表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もふもふ元大魔王の成り下がり冒険譚  作者: あらまき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/265

ハッピーエンドが大好きで


 白猫という敵に赤髪少女の出現。

 色々な事が昨夜の内に起きた。

 そしてそれらの問題は、一晩経っても何一つ解決していなかった。


 解決以前に、何一つ状況がわからないまま。

 そんな状態で、クリスの退院までの日数は残り三日を切った。


 ホワイトパールに輝く猫ちゃんは正体不明のまま帰っていった。

 どこか寂しそうというか、ぐだぐだになった事を妙に落ち込んでいた。

『私の輝かしい出番……インパクトある登場……』

 そんな事を呟いていた気がする。


 空から飛来した赤髪少女はずっと意識不明のまま。

 負傷そのものは問題ではないらしく、栄養失調とかそっちで意識が落ちているらしい。

 事情は知らないが、長期入院する事になってもお金だけは困らない様ヒルデに頼んでおいた。


 そんなこんなの午後……。

「狩猟祭の日付が決まったぞ」

 見舞いに来たユーリはその場に居るクリスとリュエルにそう伝えた。


 ユーリィ・クーラ。

 彼にとって狩猟祭は単なる学園の一行事で済まない。


 滅んだ国より亡命しハイドランドに訪れた彼の野望は同じく滅んだ国の姫との婚姻。

 その為に彼は冒険者としての成り上がりを目指し、そしてその栄光目指し踏み出す一歩目こそがこの狩猟祭。

 凡人でも名誉が手に出来る数少ないチャンスであるこの狩猟祭にユーリは全てを賭けていた。


「……期待して良いんだよな?」

 ユーリは仲間の二人に尋ねる。

 彼らの間柄は仲間と呼ぶよりも共犯者と呼ぶ方が近い。

 仲良しこよしなどではなく目的の為手を取り合っているからだ。


「当然なんよ!」

 クリスは大きな声で答える。

 約束は守る。

 それはクリスにとって当たり前である。

 それと同時に、今回の狩猟祭においてユーリを活躍させる事はとても大切な事でもあった。


 ユーリを真の仲間とする為にユーリの願いを聞き届ける。

 それはゲームでいう『クエスト』であると思っていた。

 しかもその内容が『あり得ない程高難易度』で『結婚を目指す』というのだからクリスとして盛り上がらない訳がない。

 だって、好き合った二人が結婚して『めでたしめでたし』で終わるのは物語のお決まりである。

 クリスとしても彼らには是が非でもハッピーエンドを迎えて欲しいと願っていた。


 クリスの様子を見た後、リュエルも頷く。

 リュエル自身別にユーリの事はどうでも良いと思っている。

 良くも悪くもリュエルにとっての物差しはクリスであった。


 リュエル・スターク。

 ふわふわもこもこぬいぐるみスタイルのクリスを異性的な目で見る変質者……というのは流石に言い過ぎだがそんな感じの女の子。

 自分の人生さえも『どうでも良い』と思っていた中でクリスと出会った時に感じた衝撃。

 それはリュエルの人生観全てをぶっ壊した。

 その瞬間からようやく彼女の人生が始まったと言っても良い。

 だからリュエルの情緒は赤子同然で、よちよち歩きでしか成長していない。

 逆に言えば多少はリュエルも成長しつつはあった。

『全くしょうがないから手伝ってやるか』

 ユーリに対しそう思う程度にはリュエルも変わっていた。


「……悪いな。当初の方針通り俺はこの狩猟祭に全ベッドして成り上がりを目指す。手を貸してくれ」

 そう言ってユーリは微笑む。


 かっこうつけているが、どうやってアナスタシアを嫁にするかその方針は何もまだ定まっていない。

 方針が定まる程も見通しが立っていないからだ。


 逆に言えば、その方針さえもがこの狩猟祭にかかっている。

 狩猟祭で確かな結果を残し、誰にどう評価されるかでユーリはその後の流れを決めようと考えていた。


 貴族となるか、王となるか、英雄となるか、勇者と成るか、商人となるか。

 何になるかなれるかは全てこれから。

 そして何になるかは正直重要じゃあない。

 彼女、アナスタシアを迎え入れるだけの権力が手に入れられるのなら悪魔にだって魂を売ってやる。

 それがユーリの決意であった。


「その前に一つ心配がある。ゲドラン商会が動かないかって事だ。だから……」

 ユーリの言葉にクリスは頷いた。

「うぃ。そっちは任せて」

「いけるのか? あっちは天下の大商人だぞ? ……実情が屑だとしても」

 ユーリは不安というより不審じみた表情をクリスに向ける。


『ゲドラン商会』

 ハイドランド首都を中心に活動する大商人ゲドランが保有する商会。

 ハイドランドだけでなく、大国でそれなりに活動していれば一度は彼の噂を耳にするだろう。

 わかりやすく言えば、女に汚い悪徳商人。

 好き放題女を攫っては壊し、それを楽しむ。

 噂では女が壊れる事が生きがいでありその瞬間を美酒と共に飲み干して生きているらしい。


 そんな男の玩具と成る事が決まったのがアナスタシアである。

 彼女は自らそんな大商人の生贄となった。

 国を復興とするその為に最も価値のある物を売った。


 そんな男と直接交渉出来て、そして多少の無理を利かせる事は出来るとクリスは言う。

 正直言ってユーリには信じられない事であった。


「うぃ。ぶっちゃけ延長だけなら余裕」

「まあ、ここまで来たら信じるしかないな。成否が知りたいから出来るだけ早めに頼む」

「任せて欲しいんよ。それで、狩猟祭は何時になったの?」

「来月だ。期末試験の代わりだな。代わりに期末に行う予定だったテストはなしになった」

「そりゃ残念」

「期末テストがなくなってがっかりするのはお前位だろうな」

「そうかな?」

「そうさ。それで狩猟祭の具体的な内容の説明だが……」

「ごめん。その前に私も一つ相談したい事があるんだけど良いかな?」

 クリスの言葉にユーリは黙り、リュエルはぴくっと耳を動かしクリスの顔を見た。


「……厄介事か?」

 ユーリの言葉にクリスは首を横に振る。

「ううん。違うよ。ちょっと私の成長について……なんだけど……ちょっと説明が難しい」

「どういう事だ?」

「上手く例える事は出来ないけどもし例えるなら、スキルリセットからの振り直し。でもどうしてそうなったか言えない感じ」

「なんだそりゃ。何が言いたいかもわからないな。リュエルはわかるか?」

 リュエルもユーリ同様困った顔を浮かべ、静かに首を横に振った。




 ジーク・クリス。

 ふわふわもこもこ小麦系わんこ。

 狼の様な耳があるけれど全身もふもふまるまるで狼らしさは微塵もない。

 座ればほぼほぼお饅頭状態で最も近いのがぬいぐるみなんていう不可思議生命体。


 だがその正体はこの世界における頂点、魔王ジークフリートその人である。

 ジークフリート・クリストフ・ハイドランド。

 完璧である事を意味する黄金の名にて呼ばれる最凶最悪の魔王。

 とは言え、そんな悪名と異なって私生活はポンコツであるが。

 ぶっちゃけ戦いの時以外はクリスの状態となんら変わらない。


 もふもふぬいぐるみ形態も黄金の魔王状態も、どちらも彼の本当の姿。

 二つの姿両方本物という稀有な種族であった。


 そして、今の彼は黄金の魔王の力をほとんど使えなくなっている。

 何重にも封印された今の状態では。


 それでも封印しきれず力は漏れ出しており、そしてその多重封印の中には『漏れ出る力の一部を散らし扱えない様にする』という処置も含まれていた。

 

 わかりやすく言えば、『封印強化処置によるステータスの微調整』である。

 封印処置の責任者であるヒルデはその微調整の時クリスの足りない部分を補う感じで『能力値を丸くする』様に設定した。


 その微調整を変更する事が、クリスの此度の相談内容である。

 正直に言えばそこまで劇的な変化に成る訳じゃないから放置しても良い。

 良いのだが……わざわざ出て来てくれて彼女は『敵』だと言ってくれた。

 力及ばず無念で苦しむ状況の黒幕となり、これからも苦しめるなんて約束してくれた。

 であるならば、やれる事はすべてやりたい。


 今の自分は完璧からは程遠い。

 クリスは敗者と成り果てた。

 慢心が許されない挑戦者になれた。

 だから、出来る事は全てやるつもりだった。


「えっとね、とてもざっくり言うと『長所が一つ増える』代わりに『短所が一つ増える』状態に出来るよって事なんよ!」

 きりっとした顔でクリスが言う言葉を、リュエルとユーリは顔を見合わせ考える。

 だけどやっぱりうまく理解出来ず、二人はしかめっ面をしてみてもわかる程に困っていた。


ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ