41話
『俺は、俺の名前は正式にはテオバルド。テオバルド・イル・ユェール・メギドラ。初代国王と同じ竜族としての力を受け継いだ、今代のメギドラの王だ』
あの日、明かされたテオの正体。
メギドラで生まれた子供は大抵が産まれた瞬間に獣種がわかる。
大半は両親のうちどちらかの形質を受け継ぐが、獣種関係なく結ばれることもあって中には先祖返りすることもあって、ある程度の年齢まではわからないこともあるそうだ。
そんな中、犬系の獣人であるテオの母親から生まれたはずのテオには犬の耳もなければ、父親である王の形質も見受けられない。
遠縁には蛇や猿の獣種もいたので、もう少しすればはっきりするだろう……と思われていた中でなかなか発現せず、いわゆるメギドラ人としては落ちこぼれ扱いを受けていたのだという。
「まあそれでも母は継承権争いに巻き込まれないで済むと、それはそれで安心していたようだ。王も碌な能力を持たない俺を役立たずと思ったんだろう、母の実家に送られた。それがリウィアと出会ったあの辺りなんだ」
「……そうだったの……」
「あの鈴は、犬族だったら聞こえる音が鳴るんだ。母が俺の身を案じて、持たせてくれた」
「これ?」
「ああ」
鳴らない鈴は、ちゃんと鳴っていたらしい。
なるほど、これがあったからテオはあの再会の時も私が〝リウィア〟であると確信を持っていたわけだ。
「母は流行病でもういないが、俺に『守りたいと想える人に出会ったらこのお守りを渡せ』と言ってくれていたんだ。だからリウィアに渡した」
役立たずと実の父親にまで言われ、母方の生家に送られた上に母を亡くしたテオ。
そこで何も知らない私と出会い、ただ無邪気に遊んだ――それが彼にとって、どれほどの救いになったのか私には想像もできない。
「俺は〝役立たずの王子〟のままで良かった。だけど、メギドラ人の俺と遊んでいることはやっぱりリウィアの両親や周囲の人々にとっては脅威だったんだと思う」
そうだ、小さな頃はよくわからなかった。
だけど当時の情勢を考えれば、幼い子供たちの友情を壊してでも我が子の安全を守りたいと両親が思っても何も不思議ではない。
(あの頃の記憶は曖昧だけど……)
『大事なものだから、リウィアに持っていてほしいんだ。離ればなれになっても、僕が助けに行けるように』
お別れの日、テオは私にそう言ってくれた。
そして――本当に、助けてくれた。いろいろと。
「……リウィアに会いに行くには、メギドラが安定しなければならなかった。国としての地位を確立し、安全を確保しなければ迷惑がかかると知った。そうして、リウィアに会うために王権を手にすることにしたんだ」
「そんな……私のために!?」
「俺にとっては国よりも何よりも、リウィアが大事だったから」
竜種――それはメギドラにおける、頂点とも言える存在。
幻としてしか伝わらない、伝説では全知全能とまで言われた竜の血を受け継ぐ者。
初代国王が竜で、当時の豪族の娘と結ばれてメギドラという国が興ったと言われている。
だから先祖返りの竜種とわかれば、それだけで継承権争いのトップに立つことができたはずだった。
だけど争いごとに巻き込まれないで欲しいと願っていたお母様のことや、テオにとって肉親としての情など殆ど無い父親や腹違いの兄たちと争ってまで欲するほど〝権力〟は彼にとって魅力的ではなかったのだという。
初めて明確に感じた欲求。
その先にあるのは私という存在。
(そんな……)
そんな恐ろしく重い感情を向けられていたとか、そんなことってある!?




