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もふもふ元大魔王の成り下がり冒険譚  作者: あらまき


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結末に関わる事さえも


「そっちがクリスを抱いててくれ。代わりに俺が戦う。クリスは俺に指示を出せ。あんたが指示を出せない程しんどくなったら撤退だ。良いな」

 ユーリの言葉にクリスは頷いた。

「うぃ。了解なんこぽぽぽ……」

 クリスはいきなり口からだらだらと吐血を始めた。

「ちょっ! ク、クリス君!? 駄目やっぱり帰ろう!」

「まだ大丈夫なんよ。この程度じゃ死ぬ事も出来ない」

「……くそが。早く命令を出せ」

「じゃ最初は外に出ましょう。来た道戻ってくれる?」

「了解」

 苦々し気な表情のままユーリはくるりと背を向け、横道に入る。

 そのまま階段を上り、部屋を三つ進み次の階段を上った所でゾンビに遭遇した。


 目はまだ回復していない。

 それでも、何となく見る限りそこまでの脅威には感じない。

 旧型でかつ基本系だろう。


 二人の能力を考えるなら作戦は……いや。

「リュエルちゃんは戦うつもり全くない?」

「ないよ。クリス君を抱えるの最優先だから」

「……そか。ごめんね。足引っ張って」

「そう思うなら治療受けてくれない?」

「ごめんね?」

 リュエルは小さく溜息を吐き、そっとクリスの頭を撫でた。


「ユーリは武器何使う?」

「何を使って欲しいか言え」

「準備あるの?」

「長物はないけどそれなりには武装してきてる」

 外見からは特に何か持っている様子はない。

 だけど、ユーリが言うならそうなのだろう。

「投げナイフかムチある?」

 ユーリは指の隙間にナイフを挟みながらムチを取り出した。


 スケイルウィップでも言うべきだろうか。

 鱗を繋ぎ合わせた様な形状でノコギリの様に抉る事に特化していそうなムチだった。


「良いね。左側のゾンビをまんべんなくナイフで牽制しながら右二匹の足を削ぎ落として。リュエルちゃんはチャンスがあれば右から通り抜けて奥に行って」

 二人は頷き行動を開始する。


 ユーリはゾンビのターゲットに成りながら右端のゾンビの足にウィップを巻きつけノコギリの要領で切断。

 倒れる瞬間蹴り飛ばして遠くにやりながらナイフでゾンビの足を縫い付けていく。

 ほんの数秒の足止めにしかならないが、それでもリュエルがすり抜け先に進むのに十分だった。


 リュエルがゾンビの後ろに回り込んだその瞬間、全てのゾンビがユーリに背を向ける。

 ユーリはクリスの狙いがこれだと理解した。


 ユーリは武器を仕舞い、そのままゾンビの後ろを抜けクリス達に合流。

 そしてゾンビを無視し先に進んだ。


「突破を優先で良いんだな?」

 ユーリの言葉にクリスは頷く。

「うぃ! 時間最優先なんよ!」

 理由はわからない。

 わからないが、クリスから何時もと違う強い意思を感じていた。

 確かにクリスは何時も我儘ではある。

 だが、それでもリュエルや自分の事を優先し考えている。

 今日みたいに問答無用というのは珍しかった。


 だからユーリはそれに従った。

 リュエルもまた、本音を言えば今すぐ病院に叩き込みたいのを必死に我慢した。


 階段を上り、部屋を進み、ゾンビを抜け、部屋を進み、階段を上り、そして地上に出て……。


「おいクリス。次はどっちに行けば良い?」

 クリスは静かに、力なく首を横に振った。

「ううん。……もう、良いんよ」

 その言葉のニュアンスは明確な諦め。

 ギブアップに等しい宣言だった。

「そうか。体調が限界になったか?」

「ううん。違うんよ。……この魔力は見覚えがあるんよ。……転移魔法の痕跡。間に合わなかったし、ちょっと追えない」

 そんなものユーリもリュエルも見えない。

 それでもクリスが言うのならそうなのだろう。


「そうか。まあそういう事もあるさ」

「うぃ……ごめんよユーリ」

「ん? どうして俺に謝る?」

「だって、せっかくユーリの手柄にするチャンスだったから。私がもうちょっと早く動けたら……本当に残念なんよ。十分チャンスはあったのに」

 その言葉で、ようやくユーリとリュエルはクリスの真意に気付く。


 あれだけ焦っていたのは、自分がボロボロでも無茶をしたのは、ただその為だけ。

 クリスは自分の為じゃあなくてユーリの為に、しかも単なる手柄の為にだった。


「……お前、馬鹿だろ?」

「うぃ? まあ、たぶんそうだね」

「……はぁ。リュエル、こういう奴なのか? クリスってのは」

「ううん。私も知らなかった。……ちょっと見過ごせない。手伝ってくれる?」

「ああ。当然だ」

 クリスは良くわからない内に協定が結ばれる二人に首を傾げる。


 ただ、あまり仲の良くなさそうだった二人が仲良くしてるから良い事なのだと思い嬉しそうにうんうんと頷いた。


「ま、逃げられたのはしゃーない。元々俺達が相手に出来る奴じゃなかったって事だ。とは言っても、正直もう二度と会いたくないぞ。あんな化物」

「……うぃ。それは大丈夫。もう会う事はないんよ」

「どうしてわかるんだ?」

「悪が栄える事はなし。なんよ。……羨ましい事に」

「お前の言っている事の意味はまるでわからん。わからんからとっとと病院に叩き込む」

 そう言って、ユーリは大きく溜息を吐いた。




 こぽりと、ルークの口から血が零れた。

 ルークは己の体に目を向ける。


 その胸には、銀に輝く剣が突き刺さっていた。

 その先に居るのは、レストという男。

 一応パーティーの仲間であった男である。

 まさかこんな底辺冒険者にやられるなんて、ルークは想像もしていなかった。

 死んだ事は一度もない。

 だけど、死自体は誰よりも見て来た。

 だからこそ、わかった。

 これは『致命傷』だ。


 レストは泣いていた。

 顔がぐちゃぐちゃになる位涙に溢れ、それでも、しっかりとルークの方に目を向けていた。


 逃げられると思った。

 化物が転移に混じってきた所為で計画に若干の遅延はあったが、それでも脱出計画は概ね支障なく進んだ。


 だが、二度目の転移の先に勇者候補生クレインとその仲間が居た。

 それが、終わりの始まりだった。


 彼らは強かった。

 格上と言っても良いだろう。

 それでもと、リソースを消費しながら必死に戦った。

 クリスに言った通り命を最優先にしながら必死に全てを費やして逃げて……そして逃げた先で……何故かわからないが、この男が居た。

 ルークが勇者との戦いでギリギリの状態だった事に加え、この男はルークが何かを発する前に、刃を刺し抜けて来た。

 己が凡人と思い見下していた男の一撃を避ける事さえも、出来なかった。


「まさか……貴方にとは……」

「ごめん……ごめん……ごめん……」

「何故、貴方が、あやま……るの、ですか? 貴方は、悪く……」

「どんな理由があっても仲間を刺す事が悪くない訳ないだろ!」

 そう、レストは未だルークを仲間と思っている。

 あんな事があっても、グラディスを殺したとしても、それでも……。


 なんと下らない事か。

 吐き気のする程に悍ましい。

 そんな考え方ではこいつは長生き出来ないだろうに。

 そして、そんな愚者に負けた自分もまた情けない。


 ルークは考える。

 一体、どこで歯車が狂った?


 レストに追いつかれたから?

 勇者に転移先がバレたから?


 それとも、あの怪物の獣が転移に混じって来たから?

 いいや違う。

 狂ったのはもっと前だ。


 明確に狂ったのは彼らと……レストとグラディスと無意味にパーティーなんて作ったから。

 時間が圧迫する事意外に何の意味もない事をしてしまったから。


 今考えてもわからない。

 どうして自分があんな無駄な時間を過ごしてしまったのか。

 あれがなければ、きっとこうはなっていない。

 脱出は当然成功していたし、クレインかリュエルか、もしくはもう一人の勇者候補生、誰かの肉体が手に入っていた。


 じゃあなんでそんな事をしたのかと言えば……。


「いえ、もう、どうでも良い事です。……悪い悪い悪党の、最後の一言です。……。私の屋敷から、好きな物を持って行きなさい。ほとんど接収されるでしょうけど……貴方にとっての宝も、一つ位はあるんじゃない……ですかね?」

「お前……どうして……」

「だって……死ぬのに、不要でしょう? ふふ……良くも私を殺してくれました。だから……一生恨みますね。ええ……()()

 そう言って微笑んで、ルークは己の()()()()。 

 それはどこか満足そうで、どこかどうでも良さそうで……。

 だからレストは、声を大にして泣き叫んだ。


 わかっている。

 自分は利用されただけで、こいつは自分達を友達だなんて思ってなかったなんて。

 それでもと、彼は空に向かい叫ぶ様泣いた。



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