49話
特使になるにあたって、私には目標がまるでなかった。
イェルクさんは軽く『テオのお嫁さん』なんて言ってきたけれど、そういうことじゃないんだよね!
いや、勿論その件についてもいろいろと考えなくちゃならないのは事実だ。
私はテオが好き。
そしてテオは私を〝ツガイとして〟好き。
つまり端的に言えば両思い。
だから恋人……とテオは言っているわけだけど、私としてはそれに対して諸手を挙げて喜んでいいのか? って話になってくる。
メギドラという国がいくら婚姻に関してツガイを最重要視するかと言ってもあちらも国であり、王がいて貴族がいる、そういう身分制度が存在するのだ。
だからいくらツガイだって言ったところでみんなを納得させられるだけのものが私にあるか? って話になってくると、私には何もないのだ。
(……王妃様は私に何もないと仰った。私はまっさらだと)
怒りはしたけれど憎むことはなく、惜しむことはあったけれど未練もない。
グレッグやラモーナはしっかり罪を償って欲しいと思っているし、カトリンは……フォーレ様との間にできた子供を、できればしっかり母親として愛し、育ててあげてくれたらいいなと願うばかりだ。
聞けば、グレッグは裁判の後に鉱山に行くらしい。
とても重い罪を犯した人々が行くところだそうだ。
ラモーナは財産を没収され、平民としてとある施設で労役を課せられるらしい。
カトリンは妊娠していることを考慮され、修道院で奉仕活動の後、出産をしてから自らの足で歩んでいくことになるのだそう。
フォーレ様は詐欺罪もあるので、やはり労役を課せられるそうだけど……場所はそういえば聞いていないや。
……うん、しっかり反省して誰かに頼って生きるのではなく地に足をつけて頑張ってもらいたい。
彼のご家族が責任を感じて爵位を返上したというので、これからは平民となって苦労していくのだろうけれど。
そういう意味で、ちゃんと彼らはそれ相応の報いを受けていると思うので、私としては個人的にどうこうってことはない。
(ただ鈍いだけなのかもしれないけれど……)
メギドラに対しても他にどんな獣種の人たちがいるんだろうとちょっと楽しみなところもあるし、ちょっとやそっと冷たくされたって諦めずに頑張れるって自信がある。
あの環境で耐えられたんだから、私ならきっと大丈夫っていう根拠のあるような、ないような、そんな自信。
ユノスの人たちにも、メギドラ人は怖くないって知って欲しい。
メギドラの人たちにも、悪く思う人たちばかりじゃないって知って欲しい。
私は何もわからないから、知るための努力を惜しまないつもりだ。
きっと王妃様の言いたいことの一つは、そういうところなんだと思う。
私がきっかけになって両国の間で少しでも接点が生まれるなら、きっとそれはいいことだ。
他国にいる間、学ぶ内に私にもできることがもっと見つかるかもしれない。
テオのことは好きだけど、王妃になれるとは思えないしあまりにも私には足らないから、これからそれを補っていかなくちゃならない。
諦めるつもりはないけど、安請け合いはいけないと思うのだ。
「……よし! まずはメギドラの人たちと仲良くなろう……!」
特使、なんて偉そうなことを言っているけど、要するにテオが私を望んでいるしユノスに居場所がないからメギドラに贈られた、友好の証なのだ。
なら友好の証らしく、私は私にできるところから友達を作っていこう。
(幼いって言われた部分は、きっと……ええと、なんとかなるわよね)
何事も経験が足りていないせいだって礼法の先生も仰っていたし。
なら〝世間知らず〟の私はテオたちと共に隣国で多くのことを経験していけば、きっと年相応のレディーになれるってことでしょう?
「やあリウィア。今日も来たよ」
「あんまり積極的すぎると逆に引かれることがあるって知ってますか陛下」
「イェルク、黙ってろ」
「あ、テオ! いいところに」
「うん?」
相変わらず仲良しのテオとイェルクさんのやりとりはもう見慣れているので気にしない。
私はそれよりも何よりも、決意したことを二人に聞いてもらいたかった。




