6話
何故私が隣国の名を聞いて驚いたのかというと、獣人の国メギドラと我が国ユノスは、長年敵対関係にあったからだ。
というのも、メギドラでは半世紀ほど前に内戦が起きて以降、深刻な問題を抱えていたことに起因する。
先々代の時に王権を兄弟間で争っただけでなく、なんと先代の王が亡くなった際にも後継者が指名されていなかったために兄弟間で骨肉の争いが起きてしまったのである。
先々代の時は兄弟間の仲が悪く、後継者が定められていても争いに発展してしまったそうだが……先代はまた話が違う。
メギドラの国土は広く、獣人の種族ごとに派閥があるため、先王は複数の妻を迎えて安定した政治を行っていたらしいのだけれど……どの王子を次代の王にしたとしても他の派閥の反発が大きくなるのが目に見えていたため、選べなかったという説がある。
とにかく、その長い内戦状態によってメギドラ国内に多くの被害が出た。
内戦に勝つために若者は兵士として連れて行かれたその結果、男女問わず犠牲者が増えてとうとう伴侶を得るために国外に出る人が続出。
自分たちの種を残そうと必死になったのだろう。
ただ、その方法が後に世界を巻き込んでの大問題となる。
メギドラは獣人族の国。
彼らは伴侶……彼ら風に言うとこれと決めた相手……ツガイに対し、獣人族は男女問わず自分を選んでもらうために猛烈なアプローチをするそうだ。
それは断られても諦めず、昼夜関係なく愛を乞うものらしい。
書物でその記述を読んだ時は『すごいなあ』と思ったものだけど、ただそれはロマンス的な話ではないのだ。
さすがに伴侶を持つ異性をどうこう……というようなことはなかったようだけど、説得のためなら攫うことも辞さないその言動が問題視されたのだ。
それも、被害者が一定数に登ってから『これはまずい』って認知されるようになったものだからもう大変。
おかげでメギドラは周辺諸国から顰蹙を買ってしまい、国交が途絶える自体になっていたってわけ。
誘拐事件と言えばメギドラでは? なんて疑われるレベルにまで発展したんだから、相当だと思う。
まあ厳密にはちょっと事情がちがうようだけど……そのくらい有名ってこと。
実際のところはメギドラから来た人に口説かれて婚姻関係を結んだはいいものの、内戦の終わらない国に家族がいるからって戻るメギドラ人に、伴侶たちが付いていった……ってことらしいのだけれどね。
でも、その家族にとってみたら危険地域に子供が、兄弟が連れ去られたようなものなんだとか。
相互理解って難しい。
(他にも、メギドラの獣人たちはよく言えば情熱的だけど、悪く言えば率直すぎて受け入れられないってユノスでは言われているのよね……)
その関係もあるんだろうって話。
まあこのへんについては、出入りの商人さんが使用人たちとしていた笑い話だから、どこまで事実かはわからないけれど。
(でもそういえば、長い内戦が終わって不在だった王の座がようやく決まったのよね?)
新王はこれまでのことを周辺諸国に謝罪をし、これまで強引に婚姻に至った人々が生家に戻って今後について話し合いを行えるよう尽力をしているんだとか。
令嬢としての教養は不必要だって教育を中断された私だけれど、領地の運営に経営の知識は必要だからって経済新聞を読むことは許されていたのよね。
といっても、決まった時間内でしかて読むことはできなかったんだけど。
じゃあ、テオはメギドラ人ってこと?
獣人って、耳や角、尻尾があるって聞いていたけど……。
いやそうじゃない。
メギドラから今使節団が来ているって新聞に載っていたのを先日見た覚えがある。
(そうよ、メギドラは先日まで国交が途絶えていた国なのよ。堂々とそこから来たって名乗れるのは……)
ハッとして彼を見れば、テオはにこりと笑みを深める。
それは私の考えが、当たらずとも遠からずということを示しているようだった。




