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水浸しドロップ  作者:
It wake up to the cruel world:序幕
10/22

準備が整いました

更新遅れました。すみませんm(_ _)m






「はぁ…終わった」



雪が溶けた、もうじき梅の花が咲くだろう。

冬の終わりが近いと言っても、まだ2月後半なので肌がかじかむような寒さを持っている。

手袋を忘れたせいで、掌がとても冷たい。

はぁーっと両手に息を吹きかけてこすり合わせる。

首に巻き直したマフラーに顔を埋めて、校舎を出た。



前世の記憶や二年の頃からの努力のおかげで、学年10位は必ず入るようになっていた。

実力テストも順調で、定期考査同様に高得点を取ることが出来ていた。

なので模擬試験も今回の受験も筆記はあまり焦ることなく、スムーズに進んで行ったと思う。

ちょっと不安だったところはと聞かれると、面接だと答えるだろう。

如何せん、他人と滅多に話す機会がない。

同い年はクズミだけで最近はそこにスイが来て、大人は両親か時々担任、それか用務員さんや他の先生。

こんなコミュ障にいきなり面接だなんてキツすぎるものがある。

面接練習なんてずっと冷や汗ダラダラだったし、緊張しすぎてるだの顔色が悪いだの、とにかくお小言が多かった。

面接は特待生を狙う為、個人面接だ。

コミュ障がひとりが大人4、5人によって包囲されるんだよ?

耐えられないっての。

さっきまで別室で面接をしていたんだけど、気合入れて無かったら気絶寸前だった。

悪夢の時間が終わった今、外に出ることが私にとっての最大の癒しとなっている。


校門でひとり、人を待つ。

大きな校門にチラリと目を向けて項垂れる。

ここで紹介しよう、受験校は言わずもがな『罪の果実』舞台のとある金持ち学校、霧藤学園(きりふじがくえん)

初等部、中等部、高等部、そして大学の四段回までありエスカレーター式だ。

実は霧藤経由の保育園もあるのだが、そこは直接『霧藤学園』と名乗っていないのであまり知られていない。

それはさておき、この学校の入学試験はと言うと初等部と高等部、大学の三つしかない。

元々高等部の受験も無かったらしいが、何年か前に高等部受験制度を設けたらしい。

初等部、大学と共にある奨学金と特待生制度を高等部受験にも加えることで、権利の平等かつ将来や学園内での身分の保証をしたとか。

そりゃあそうか、霧藤学園って言えば国内でも一位、二位を誇るトップレベルの人材育成校だ。

此処を卒業した生徒には、必ずと言っていいほどの輝かしい未来が約束されている。

大企業への就職は勿論、何らかの能力に秀でている場合はその分野での成功を、企業を立ち上げたり後を継いだ者は末代まで安泰すると言われている。

ジンクスのように聞こえなくもないが、これは本当のことだ。

だからこそ金持ちか高い能力を備えた者のみが入学出来る制度になっているのだろう。

特待生達はそのことを頭に入れて生活しておかなければ、いつ落とされるか分からない。

実力の無い者は容赦なく退学になるらしい。

高校からの特待生追加だなんてとんでも設定もその延長だとお考えだろうが、これ実際はヒロインの為に作られてるからね。

ヒロインが一般家庭の出だからお金に負担をかけないようにっていう設定だったらしいんだけど、いつの間にか特待生という文字自体消え去っていた。

微妙な謎だ。

気づいた人もチラホラいるんだろうけれど、気づかない人の割合の方がきっと多い。

今でこそ分かるが、ヒロインは“特待生”としてあるまじき行動を数えられないほど起こしている。

文武両道をモットーとし、礼儀作法にも厳しい霧藤で何故あんな態度を取り、学年の最高ランクのクラスで居続けられたのか。

その点は無視したとして、他にも可笑しい点がいくつかある。

霧藤は成績や家柄でクラス編成がされるのだが、最高ランククラスはSとなっている。

Sと言えば成績、家柄が共に最高に値するということだ。

特待生はSには入れないが、その下であるAに所属するはずである。

Aは基本的に成績の良い者達が集められていて、あまり金持ちの介入のなく、一般の出の者が半数を満たすかギリギリ満たさないかという構成。

一般の出からすると一番平和なクラスらしい。

そしてB、CからKまで合計11クラスがあり、成績順または家柄順で編成される。

あくまでも成績が基準第一だ。

けれどそんな例外もあり、Kというクラスは裏社会に属す者や問題児を隔離する所らしい。

ヒロインの攻略対象の中に此処に所属する人が居たと思う。

ここまで来るとお察しの方もいるだろうが、他の9クラスに比べSとKだけは別棟にある。

SはSだけの特別棟で、一年から三年まで総じて60名が在籍し、サロンを開いたり温室で植物を愛でたりと、優雅な時間を過ごしているようだ。

無駄遣い乙。

対するKはSが一クラス20名と決まっている中、規定の人数がない為に何人居るか分からない、何が起きるかも分からない無法地帯となっているらしい。

言ってしまえば周りが危険だから隔離しているようなもんだ。

抗争乙。

何でこんなに詳しいのかって?

いまの担任が元霧藤教員で、現霧藤教員と仲が良いからだそうだ。

ちなみに年収は良いか、と聞いたら丸めたパンフレットで叩かれそうになったので、きっとイイ年収だけど過酷な環境なのだろう。

まるで動物園だね!



…と話が逸れたが、何が言いたいかと言うと、ヒロインが特待生なはずなのにSクラスに在籍しているのは可笑しいということだ。

Sに居るならばとても頭がいいはずだし、家柄なんてもっと良い。

それこそ、霧藤学園の理事長さんの姪だ、なんて王道展開があってもいいくらいに。

そんなことはシナリオに無いけどさ。

このミスに制作側は後で気づいたのだろう。

そうじゃなければ敢えてこのままにしていたと取れる。

特待生なんて肩身の狭い思いをして攻略するのは面倒だ。

そうすると乙女ゲームというよりも戦略を練りに練ったパズルゲームになってしまう。

現実の常識で考えたら、行動を間違えたら一発で良ければクラス落ち、悪ければ退学になるのは決まっている。

第一、行動が正解であってもそれはほぼ無礼に当たるのでクラス落ちは確定されている。

特待生なんて言っておきながらSクラスなのは、このゲームをしやすいように配慮したということだろう。

結局、特待生とは名ばかりだ。

エンドロール直前の自己スペックを見たら、いつの間にか特待生という文字が消えているから見て見て!

もしヒロインが今年、特待生を狙って霧藤を受験するのなら、私は落とされる。

ゲームの安曇深弥は金持ちだ。

それこそSクラスに所属出来るくらいの家柄を持っていた、そう、現在の安曇深弥とは比べ物にならないくらい。

というか、安曇深弥はSクラスに居てそしてヒロインを監視してたのだ。

……あれ、これ死亡フラグその1回避したんじゃない?

ま、待て、喜ぶのは早い。

説明に戻ろう。

こんな庶民と庶民学校でのほほんギスギスしていたから忘れていた。

最近思い出したが苅田久住は金持ちだ。

それもSクラス相当の。

本来ならとっくに霧藤に入学して信頼を得ているはずなのに、苅田久住は私と同じ公立小学校、中学校に在籍していた。

よくよく思い出してみれば、歯車は高確率で曲がっている。

苅田久住の両親があんなにのほほんとして優しいわけは無いし、うちの両親と仲が良いということ自体可笑しい。

昔の級友、と聞いた。

え…、つまりはうちも金持ちだったってことですか?

もしかしてお父さんとお母さん、ゲームの安曇深弥が望まれて生まれなかったって理由の、政略結婚を破断した場合ってやつですか?

まさか、駆け落



よし、ヤメヨウ!

TとIを組み合わせて最後の文字に加えてローマ字で読むあれは止めよう。

何で祖父母とか叔父叔母を見ないかの疑問はスッキリしたけれど、無かったことにしよう。

まさかここから選択肢が始まっていたとか考えるの止めよう。

じゃないと人生がゲームだらけになってしまう。

きっと苅田久住と知り合ったのは私の選択肢ミス、とか考えてしまう。

ここは現実だから、そんなことは有り得ないんだ。

ただ分かったことと言えば、ゲームのシナリオから考えて、この世界は大分狂ってるってこと。




「ミヤ随分早いんとちゃう?しっかり問題解いたんかぁ?」


「解いたよ、解きましたよ」




失礼なことを言って、私のマフラーの両端を持ってギリギリと首を締める。

く、苦しい。

相変わらずスイはバイオレンスだ。

私の待ち人は幼馴染の苅田久住ではなく、親友の三橋彗劉だった。

私とクズミが霧藤を受けると聞いて、「俺も受ける」と言い出し、私と同様に特待生制度を利用したみたいだ。

きっと、スイは受かっている。

ゲームの三橋彗劉は特待生だからね。

かなり頭良いし。




「ん?あ、このマフラー俺があげたヤツ?」


「そうそう、去年の冬に貰ったヤツ」




クズミの首輪の件からクズミとスイの仲の悪さは目に見えて悪化した。

変なところで団結力が芽生えるのだが、基本的にコイツらは仲が悪い。

競うようにスイも私にマフラーをくれた。

藍色のマフラー。

デザインは無くて、色が藍色ってだけ。

色もそうだけれど編み目がとても綺麗で、去年からずっと使わせて貰っている。

そういえば、誕生日はクズミとスイが一緒になって考えて贈ってくれたらしいが、未だに付けていないので高校生になったら付けようかなと思っている。

今でもクズミは怖い。

それでも、嫌いだと思うことが無くなってきた。

きっと、無関心になってきたのだろう。

それに最近のクズミは飴モードが続いていて気持ちが悪い。

何を企んでいるのだろうか。




「嬉しぃわ」


「そう?これ気に入ったからいつも使ってます。有難う」


「いいえー、俺こそ誕生日ありがとー」




いつまで経っても買う気配がないので、スイの誕生日にチョーカーをプレゼントした。

受験生だってこともあって黒髪に染め直したスイを見て、これはプレゼントせねばと考えてひとりでゴシック系統のお店を回った。

何回も言うが、コミュ障にはキツかった。

案外チョーカーって売ってないんだね。

しかも高いし。

本編通りのチョーカーは買えなかった、というか買おうとも思えなかった。

現実のスイがゲームの三橋彗劉になってしまう気がして、怖くて見ないふりをした。

結果的に三つほどチェーンが垂れて、青と緑を基調としたチェックが所々見え、全体的に青系統のベルトみたいなチョーカーを買った。

あと、受験の為にピアスホール潰してたから新しいピアスも買った。

片方はクロスで、もう片方は黒いストーンのピアス。

安物でごめんね。




「受かったら着けるからな」


「私も、受かったら着けるね」


「そうして。あのブレスレット、俺とバ苅田が選んだヤツやから」


「相変わらずバ苅田呼び…」


「ホンマやったら馬鹿で充分なんやけどな、可哀想になってバ苅田にしてるんよ。俺優しいわぁ」




本当に仲悪いな…。

あの日、無理矢理自己紹介をさせたらいつの間にか『クソ三橋』と『バ苅田』呼びになっていた。

気づけば修復不可能だ。

例えば顔を合わせるとしよう、第一声は「クソ三橋何で居るんだよぁあ?!」「バ苅田くんナンデスカー頭可笑しくナッタンデスカー」となる。

もはやクズミの【みんなの王子様苅田久住】が跡形も無く消え去り、ただのチンピラと化している。

このふたりがいるとうちの家は荒れ模様だ。

お父さんとお母さんはあらあら、みたいな顔でコーヒー飲んでるけどさ。

どうしてそこまで悪くなるんだろう。

相性の不一致だろうか。




「バ苅田どうする?待っとく?」


「…どうせ、うちでお疲れさま会やるんでしょ。待っとくよ」




苅田家のご両親揃えて、クズミとスイも呼んで受験お疲れ様パーティーでも開くのだろう。

実はスイは苅田家のご両親に会ったことがある。

気に入られているし、スイもあのふたりが好きなのだろう。

私もあのふたりのことは好きだけど、いつも花嫁修行の話を持ちかけるからそこだけは苦手だ。

おばさん、私はクズミと結婚しないからね。

ヒロインを祝福してあげて!

私よりも数百倍可愛いし神々しいから!




「一般受験組はまだ終わらんのんかなぁ」


「まだだと思うよ。面接に時間取るだろうし、霧藤を受験する人多いから」


「バ苅田は何でここを受験する言うたんやろうなぁ」


「おばさん達の影響だよ、多分」




級友と言ったお母さんとお父さん、そしておばさんとおじさんは霧藤学園の卒業生だった。

昔から霧藤では一騒動あったみたいで、お父さんはここを勧めなかった。

だけどクズミが受けるってことと、スイもついてくるってことに安心して、最終的には受けて良いよと承諾をした。

どちらかと言うとそのまま受けないでって言って欲しかった。

お父さんは元霧藤の特待生だったらしく、そのときの苦労が目に見えてるって反対してたな。

何てこった、こんなところに先輩が居たとは。




「ねぇ、スイ」


「なに」


「私達と一緒に、ここに受験して良かったの?もっと、やりたいこととか無かった?一緒に居たい友達とか、本当は居たんじゃないの?」




本当はずっと、気掛かりだった。

無理矢理ここを受けさせているような気がしていた。

スイにはスイの自由があるのに、もうシナリオだって狂っているのだからわざわざあんな場所へ行かなくても、楽しめる場所へ行って欲しかった。

ゲームに巻き込まれないで、欲しかった。

そこに、本人の意思が無いのならば、無理をさせたくなかったのに。

なのに私は、巻き込んでしまった。




「えぇんよ、俺は」


「でも、」


「ミヤ、俺はアンタと一緒に居たい。アンタの傍に居たい。その位置に居ることでバ苅田と顔を合わせることになっても、アイツなら別にええ」




スイが、笑う。

私の首元にあるマフラーの先を持って、困ったように笑う。

去年の夏、彼は言った「こんなにいい人たちに恵まれて俺は幸せだ」と。

薄っすらと涙を浮かべて、震える手で私の手を握って、ありがとうと笑っていた。





「俺な、三人で居たいねん」




それは、初めて聞いた彼の願いだった。





「アイツのこと嫌いやけど、ミヤのことで争ったりするの楽しい。三人で居るときのミヤは大人で、俺らのこと冷めた目で見てて、でもしょうがないなって顔で止めに入るあの時間が好きや。三人で、あの家でご飯食べるのも、暖かくて泣きそうになるけど、好きなんや」



まだ一年くらいしか経っていない私達の関係。

いつの間にか三人で居る時間が多くなって、いつからかクズミが飴モードのままになって、いつの間にか、みんなで笑う時間が増えた。

笑えなかった私なのに、三人で居るとき、笑えるようになっていた。




「せやから、後悔せんで欲しい。俺はこれでええの」


「…そっか」


「そうなんよ」




スイの声に静かに返答する。

見上げた彼は、泣いていた。

少し前から私の背をぐんと抜かして、手の大きさも差が開いて、変わらないと思っていた体温は、私の方が少しだけ冷たくなっていた。

私が一方的に知識として知っているだけで、スイの口から家の話を聞いたことはない。

きっと彼は、今でも苦しんでいる。

それでも此処がいいと言って笑うんだ。

その状況から逃げられはしない、ただ一時的な幸せを与えるだけなのに、それでもいいと彼は笑う。

あの日と同じように幸せだと言うのだろう。

本当はこれ以上の幸せを教えてあげたかった。

だけど時間が迫っている。




「なぁミヤ、手ぇ繋いでええ?」




スイがゆっくりと左手を差し出す。

あれほど退学になりたいやら引きこもりたいやら、不満を言っていた中学生活が終わろうとしている。

嫌なことばかりあった、全校生徒から無視されて三年間を過ごした。

得たモノと言えば、スイという親友と飴モードのクズミと、数えきれない幸福だった。

担任の先生はいい人ばかりだった。

先生たちはいい人ばかりで、生徒は最悪な人が大半だったけれど、あの学校に行って良かったと思う。




「いいよ」




私の右手を向けられていた左手にゆっくりと重ねる。

骨張った手が私の小さな手には痛いけれど、こうして繋げられる今を大切にしておきたい。

穏やかだったこの一年間みたいな日は、もう味わえないかもしれないのだから。

包み込むように、隙間を開けないように一本一本指を絡めてお互いの手をぎゅうっと握り込む。

こうすれば、寒くない。




「ミヤ」


「んー?」


「俺…」




言いかけたスイの顔を覗き込む。

真剣な表情で私を見据えて、何かを伝えようと唇が形を作るけれど、一行に動く気配がない。

その様子を見て「スイ」と小さく問いかけると、首を振って己の答えを無かったことにした。

このときの彼は私に何を言いたかったんだろうか。

聞けば良かったような、でも聞かなくて良かったような妙な安心が胸に広がる。

壊せないから、壊したくないから、臆病な私は聞けないのだろう。




「何でもない」




その答えはきっと私が知ることはない。

少なくとも今の私は聞かないし聞けない、聞いたとしても[無かったことにする】っていう最低な方法を取ると思う。

そうやって肝心なことからは逃げて、有耶無耶にする。

前世から私は、成長していない。




「ほら、ミヤ。バ苅田が出てきたで」


「え…あ、ほんとだ」




正面玄関から出てくるアイツの姿を目にした。

スイが手を振るとアイツも私達の存在に気づいたようで、早足でこちらに向かってきているような気がする。




「猫、クソ三橋!そこで待っとけ!!!!」


「さっきから待ってるゆーのに、バ苅田くんホンマ酷い男やわぁ。絶対モテへんで」




クスクス笑ってジョークを言うスイに、思わず私も笑い出した。

笑えているだろうか、この世界で。

精一杯生きていけるだろうか、望みもしなかったこの世界で。

今度こそ長生きして、いつか何処かで彼女に顔向けが出来るように、楽しんで後悔のない人生を送れたと笑えるだろうか。

絶対に、笑って生きたい。

死ぬときも、楽しかったと言って笑って死にたい。




「…ミヤ、え?!!ミヤが笑って、え!?」


「なぁに、スイ。そんなに珍しい?」


「ちょ、あ、バ苅田!ミヤが、ミヤが笑うとる!!」


「なっ、猫っ!」




耳元で聞こえていたストラップの金属音を、聞かなかったフリをすることを止めた。

まだ鳴り続けている。

きっとずっと鳴り続ける。

開始の合図は、消えない。




「さぁ、帰ろうか」




ぎゃーぎゃーと騒ぐふたりを無視して、家路へと一歩を進めた。





誰かが言う。

───────愛しい君、僕とワルツを踊ろう。



私は言う。

───────生憎、ワルツは知らないの。



誰かが言う。

───────なら僕が君を、連れて行って差し上げよう。




そうして誰かが声を掛けた。

《ゲームを開始します》、と。







─────さあ、舞台を始めようか。 彼女のための物語を。




彼女は、だあれ?






あのとき無理にでも×××って言っておけば良かったのに、馬鹿みたいや。

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