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薄幸令嬢、自分で道を切り拓く!~諦めが悪くて何が悪い!~  作者: 玉響なつめ
第二幕 新生活は雑用から

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19話

「リウィア、これやるよ」


「……なんですか? これ」


 ある日、ヨアヒムさんから小さな小箱を渡された。

 中身はなんとも可愛らしい、木彫りの虎だ。


 どことなく自慢げにヨアヒムさんは鼻をかきながらどうだ! と言わんばかりに胸を反らしている。

 大柄な男の人がこんなちっちゃな木彫りの虎を自慢げに渡してくる姿はなんだか可愛らしくて、思わず笑みが零れた。


「おれたちトラ族は、子供の頃からこうした小物を作ることで刃物の扱いを覚えるんだ。そして、贈り物にする」


「へえ~……」


「この間、リウィアの助言のおかげで助かったからな! レウドルフの代わりに礼を言う。ありがとな!」


「え?」


「レウドルフがこの間行った先はな、アイツの兄の嫁さんの郷里だったのさ」


「ええ!? そんなこと、レウドルフさんは一言も……」


「だろうな。あいつはそういうのは言わない性格だからよ。他にもまだまだ連絡を取らなくちゃならねえ人たちがいるのに、自分とこが終わったからって気ぃ抜けないだろ? のほほんとしているように見えてそういうトコが気にしぃなんだよアイツ」


 おれは親切だからな、そう笑うヨアヒムさんはその大きな手で私の頭をやや乱暴に撫でた。

 彼なりに気を使って優しく撫でてくれたんだとは思うけど、力加減が強いのよね。

 すっかり髪がボサボサになってしまった。


「この使節団にいる連中は、家族の誰かしらがこの国の出身の配偶者がいるんだよ」


「……ヨアヒムさんも?」


「おう。ばあさんの旦那……つまりおれにとってのじいさんだな。さすがに会いに行くのは緊張した。なんせ、うちのじいさんは家族に啖呵切ってばあさんを追っかけて国境を突破してきた変わり者なもんだからよ……あちらさんがどう思っているか全くわからなくてさ」


「ええ……!?」


「で、見つけたはいいが、びっくら仰天、あちらさんにめちゃくちゃ謝られちまってな」


「えええ!?」


「ふは、おもしれぇ顔すんなあ。まあ、おれもあれには面食らっちまった」


 私の手のひらに乗る木彫りの虎を指先で撫でながら、ヨアヒムさんは笑った。

 その目は、すごく優しい。


「あちらさんはうちのじいさんが熱烈すぎて、ばあさんのこと怖がらせたんじゃないかってずっと心配していたらしい。追っかけていって迷惑かけてないかって。まあ、ばあさんと仲良くやってるって伝えておいた」


 ヨアヒムさんによると、当時若きおばあさんはトラ獣人なのを隠して出稼ぎに来ていたところでおじいさんと出会って恋に落ち、隠れて愛を育んだんだそうだ。

 けど子供ができたことでおばあさんは『いつまでも獣人であることは隠せない』と母国に戻る決心をしたんだそう。


 獣人と人間の間に生まれる子供は高確率で獣人の形質を受け継いでいるらしく、メギドラの民に対する風当たりを考えたらそれも仕方のない話だったのかもしれない。


「でもまあ、ばあさんだって一方的に逃げたわけじゃねえ。じいさんに『子供は一人で育ててみせるから任せろ』っつったらしいんだよ。でもじいさんからしてみたら、納得できねえだろ」


「まあそりゃそうですよねえ」


 子供ができました、獣人でした、だからさよならです!

 っていきなり言われたら私だったら混乱しちゃいそう。


「けど当時のメギドラは情勢も不安定だったから、ばあさんはじいさんの将来を考えてこっそり帰国した……んだが、そっから半月もしねえうちにじいさんはトラ獣人の里にやってきたってわけだ」


「わあ、すごい……!」


「それで居着いたじいさんはユノスの家族に対して『惚れた女を追っかけねえような息子は親にとっても恥だろう! 俺ぁ筋を通すし、その方が両親も喜ぶさ!!』って笑って言い切ったらしい。でも、ばあさんはずっと悔やんでいた」


 家族を捨てさせてしまった……と。


 ヨアヒムさんいわく、おじいさんはさっぱりした人だったのでそれだけの覚悟をもって妻と子を守る道を選んだのだから、おばあさんが責任を感じるのはまた違う気がするらしいんだけど……とても難しい話だなと思った。


 だからヨアヒムさんも、今回のことで双方の親戚に元気であること、幸せであることを伝えられて安心したみたいだった。


「なんていうか……縁がある連中がここで頑張っている中で、アンタが手を貸してくれた。それで上手く行った。だから感謝してンだ」


「そんな……」


「テオのことも頼むよ。あいつはアンタにしか頼めねえからさ」


「え?」


「それじゃあおれはちょっくら昼寝してくらぁ。なんかあったらいつでも起こしてくれや!」


 ひらりと手を振ってヨアヒムさんは去って行く。

 ゆらゆらと長い尻尾がご機嫌に揺れるのを、私はただ呆然と見送るのだった。

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