Overture
────お招き、招き
『アンタなんか知らないわよ!!』
『××、もう大丈夫。私と一緒に暮らそう』
歩道から幼稚園児らしき子どもの元気な声が聞こえる。
私の思考は、久しぶりに叔母さんとゆっくり過ごせる時間で、何をしようかということだけを考えていた。
弾むボールの音と近所の奥様方の談笑をBGMに、足早に家へと向かいながら、幸せから笑みを零した。
きっと彼女も私と同じように待っていてくれて居る。
世界でただ一人の、血の繋がった人が。
───イラナイ器は何処ですか
『おと、さ…っおかぁさぁああああああっっ』
『私が守るの。安心して』
10年以上彼女に育ててもらった。
事故で亡くなった私の両親の代わりに、彼女は私を守ると言ってくれた。
その言葉通り、大学生になる少し前の今も変わらず守ってくれている。
私の代わりはいくらでも居るけれど、私にとって彼女の代わりは誰にも出来ない。
大好きな彼女だから、ちゃんと幸せになって欲しい。
────望まず手に入れた不幸は還してあげよう
『×××さん、ご両親は───』
『嘘よ、嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘』
少しずつ、もらった幸せを返して行きたいと思う。
何も持っていない私にはそうすることしか出来ない。
だから手始めに、彼女と恋人のことを祝福してあげたいと思う。
大好きな彼女へ、一粒ずつの幸福を。
幸福の雨を降らせてあげたい。
私にくれたように、彼女へ。
────お招き、招き
『きっと、××はずっとひとりぼっちなの』
『還さないわ』
最初は駄々をこねて彼女を困らせてしまっていた。
でももう大丈夫。
あの人に彼女を任せたい。
その為に今日はケーキを買ってきたんだ。
昨日書いた手紙はリビングに置いてきた。
彼女は喜んでくれるだろうか。とてもワクワクしている自分がいる。
「おかーさ、ぼーるが」
「止めなさいっ危ないわ!帰ってきて!!」
不意に近くからボールの転がる音と子どもの声、その子の母親らしき人物の焦るような声、そしてトラックの急ブレーキを掛ける音が大音量で聞こえてきた、気がした。
反射的に、渡り終えたはずの歩道に向かって両手を伸ばしていた。
「────────危ないっっ」
────、ドンっっっっ
いつの間にか私は、宙に浮いていた。
────汝に来世の幸福を
────もう二度と、彼奴への幸せなんて届けるものか
二つの声が重なる、それはすべての始まり。
歪になった神に愛され、一方で全てを慈しむ神に嘆かれた少女。
彼女はきっと、もう何処にも戻れない。
『イラナイ』
チリン、ケータイに付いているストラップが鳴いた。
念願の乙女ゲーム物です。
趣味全開とそうでない節でいっぱいになると思いますが、お付き合いください。




