彼らの行動
セインはヴィレンドレーに入ったら、我ここにありとばかりに城門にてひと暴れする。それをもってして自身の到着をセインに知らせ、決闘の申し込みを行う。
そのキルの予想は妥当に思えた。
だがその一方で気になるのは、カイテリアだ。
ヴィレンドレーには、カイテリアと彼に従う三万の魔族がいる。
その戦況に関する情報は、道中でもニュースペーパーで目にしたり、王都からの定期連絡で教えてもらっていた。
ヴィレンドレーの裏門から攻め込んだカイテリアは、その一帯を占拠している。裏門エリアを拠点に、ヴィレンドレーの中枢部に連日猛攻を続けていた。
カイテリアは召喚術を得意としている。召喚した魔獣による攻撃は、前世で言うなら恐竜の相手をしているようなもので、実に厄介。その大きさはまさに恐竜であり、加えて火を吐くのだから……。人間が普通に相手にできる敵ではない。
そのカイテリアとセインは、ヴィレンドレーの地で再会する可能性があった。
「叔父上はカイテリアとセインがどのように動くと予想しているのだ?」
「今のセインの頭の中に、カイテリアのことは微塵もないと思う。最優先事項はシリルだ。よってカイテリアが接触してきても、セインは無視だろう」
キルがまさにそう言った時、このレストランのランチ時の一つしかない看板メニュー「ザ・ワイルド」なる定食が届いた。その名の通り、いい塩梅で焼けた塊肉がドーン、マッシュポテトがドサッ、焼き立てパンがバーンと登場。肉とパンのいい香りに皆の頬が緩む。
「無視って……叔父上、セインは騎士団の団長だった。今は率いる騎士も兵士もいないが、指揮官だったのだ。カイテリアと三万の軍を無視するのか?」
塊肉をナイフで切り分けながら、キルに尋ねる。
外はこんがり、中はジューシー。
実に美味しそうだ。
「無視、するだろうな。何せ今のセインは業腹だ。何せオデットがシリルと無理矢理、婚姻関係を結ばされたと思っているのだから」
「叔父上、それは違う。私はちゃんと平和を望んでいることを伝えている!」
そう言いながら、私は肉を頬張る。
塊肉は塩コショウだけの味付けだが、肉自身の旨味なのだろうか?
とろけるように甘い。塩コショウがそれを際立たせる。
「論点はそこではない。オデットの純潔がシリルにより散らされたと思ったのだろう、セインは。騎士でもある彼からしたら、それは実に屈辱的だったことだろう」
「はぁ? どうしてそうなる? 私は一言もそんなことしたとは言っていない!」
「だが常識的に婚姻関係を結ぶとは、そういうことだろうが。しかも北部へ旅立つなら、次、いつ戻って来られるか分からない。普通ならそこでよろしくするだろうが。『君の肌の温もりを胸に、僕は旅立つよ』って」
これには私の顔が、瞬時にボッと赤くなる。シアとペルは「まあ」と言い、魔法使いのマーシャルソンは、私と同じで顔が真っ赤なトマト。護衛騎士達はテーブルが違うので聞こえていない……と思う。
「いくらセインが騎士であっても、わ、わた、私の純潔うんぬんまで、気にする必要なんてなかろう!」
「本気で言っているのか、オデット!」
「当たり前だ! そもそも何もなかったのに、何かあったと勘違いしているセインには頭にくる。それに私の純潔をいちいち気にされることも不快だ! しごく個人的なことだろう。なぜそんなによってたかって私の……」
シアとペルは同じ女として分かってくれるだろうと思い、そちらを見るが、二人はなぜか困ったような顔をしている。マーシャルソンは肉に夢中です!というフリをしてこちらを見ない。キルは口をぽかんと開けていたが、ようやくこんなことを言う。
「まさか……奴の気持ちに……そうか。なるほど。鈍感過ぎる」
「何をだ!」
「いや……そうか。色恋沙汰とは無縁だったからな。……私はセインに同情するぞ」
「叔父上! どうしてそうなるんだ!」
この後しばらくは肉を食べながら、セインの私への干渉は迷惑だと、散々文句を言うことになる。
ひとまずセインがカイテリアと手を組まないなら、挟み撃ちされることもなさそうだが……。
シリルとセインが決闘となった時、カイテリアが動いたとしても、レウェリンやミルトン、そしてレダがいれば問題ないだろう。
むしろ、シリルとセインの戦闘がどうなるかだが……。
決闘であるならば、問題ないはずだ。
なぜならこの世界の決闘では、事前にルールが定められる。
使う武器は何にするか。
勝利条件をどうするか、勝者が敗者に望むことは何か。
そしてそもそも決闘は、双方の合意なくして成立しない。
それならば魔力もなく、魔術を使えないシリルでも、セインと同じ土俵で決闘に挑むことができる。
純粋な武器の力のみで、戦うことになるのだ。
「叔父上、これから起きることの推測はできている。こうなるともたもたせず、私たちもヴィレンドレーへ向かった方がいいのでは?」
「そうだな。ヴィレンドレーには明日の夕方到着を目指していたが……。よし。二手に分かれよう」
こうして昼食を終えると、宿はキャンセルし、二手に分かれることになった。
キルと私、護衛騎士一名は、マーシャルソンの転移魔法で、瞬時にヴィレンドレーへ行くことが決定。
シアとペル、残り九名の護衛騎士は、当初予定通り、馬車と馬でヴィレンドレーを目指す。途中野宿することになるが、このメンバーなら問題ないだろう。
「叔父上、これでセインより先にシリルの元へ到着できるだろうか?」
「そうだな。セインは風の魔術で移動速度を速めることができるが、転移魔法ほどではないからな。とはいえ、私たちだって一度の魔法で移動できるわけではない。ヴィレンドレーは近いと言っても、まだ目と鼻の先というわけではないからな」
それはその通りだった。
でも王都を出発した時に比べたら、うんと近い。
ひとまず宿に戻り、トランクなどの荷物はシアとペルに任せ、最低限必要なものだけ、身に着けるようにした。ワンピースには左右にポケットがあり、そこは令嬢の化粧ポーチであり、財布でもあった。皆、ここにいろいろなものをしまい、どうしても足りない時はハンドバックを使う。
トランクを開けるとそこには、手紙がいくつかある。
きちんと封筒に入ったものは、王都にいる時に届いたもの。それはシリルからものだ。
私が幽閉されていると知り、国王にレウェリンの魔法で手紙が届いた際。
私宛の手紙も一緒に届いていた。
この手紙を隠すことを、国王たちは考えたと思う。だが手紙は王宮で働くレター係の手元を離れ、勝手に私の所まで飛んできたのだ。扉の下のわずかな隙間を通り、部屋にいる私のところまで。
あれには本当に驚いた。
だが飛んできた手紙以上に、そこに書かれているシリルの言葉に胸が熱くなった。
私を気づかい、心配し、必ず幽閉を解かせると書かれていた。そして私がとても不安になっている時に、そばにいられないことを心から詫びてくれていたのだ。立場的にそれは仕方ないことなのに。この手紙を読んだ時は、心から感動した。
次に王都を私が出発したと知ったシリルから、伝書鳩で手紙が届いた。それは一旦、モンド公爵邸を経て、移動中の私たちのところへ届けられたもの。ヴィレンドレーまでわざわざ私が来る必要はない、危険だとしつつも、シリルは分かっていた。止めても私がきかないことを。
それにキルと魔法使いのマーシャルソンが同行することを、シリルも知っていた。よってそこは安心しつつ、でも無茶と無理はせずにして欲しいと書かれていたのだ。
伝書鳩での連絡なんて、もどかしい。
でもいくら魔法が便利でも、距離が遠いと限界がある。よって前世の私からすると、実にアナログな方法で連絡をとっているわけだが……。手書きの文字からは、書き手の温もりが伝わってくる。
封筒の手紙と、モンド公爵夫妻の手紙はトランクへ。
伝書鳩が届けてくれた手紙はコンパクトなので、これは持って行こう。
こうしてヴィレンドレーへ転移するための準備は整った。
お読みいただき、ありがとうございます。
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