17話
テオに褒めてもらってから、もっと頑張ろうと思えた。
我ながら現金なことだと思うけど、やっぱり認められるっていうのは嬉しい。
それと同時に、あの家での私の扱いはおかしかったんだなと改めて思い知って、落ち込むこともあるけれど。
みんなから、特にテオから大事にされればされるほど、私がどれほど惨めだったのかを感じて胸が苦しくなる。
ああ、私は……あの家で、家族ではなかったんだなあって。
ラモーナとカトリンとは血が繋がっていないのは事実だし、それでも……それでも、一時期は家族として暮らしていたのが真っ赤な嘘だったという現実に胸が痛くなる。
頭ではわかっていても、心のどこかでまだ期待していたんだろうか?
だとしたら、私はどこまで幼いままなのだろうか。自分でも呆れてしまう。
(このお皿の汚れみたいに、モヤモヤが全部拭き取れちゃえばいいのになあ)
キュッと洗い終わったお皿を拭いて、ため息をつく。
ここでの暮らしが満たされるものであればあるほど自分が惨めになるなんて、思わなかったのだ。
私を傷つけ追い詰めているのは、同じユノス人で……しかも、書類上は家族。
なのに私を癒やすのは、野蛮人とまで言われていたメギドラ人で、つい最近までまるで知らなかった相手だというのはなんという皮肉だろう。
(それもこれもあと四ヶ月後には……)
正確には、あと三ヶ月半程度。
テオが前もって約束してくれた通り、お給金はとてもいい。
隠れ住む必要はなくなったから、生活させてもらえるだけでも十分なんだけど……私は相変わらず、彼らに自分の事情を説明できていない。
こんな私を受け入れてくれる彼らの寛大さにはいくら感謝しても足りないくらいだ。
それどころか彼らは、私の時間が許される限り自分たちを手助けしてくれたらありがたいとまで言ってくれる。
その言葉には、正直気持ちがぐらつく。
(……オルヘン伯爵家は、絶対に継がなくちゃいけないものだろうか?)
私にとって、両親との思い出も、両親の〝貴族としての矜持〟も大事なものだ。
けれどそれはあくまで両親が守ってきた〝オルヘン伯爵家〟の名前をあんな人たちのいいようにされるのがいやで逃げ出して、そして見返してやろうとしているだけで……。
(私は、オルヘン伯爵になりたいの?)
自分に問いかけてみても、答えは出ない。
それでも、あと三ヶ月半で答えを出さなくちゃいけない。
どんな結論を出そうとも、私は成人と共に一度は貴族院議会に顔を出さなければ。
私が跡目を継ぐにしろ、領地と爵位を返上するにしろ、ラモーナたちの横暴についてはなんとかしなくてはならない。
それだけは許せないのだから。
「リウィア」
「あっ、テオ……」
「また何か悩み事? 眉間の皺がすごいことになってたよ」
「やだ、本当!?」
「それでも可愛い」
「もう!」
物思いに耽っていたら、テオに額をつつかれた。
くすくす笑う彼は今日もとても美人さんで、私はその笑顔から揶揄われたのだと気づいて拗ねたフリをする。
まるで物語の恋人同士みたいなやりとりに気恥ずかしくなるけれど、テオが私を見る目がどこまでも優しくて……私はつい、テオに手を伸ばしていた。
「ッ、リウィア?」
私の指先が彼の頬に触れるか触れないかのところで、テオが顔を真っ赤に染めた。
その顔を見て、私も自分が今何をしようとしていたのかに気がついて慌てて手を引っ込める。
顔が熱い。
きっと、私もテオに負けないくらい、顔が真っ赤になっていると思う。
「ご、ごめん……」
謝ったけど、テオが照れるから!
いつも彼からハグしてきたり、口説くような言葉を投げかけてくるのに……ただ私が触れようとしただけでそんなに真っ赤になるなんて!
ずるいわ!!




