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水浸しドロップ  作者:
罪の果実
1/22

Overture




────お招き、招き






『アンタなんか知らないわよ!!』


『××、もう大丈夫。私と一緒に暮らそう』







歩道から幼稚園児らしき子どもの元気な声が聞こえる。

私の思考は、久しぶりに叔母さんとゆっくり過ごせる時間で、何をしようかということだけを考えていた。

弾むボールの音と近所の奥様方の談笑をBGMに、足早に家へと向かいながら、幸せから笑みを零した。

きっと彼女も私と同じように待っていてくれて居る。

世界でただ一人の、血の繋がった人が。





───イラナイ(はこ)は何処ですか








『おと、さ…っおかぁさぁああああああっっ』


『私が守るの。安心して』







10年以上彼女に育ててもらった。

事故で亡くなった私の両親の代わりに、彼女は私を守ると言ってくれた。

その言葉通り、大学生になる少し前の今も変わらず守ってくれている。

私の代わりはいくらでも居るけれど、私にとって彼女の代わりは誰にも出来ない。

大好きな彼女だから、ちゃんと幸せになって欲しい。






────望まず手に入れた不幸は還してあげよう








『×××さん、ご両親は───』


『嘘よ、嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘』






少しずつ、もらった幸せを返して行きたいと思う。

何も持っていない私にはそうすることしか出来ない。

だから手始めに、彼女と恋人のことを祝福してあげたいと思う。

大好きな彼女へ、一粒ずつの幸福を。

幸福の雨を降らせてあげたい。

私にくれたように、彼女へ。






────お招き、招き






『きっと、××はずっとひとりぼっちなの』


『還さないわ』







最初は駄々をこねて彼女を困らせてしまっていた。

でももう大丈夫。

あの人に彼女を任せたい。

その為に今日はケーキを買ってきたんだ。

昨日書いた手紙はリビングに置いてきた。

彼女は喜んでくれるだろうか。とてもワクワクしている自分がいる。





「おかーさ、ぼーるが」


「止めなさいっ危ないわ!帰ってきて!!」




不意に近くからボールの転がる音と子どもの声、その子の母親らしき人物の焦るような声、そしてトラックの急ブレーキを掛ける音が大音量で聞こえてきた、気がした。

反射的に、渡り終えたはずの歩道に向かって両手を伸ばしていた。





「────────危ないっっ」







────、ドンっっっっ





いつの間にか私は、宙に浮いていた。








────汝に来世の幸福を

────もう二度と、彼奴への幸せなんて届けるものか





二つの声が重なる、それはすべての始まり。

歪になった神に愛され、一方で全てを慈しむ神に嘆かれた少女。

彼女はきっと、もう何処にも戻れない。




『イラナイ』




チリン、ケータイに付いているストラップが鳴いた。



念願の乙女ゲーム物です。

趣味全開とそうでない節でいっぱいになると思いますが、お付き合いください。

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