43話
王城から来たという文官がオルヘン伯爵家に到着して、当面の領地の管理をしてくれることになって私もテオに連れられて、王都に戻っていた。
すぐに王城に向かって証言するのかと思ったけど、そうではないらしい。
そのため私の身柄はテオが預かるとして、またあの使節団のみんなが暮らす宿舎に戻ったというわけだ。
たかだか数日離れていただけで何ヶ月も離れていたかのような気分で、私の姿を見て駆け寄ってきてくれたレネさんやクルトさんに抱きしめられて泣いてしまったのはちょっぴり恥ずかしい話だ。
レウドルフさんにはものすごい謝られてしまったけれど、あれは私がどうしても一人で買い物したいって言ったせいでもあるし、本当に運が悪かったからって話でもあって……うん、誰も悪くないと思うんだ。
グレッグが犯罪者であったことを考えれば、その男の愛人であったラモーナの義理の娘である私も一味の可能性があると判断されてしまうのも仕方ない。
それを証言者として立たせるには、それ相応の手続きが必要なんだそうだ。
「まったく……リウィアがあんなやつらのせいで苦労したのも、この国の人々が見逃していたせいだっていうのに」
「テオったらそんなこと言わないで。こうして法の下、きちんと裁きを下してもらえるなら私にとってそれ以上のことはないわ」
元より、領主としてこの後やっていけるのかは不安に思っていたのだ。
あの家で育った娘としては爵位返上について、先祖や亡き両親に対して申し訳なさはあるが……それでも力の足りない小娘がボロボロの状態を引き継ぐより、もっと熟練の、信頼できる人が治めてくれるほうが領民のためになるというものだ。
国王陛下だって我が家の窮状を知ってくれたなら、きっと正しく新しい領主を選んでくださるに違いない。
「リウィア……」
「諦めずにいて良かった。正しくこの身分を陛下にお返しできる日を迎えられたのは、テオのおかげね。まだ気が早いけど……平民になったらきっとテオにはもう会えないだろうから、今のうちにお礼を言わせて」
「そんな! この国で平民になってもメギドラに来てくれればいいんだ」
ぎゅっとテオが私の手を両手で握った。
その袖に、私が買ったあの日のカフスがあることに気がついてそこに視線を落とせばテオも言葉を止めて、カフスに目をやる。
「カフス、ありがとう。それから羽ペンも」
「……レウドルフさん、届けてくれたのね」
「ああ。大事に使わせてもらうよ。……あのさ、リウィア。そもそも俺はリウィアに会いたくて来たんだし、この件が済んだら――」
「リウィアちゃんが帰ってきたって!?」
バーンと派手な音がしてドアが開く。
そこには満面の笑みのイェルクさんがいた。
そしてそんなイェルクさんの腰を引っ張るようにして逆に引きずられているレネさんの姿も。
「あ、あれ……もしかして私、タイミング悪いところに来ちゃいました?」
「馬鹿ー! だからいつも空気を読めって言ってるだろ、この馬鹿犬!! すみません陛下すぐ連れて下がりますから!!」
珍しいレネさんの絶叫と共に、離れたところからヨアヒムさんの笑う声が聞こえてくる。
私は手を握られたまま、チラリとテオをみれば――彼は無表情に、イェルクさんがいた場所を見ていた。
「……え、ええと、テオ。何か言いかけなかった……?」
「……うん。王城での証言の後に話すよ。……うん。ちょっと体を動かしてこようと思うから、リウィアは休んでて」
その声はいつも通りだったし笑顔も朗らかだったけど、ぐるりと腕を回しながら「イェルクー、鍛錬しよう!」という声に対して「陛下本当にごめんなさいー!!」という悲しげな叫び声とヨアヒムさんの大爆笑が聞こえてきた。
日常が戻ったなあと思うけど、イェルクさん……どうかこの後無事でありますように!
よくわからないけど!




