14話
「あっそうだ~、リウィアちゃん。今日ね、ボクとレネが外出するけど、夕飯前に戻るからねえ。何か買って帰ってきた方がいいものとかあれば買ってくるよ~」
「……重たいの、とか、大変……でしょ?」
「ありがとうございます、お二人とも。でも大丈夫です! 先日まとめ買いが済んでますから!」
一緒に暮らし始めてわかったのは、決して獣人族はこの国で昔から言われているような〝蛮族〟なんかではなく、理知的で円滑な関係を築くに値する人間性を持っているということ。
種族ごとに特性も違うし、見た目も……ユノス人に比べると体格の良い人たちが多いのは事実だけど、それだけで怖がるのは失礼よね。
ただまあ、この二人はまだ〝背が大きいな〟程度にしか感じないので周囲の人たちも受け入れやすい方だと思う。
「おはよう」
「おっ、二人ともようやく起きてきたのか。今日はお前らが担当だろう? 騒ぎは起こすなよ」
「わかってるってぇ。おはよ~、ヨアヒム、レウドルフ」
「ん……おはよ……」
外からぬぅっと入ってきた男性二人にクルトさんが軽く手を挙げる。
入ってきたのは、トラの獣人のヨアヒムさんとヘラジカの獣人のレウドルフさんだ。
この二人は性格も穏やかでおおらかなんだけど、体格が規格外っていうか……ただそこにいるだけで威圧感があるほど、大きいのだ。
二人は武官だそうで、体を動かすのは得意だけど書類作業や料理といった細かい作業は苦手という典型例だった。
まるっきりできないわけじゃないらしいけどね!
ただまあなんて言うか……そうね、一言で表すなら豪快って感じ。
私が到着した当日は彼らがもてなしてくれて、当番制だったお料理がちょうどヨアヒムさんの番で……その日の晩ご飯は豪快に焼かれたお肉と、お野菜は茹でたものがざく切り、それから積み上げられたパンだったのは衝撃だった。
いや、うん。
野菜の切れ端肉なしスープとカッチカチのパンでもご馳走だった私からすれば、感謝しかなかったけども。
「薪割は済んでいるから、必要ならいつでも言ってくれ。力仕事なら任せろ!」
豪快に笑うヨアヒムさんはムキッと力こぶを見せてくる。
この人は面倒見も良くて母国でも兄貴分として慕われているらしく、なんだかよくわかる気がした。
こんな兄がいたら私もあんな目に遭わなかったのかなあと思うけど……でも酒癖がとんでもなく悪いらしいから気をつけろって言われたっけ。
(なんでも、酔っ払うと暴れるんだっけ……)
対するレウドルフさんは大きな角があちこちにぶつかって大変そうだけど、まるで気にしていないマイペースさんだ。
穏やかないい人……なんだけど……。
「あの、レウドルフさん、もう二歩ほど右に……!」
「ん? ああ、ランプか……ありがとう、リウィア。また引っかけちゃうところだったよ」
あははと穏やかに笑うレウドルフさん。
獣人には耳や尻尾と同じように、角のある種族もいる。
そんな彼らからしたらユノス式の邸宅はちょっと狭いみたいだった。
「うーん、ランプをもっと高い位置に設置しましょうか」
「でもそれだとリウィアちゃんが困るでしょ~? ボクらがいる時はいいけどさあ」
「棒を使えばいいんですから、大丈夫ですよ」
もう、みんな私に対して心配しすぎだわ!
メギドラ人にとってユノス人が小柄だから余計に心配なのかもしれないけれど、私だってもう成人間近なんだから。
それに、あの家ではいろいろとやっていたから大抵のことは一人で大丈夫なのに。
創意工夫でどうにでもなるものだもの。
ランプを引っかけて火事の心配をするくらいなら、脚立と引っかけ棒を使えばいいだけの話だものね。
私が魔法を使えれば良かったんだけどね!
かなり昔、まだこの国ができたばかりの頃は魔法は当たり前のものだったそうだけど、現代に至っては殆どの人が魔法とは無縁だ。
魔法使いと呼ばれる特別な存在は、ごく稀に王侯貴族の中で先祖返り的に魔力を持って生まれるとされ、生まれるとすぐに魔法使いたちが暮らす魔塔に招かれるって話を聞いたことがある。
おとぎ話と同じで、どこまで本当かはわからないけど。
魔道具という方法もあるけどあれは本当に高価なもので、使うのに魔力がいるから王族くらいしか自由に使えないって聞いたことがある。
「……クルト、そろそろ、時間……」
「あっ、ほんとだ~。それじゃ、行ってきまぁす~! リウィアちゃん、今日の晩ご飯も期待してるねえ~」
「お二人とも、お気をつけていってらっしゃいませ」
使節団の人たち、ちょくちょく出かけるんだよね。
全員揃って出るってこともないし、王城とか偉い人たちと会っている様子もないけど……いったい何をしているんだろう?




