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薄幸令嬢、自分で道を切り拓く!~諦めが悪くて何が悪い!~  作者: 玉響なつめ
第四幕 何もかもを取り戻す

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36話

『こっちだけが得をしようとするとね、相手は反発するものなんだよ~』

 

 クルトさんが教えてくれた。


『持っているカードなんて相手にわかりゃしねえんだ。捨て札しかなくたって余裕ぶっかましてりゃあ相手が勝手に邪推する。そこが狙い目だぜ』


 ヨアヒムさんが教えてくれた。


『相手の言葉に耳を傾ける。たとえポーズであったとしても、相手の目にそれが真摯に写ればいい』


 レウドルフさんが教えてくれた。


『無理に距離を、詰めちゃだめ……、警戒され、ちゃう。狩りも、交渉も、忍耐が……大事……』


 レネさんが教えてくれた。


『相手の重視するところが何なのか。それを見誤らなければ、あとは周りから削るだけだよ』


 イェルクさんが教えてくれた。


 それは王国内の各所を巡る中で、メギドラに来てくれた人たちの家族と話し合いを設けるためのコツだったり……仲間内でやっているカードゲームでの遊び方だったり、それこそお買い物で交渉するためのポイントだったりするわけだけど。


 今はなんだか、彼らとのそんなやりとりが、私の背中を支えてくれている気がする。

 勝手な思い込みと言われればその通り。


 でも、今の私にとって心の拠り所。


(テオ)


 いつもポケットに忍ばせている、彼からもらったお守り。

 鳴らない鈴だから、持ち歩いても奪われることがないから安心だ。


「……私の要求は二つ。跡取りとして尊重してくれること、それからフォーレ様との婚約を解消したい」


「ほお。なるほど、なるほど……」


 私の提案に、グレッグは意外そうな表情を見せる。


 きっと彼は私がもっと別の要求をすると思っていたんじゃなかろうか。

 例えば、ラモーナとカトリンを追い出せとか……後はそう、オルヘン家の財産を自分に掌握させろ、とか?


 我ながら想像力が貧困だけど、とにかくグレッグを排除できないなら他を排除しろって言って、それから実権を求めてくるんじゃないかと思ってたんじゃなかろうか。

 それこそ、物を知らない小娘だと知っているから。


「ちょっと会わないうちに、知恵をつけてきたか……」


 それでも小馬鹿にしたように唇の端だけつり上げるようにして嗤うグレッグは、まだまだ余裕だ。

 私もその表情を見て、笑顔を返す。


 そう、ここで焦ったり緊張している姿を見せてはいけない。

 まだ口火を切っただけ……そのはずだ。そうだよね?


「まずフォーレ様ね。私は義妹(いもうと)を妊娠させた男と結婚するなんてごめんだわ。貴方だってそんな男を連れてきた……なんてことが知れるのは嬉しくないでしょう?」


「そうだな。……まあカトリンに諦めさせるって手もあるが?」


「でも人の口に戸は立てられない。社交に顔を出していたあの子がフォーレ様と親しくしていたのはすでに大勢が知っているんじゃない?」


「……チッ、まあそりゃそうだ」


 グレッグの態度が僅かに悪くなり、苛立ちが透けて見える。

 よしよし、いい感じだ!


「いいだろう。フォーレにはまだ価値があるが、やっちまったことはどうにもできん。ただし、カトリンの身柄についてはこちらで好きにさせてもらうぞ」


「……酷いことはしないで」


「ハッ、お優しいことで」


 元よりラモーナとカトリンに関しては、私の意見など採用されないことはわかっている。

 彼女たちはあくまでグレッグの駒であって、それ以上でもそれ以下でもない。


 ただラモーナがグレッグとは長い(・・)付き合いだと言っていたから、そう悪いことにはならないと……思いたいけど、どうだろうか。


「こんなことなら最初からお前を懐柔して手駒にしておくべきだったな。まあまあ使える駒にはなったろうに」


「……当時はラモーナたちの方が使えると思ったんでしょう」


「使えるというよりは便利だっただけだ。やかましいが、扱いやすいからな」


 ククッと喉で嗤うグレッグの真意はわからない。

 だけど、まだまだ私との話し合いにおいて彼は圧倒的に有利だと疑いもしない様子だった。


(どうして?)


 フォーレ様という手駒と私を結婚させて、その子供を取り上げる……そういう計画だったはずだけど、それが頓挫して次の駒を探さなくちゃいけないのは彼にとって時間を無駄だと思ってもおかしくない。


 ただ、それでも私が従順になる方が得だと考えたのは違いないだろうけど……それでも不機嫌になる様子もないなんて、これまでのグレッグを知る私としては驚きだ。


(最終的に、私を絶対に従わせるだけの切り札があるってこと……?)


 それが何かわからないから、怖い。

 怖いけど、顔に出してはならない……これがなかなか難しい。


 でもそんな私の動揺を、グレッグは容易く見破ったようだ。


「まさかお前が王都まで逃げていたなんてなあ。なかなかどうして、行けやしないと思っていたから盲点だった。はは、運がなかったなあ」


「……ええ、そうね」


 同情する眼差し、だがそこに混じる侮蔑の色は消えない。

 この男は、本気で私に同情している。

 そして同時に愚か者の無駄な抵抗だと嘲笑っている。


(でも、どうして?)


 確かにグレッグはラモーナ経由でオルヘン家の印章を持っているし、実権を握っているのは事実だけど……彼も苛立ちを見せる程度に私に変化があったのだから、もっと警戒されてもおかしくないはずなのに。


「この数日、ちょいと情報を手に入れる為に動いていてなあ」


「!」


「王都にも伝手があって良かったぜ。なあ? オジョウサマ!」

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