45話
そうして私は緊張しながら、幼い頃からの話をした。
幼い時分は家族仲が良かったこと、母を亡くしてラモーナが知人の紹介で後妻としてきたこと、父が生きている間はとても良い家族だと思っていたこと。
けれど父の死後、彼女たちの様子は豹変し、物置部屋に入れられ日々折檻を受けたこと、使用人たちの安全を盾に服従させられたこと、怖くて動けなかったこと……。
領地の運営だけ押しつけられたがそれ以外の教育を受けていないこと、貴族としては何もかもが足りないことも含め私は話をした。
「陛下より賜った伯爵という身分を、守れなかったことをお詫びいたします。返上し、領民のためにも良き領主を新たに定めていただければと思っております」
「……そうか」
陛下によると、近年同じように再婚相手の家族によって令息、令嬢が虐げられる話が少なくないのだという。
貴族同士の再婚であれば跡目争いが生じるのは予想の範囲内だとしても、平民との再婚にはそれが生じないと元より法律で定められているというのに乗っ取り行為を行おうとしたことが明るみに出たのは、オルヘン伯爵家だけではないらしい。
「これまでも混乱を避けるため、内々に処理されてきたことではあるがな……しかしこれ以上は隠し通せまい。いや、隠さない方がためになると言った方が正しいか……」
「……そう、ですか……」
これからは法ももっと厳しくなるだろうし、身分差での婚姻についてもいろいろと起こるのだろうなと思った。
勿論、知人の紹介などが有ってもある程度調査をみんな行ってはいるのだろうけど、それでも相手が一枚上手な場合はあるし、うちだってきっとお父様は再婚に際して紹介されたラモーナについて人を使って調べたと思う。
そういう意味では、裏にいたグレッグのずる賢さがそれを上回っていたってだけのこと。
でも、領地を治める貴族がそれでは困るのだ。
シワ寄せが来るのは領民だし、実際乗っ取られていたら今頃どうなっていたのかわからない。
勿論当人たちが傷つくだけでは済まなかったろうから。
「話は変わるが、リウィア嬢はメギドラ使節団の世話もしてくれたんだって? そちらについても礼を言わせてもらいたい。恥ずべきことだが、今だ城内でも偏見を正すには至っておらず、テオバルド殿率いる使節団員たちには迷惑をかけた」
「あ、いえ……彼らが事情も話せない私を快く受け入れてくれたおかげで、最後までこうして抗うことができました。むしろ私の方がお世話になりっぱなしで……」
「リウィアがいてくれたおかげでユノス王国内各地との連絡も滞りなく、むしろ友好的に済ませられたと部下たちからは報告を受けています。偏見のない目で我らを見てくれた貴重な女性ですよ」
「まあ……ふふ、テオバルド殿はリウィア嬢のことを本当に大切に思っておられるのですね」
「ええ。この世の何よりも大切に想っております」
「ちょっ……」
「今回無理を押して使節団の一員としてこの国に参りましたが、彼女の窮状を救う手助けができたことは望外の喜びです。彼女に何かあったら竜の力を暴走させてしまうところでした」
「あらまあ」
ホホホと王妃様はテオの言葉を笑って流してくれたけど、テオの発言はかなりまずいのでは?
私もレネさんやヨアヒムさんからちょっと聞いただけだけれど、メギドラ人にとっての祖たる竜の力を受け継ぐってのはすごいことらしいから……オルヘン伯爵家で見たあの雷も、テオが起こしたっていうからびっくりよね。
竜ってお伽話の中でしか知らないから、実際にはどんな存在だったのかしら。
「……まあそれはともかくとして、どうだろうかリウィア嬢。爵位の返上は一度保留とするが新たなる領主として有能な者を送ることを約束しよう。令嬢として学び直したいこともあるだろうし、必要とあれば別の貴族家へ養子縁組の仲介もしよう」
「え……」
「代わりに、メギドラへの特使の任を引き受けてもらいたいのだ。君ならば、きっと上手くやってくれると信じているよ」
私は目を丸くする。
破格のお話だ……と思ったが、最後の最後に陛下、それ私に拒否権がない仰いようですね!




