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薄幸令嬢、自分で道を切り拓く!~諦めが悪くて何が悪い!~  作者: 玉響なつめ
第三幕 名前のついた気持ちと覚悟

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23話

 レウドルフさんとのお買い物はかなり楽だ。

 ただまあ、子供たちが着いてきてなんだか行列みたいになるのがおかしくて、ついつい笑っちゃうのが難点と言えば難点、かな?


 もうすでにここ最近の名物みたいになっていて、周囲の人たちも最初の頃こそ戦々恐々としていたけど今じゃ微笑ましいものを見る目だ。


『貴女と歩いているあの人たち、体は大きいけれど小さな子供たちを邪険にするでもないし……思っていたよりは、怖くないのかしらねえ』


 よく行く生鮮食品を扱うお店の女将さんがそんな風に言ってくれたことが、私はとても嬉しかった。

 私に対して気遣いを見せる彼らは、思っていたよりもずっと怖くない人たちなんじゃないかって、少しでも思ってもらえたなら嬉しい。


 やっぱりここ何十年かの間に起こった問題は根強くて、偏見がなくなるまですごく時間がかかるんだろうけど……それでも今、目の前にいる彼らはとても素敵な人たちだということを知ってもらえたことが、私はとても誇らしい。


(お互いの国を理解していくのって、きっと何年も必要なことよね)


 政治的なあれこれは、私が爵位を得たとしても縁のない中枢の人たちが行うことだ。

 それでも国は政治だけではなく、こうして暮らす人たちの気持ちが大事だと思う。


 今日一緒に歩くレウドルフさんも、以前よりもお散歩に行く回数が増えている気がする。


「いいお天気ですねえ、レウドルフさん」


「ああ、そうだなあ」

 

「そこの広場で休憩してくれてもいいんですよ?」


「だが」


 後ろをついてくる子供たちが期待した目で追ってきているのを、私もレウドルフさんも気づいている。


 恐る恐る、しかし好奇心が強い子供たちは親の言いつけを破って獣耳や尻尾を持つメギドラ人に興味津々で、特にユノス人よりも体格のいいヨアヒムさんやレウドルフさんが気になって仕方なかったようなのだ。


 特にレウドルフさんは大きな角があるからね。

 ヨアヒムさんのしましま尻尾もなかなか人気らしいんだけど……。


(時々、遊んであげているって話だし)


 なんでもヨアヒムさんはその腕力を生かして子供たち数人をいっぺんに抱き上げて見せるとか、尻尾を追い回す子供たちに『捕まえてみろ』ってやるとかして遊んであげているらしい。

 レウドルフさんも同じく子供たちを高く持ち上げてあげたり、膝に乗せてあげたり……後はメギドラの話をせがまれることもあるんだって。


 なんでもレウドルフさんはメギドラの北方に位置する部族で、冬になるとすごく雪が降るんですって。

 ユノスは雪の降らない国なので、子供たちは『雪ってなに!?』と興味津々ってわけ。

 それとレウドルフさんのご立派な角もなんのためにあるのかとか、メギドラ人はなんでみんな違う耳や尻尾を持っているのかとか……種族が違うからっていうだけじゃ納得しない子供特有の好奇心って素晴らしい。


(クルトさんが一度解説を始めたら難しい話はつまらないって子供たちはあっという間に離れちゃったのよね……)


 ショックを受けていたクルトさんには申し訳ないけど、あの人自分の興味ある分野になると途端に熱が入るからなあ。

 それでものんびりとした語り口調はさすが小児科のお医者さんって感じで人気なんだけれど。


 ちなみにレネさんは子供が苦手……というよりは賑やかなのが苦手なので、町中に出るのは好きじゃないみたい。

 イェルクさんは子供たちと遊ぶって言うよりは遊ばれているっていうか……耳触らせて! って子供たちに引っ張られすぎて、しょんぼりして帰ってきたこともあったっけ。


(基本的に使節団の人たちって子供に優しいよね……)


 今だって子供たちがレウドルフさんとお話がしたくてうずうずしている様子なのを、ずーっとレウドルフさんも気にしているんだもの。


「……あの子たちについ、そろそろ角が取れそうだって話をしてしまったんだ」


「あら、じゃあ角がほしくて待っているんですかね?」


「どうだろう」


 以前私も〝ポロリと取れる〟って聞いていたからちょっと興味があると言えばある。

 だってこんなに立派な角がそんな簡単に取れるものなの? って思うじゃない。


 レウドルフさんの角はユノスにいる獣のどれとも似ていないから、みんな不思議がるのも当然と言えば当然よね?


「……取れたらリウィアにもお守りを作らせてほしい。これまでの感謝の気持ちを込めて作るよ」


「いいんですか?」


「ああ。もうわたしたちは仲間だろ?」


「仲間……」


 当たり前のように言われたことが、すごく嬉しくて私は思わず足を止めていた。

 そんな私を、レウドルフさんも優しく見下ろしていたけれど――立ち止まったのがいけないのだろう。


 子供たちがあっという間に彼を取り囲みお話を聞かせてくれと強請る様子に、私たちは顔を見合わせて笑ったのだった。

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