22話
翌日、レウドルフさんとの買い出しに行く前に、私は自分に気合いを入れていた。
(告白しよう……!)
あれからいろいろ考えた。
考えて考えて悪い方にばかり考えが行って……とぐるぐるしていたけど、大前提として私は何も彼に事情を伝えていないのだ。
ならシンプルに考えようと思った。
私はそもそも人を見る目がない。それは残念ながら事実だ。
ラモーナも、カロリンも、いい人だと信じ切っていたくらいだからね。
そして残念なことに人を見る目も養えていない、と、思う。
たとえば商人としてこの人は目利きだ、とか。
この人の笑顔は胡散臭い、とか。
そういうのは、たくさんオルヘン伯爵家で働いていた時に見たけど。
(あの商人さんたちは私のことを使用人だと思っていたしなあ)
私が伯爵になった後に顔を合わせたら、いったいどんな表情になってしまうんだろう。
まあ使用人と勘違いされていたからこそ、彼らの普段の態度を見ることができた……と考えれば幸運だったと思うべきなんでしょうね。
とりあえず、私は社交界デビューすらできていないから、貴族としてのやりとりや言い回し、仕草、本来なら貴族同士のやりとりで学ぶべきことすら学べていない。
今はまさしく家令どころか執事見習い程度の知識しかないのだ。
だから、あれこれ考えても無駄だって思ったのだ。
オルヘン伯爵家とか、跡目を継ぐとか、そういうのを全部置いておいて私はどうしたいのか?
テオがもしも私の傍にずっといたいと言ってくれるなら、今後どうするかはそれこそ二人で決めなくちゃいけないことだ。
ただこの国にいるだけの恋人関係になりたいとか、連れて行けないなら諦めるとか、そういうことだってテオと話し合わなきゃ何もわからない。
なら私がすべきことはなんだ?
うじうじ悩むのではなく、当たって砕けろ。
それしかない!
「よっし……まずは今日の買い出しから頑張ろう!!」
恋に浮かれてお仕事を疎かにするようじゃ、テオに告白する以前に自分自身にがっかりしちゃうからね!!
すでにレウドルフさんは外で待っているらしく、帽子を片手に私も合流しようとしたところでクルトさんに呼び止められた。
なんだろうと思うと、彼は私に小さな革袋を渡す。
「これ、リウィアちゃんにお小遣い~」
「ええ?」
「これで好きなお菓子でも買いなよ。それでねえ今日はいつものライ麦パンとスープがいいなあ~、あと果物もあったら嬉し~」
「もう、クルトさんったら……それ昨日もリクエストしてたじゃないですか。このお駄賃はお返しします」
「もう、しっかりさんなんだから~。リウィアちゃんの作る野菜スープ、すっごく優しい味がして美味しいんだもの。レウドルフはともかく、肉食のヨアヒムが野菜スープおかわりしてんのなんてボク、この国に来るまで見たことなかったよ~?」
「……クルトさんたちってみんな付き合い長いんですか?」
「そうだなあ~……ボクの付き合いで言えば、一番長いのはレウドルフだよ。医師の常駐がないような場所なんかに移動するのにね、彼が護衛任務についてくれることが多かったからさ~」
「へえ……」
「そういう意味で付き合いが一番短いのはレネだね~。今回の件で初めて顔を合わせたから~」
「そうなんですか? 仲良しに見えますけど」
「出会った時間だけが仲良くなる理由じゃあないと思うからねえ~。で、今夜は野菜スープ……」
「ふふっ、はい。市場でいいお野菜探してきますね!」
「やった~!」
クルトさんはご機嫌にその場で軽く一回転して笑顔で部屋を出て行った。
私の野菜スープ、そんなに人気だったんだあ。
彼らは一度も私の料理を残したことがなかったから気づかなかったけど、言われてみるとそうかも?
ジワジワと喜びが胸の内を満たしていく。
私がここで認められて、受け入れられて、そして求められている。
そのことが何よりも〝私〟を象っているようで、あの家にいた頃よりも少しだけ……本当に少しだけだけど、強くなれている気がした。




