油断しきっていた私の方が悪かったな今回は。
とりあえず二人揃えて並べ、命に別状はないことを確認しておく。
ただ、頭だからなぁ、内出血とかしてなきゃいいんだが。そこばっかりは医者でもないので確認のしようがないから、あとで大事にならないことを祈るばかり。
無用な人死にはしないで済みますようにと諸々の神に祈りを捧げ、私は再びコインを弾く。
今度は左へ行けと。よろしい、ならば右だ。
解錠された扉を開いた瞬間……私は大変な後悔をすることになった。
敵はあまりに巨大であったからだ。天井につきかねない巨体、腰に帯びた恐ろしく長い刀剣類と思しき武器。更にはヒト種数人分を一塊にした分厚さがある巨躯を持つ種族はこの世に一つ。
こんなもんモザイクかける意味ねぇよ、間違いなく巨鬼の戦士じゃねーか! しかも、ここに来られるような手練れの!!
「~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」
「~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」
迷宮の効果で濁った戦吠えと、渇望の剣が上げる思わぬ大敵との遭遇を喜ぶ絶叫の叫びは殆ど同時に室内へ響き渡った…………。
【Tips】魔物知識判定。敵がどのような存在であるかを判別する行為だが、一目で分かるような敵でも失敗することがある。
その場合、PC達は敵が何か分からんが斬ったら死んだ……という戦いを繰り広げるハメになり、ネタが分かっていても弱点を狙うと悪い気がするPLはモヤモヤした気持ちを抱えたまま過ごすこととなる。
実際魔物知識判定を失敗しても敵がナニカ分かってる時のモヤモヤは異常。
それとちょっとした告知なのですが、小説の息抜きに小説を書くという悪癖を発揮した作品がキリの良いところまで書き溜めできたので公開しております。
実質異世界転生 ~二千年寝てたら世界が変わってました~
https://book1.adouzi.eu.org/n1402jg/
というSFファンタジーです。思ったより筆が乗って書いてて楽しかったので、よかったら読んでやってください。
暫くは毎日更新、今日は5話連続更新を予定しているのでお楽しみに!
……えーと、同じサイト内だったらリンク貼っていいんでしたっけ? 教えて有識者!




