50話
メギドラへの出発日が決まった。
私の誕生日、その日だった。
国王陛下たちに見送られて出発するのはかなり緊張したし、特使という立場も私には変わらず荷が重い。
だけど、それでも城から離れてみれば少しだけ呼吸がしやすくなったのも事実。
「いいお天気……!」
「ここからが長いからねえ~、体調が優れない時はすぐに言うんだよ~」
「はい、クルトさん」
馬車には、私とテオが乗った。
別の馬車に補佐官さんや侍女さんたちが乗っている。
そして使節団のみんなは、馬車を守るように囲んでくれていた。
ちなみにユノス王国の騎士たちも勿論いて、彼らは後方についてくれている。
(これが本来の使節団よね……)
メギドラまでの道は、魔導扉が存在しない。
王都から辺境区までは一瞬だけどね!
でもそこからメギドラの首都までは馬車で二ヶ月ほどかかるって言われたので、今から楽しみだ。
ちなみに、テオとの関係は曖昧なまま。
でも私がテオのことが好きだということも、彼が私を誰よりも大切に想ってくれていることも、きちんとお互いに言葉にして確認もした。
その上で私はお願いしたのだ。
もし〝恋人〟になるなら――テオはもうそのつもりだったけど、私は今のままじゃだめだと思うのだ。
もっと世界を知って、人との繋がりを知って、大人にならなくてはならない。
そうしなきゃ、これからきっとテオの〝私を守りたい〟って気持ちにおんぶに抱っこの生活になってしまいかねない。
だって、いくら内面が幼いと周りに言われているとはいえ、私だって成人した大人の女性なのだから!
(諦めが悪いことだけが私の取り柄なら――)
諦めずに頑張って、功績と呼べるものがなくてもいいから、リウィア・オルヘンという一人の人間として認めてもらえるようになろう。
そうなって初めて私は胸を張ってテオの隣に立てると思う。
そのことを告げたあの日、テオは驚いたけど受け入れてくれた。
私のすることを応援すると言ってくれた。
諦めない私のことが好きだと言ってくれた。
「リウィア」
「テオ、どうしたの?」
「……まだメギドラ国内でも、種族間の争いは終わっていない。獣人じゃないというだけで何か言ってくる連中もいるかもしれない、その時は俺の名前を出してもらって――」
「大丈夫だよ、テオ」
なんだか物騒なことを言い出しそうなテオを止める。
それじゃあだめなのだと思ったが、彼にとっては私を〝今度こそ〟守りたいのだろう。
「ちゃんと相談する。わからないことは聞くし、話し合いでどうにかなるなら私は諦めずに頑張るから」
頑張るだけじゃどうにもならないことは、これからもたくさん出てくるだろう。
わかり合えない人もいるってことは、この身を持って知っている。
でも最初から諦めてはいけないことも知っているから、私はできることから始めたい。
「メギドラ王国での新生活、楽しみだなあ」
何もかもが新しいことは不安もたくさんあるけど期待もたくさんある。
怖がらなくていい日々も、オルヘンの名を名乗り続けて良いことも、私が諦めなかったからこそ手に入れたものだ。
私――リウィア・オルヘンは、こうして新たな一歩を踏み出したのだった。
ここで一旦、区切りがいいのでお休みをいただきます。




