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もふもふ元大魔王の成り下がり冒険譚  作者: あらまき


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他人の仕草で己を知って


 感情を制御し冷静となっているつもりではあった。

 だが、リュエルは誰が見てもわかる程に怒りを顕わにしてた。


 まあ……クリスと依頼が一緒に出来ない事はしょうがない。

 彼の方で用事があるというだからしょうがない事だし、それでユーリと一緒に依頼を受けるのも百歩譲って納得する。

 パーティーを組んだ以上こういう事もあるのは最初からわかっていた。


 不満たらたらではあるが、ユーリと一緒な事位は妥協出来る。

 リュエルの怒りはそこではない。

 リュエルが不機嫌マックスでイライラになったのは今から十分程前に理由があった。


 それはユーリと共に依頼相手を待っていた時の事。

 依頼人はリュエル同期のCクラス生徒三人。


 初ダンジョンに挑戦するから経験済みの人に手伝いをお願いしたいという依頼であり、同期という事もあって優先的に回して貰った。

 手伝いと言っても戦力は三人で足りていると彼らは考えており、基本的に自力で攻略するつもり。

 だから、頼みたいのは本当に困った時に最低限のアドバイスだったりいざという時に救援の方。

 つまるところ命綱としての助力が依頼内容であった。


 そうして依頼人を二人で無言のまま待っていると……。

「ねぇ見てあそこの二人……凄く絵になってる」

 そんな声をリュエルは耳にした。

 曰く、恰好良い頼れそうなイケメンと背の高い女性でつり合いが取れている。

 どっちもモデルみたいに綺麗な顔。


 そうしてとうとう、その言葉が出て来た。

「あの二人、お似合いだね。付き合ってるのかな」

 きゃーきゃー言い合いながら、そんな事をのたまいやがる彼女達に、リュエルは静かに殺意が膨らませた。

「落ち着こう。ただの戯言だ」

 言い聞かせる様に、ユーリは呟く。

 そのしなければ彼女達を殺してしまいそうだと感じる位に、リュエルから溢れる怒気は強かった。


 リュエルは冷静はつもりではあった。

 自分には関係ないが、年頃の女の子がそう言う事でキャーキャー言うのは理解する。

 自分だってクリスきゅんみたいのが沢山いたらきっと頬を紅潮させ応援うちわでも作って振り回すだろう。

 だがそれはそれとして、興味のない男と自分を関連付けられると心底胸糞悪くなる。

 それからリュエルはずっと不機嫌であった。


 しかも恐ろしい事に、リュエル自身は『むー☆』なんて可愛げのある程度の不機嫌だと思っていた。


「じゃ、じゃあ揃った事だしさっそくダンジョンに行こうか!」

 ユーリは慌てた様子でそう言葉にした。

 それが誤魔化しであると誰もが理解するが、それを口に出す勇気ある馬鹿はいなかった。




 そうしてリュエルは再び同じダンジョンの中に。

 場所は前と同じだが、今日は配信も可となっているから配信者と出くわす可能性もあるらしい。

 まあ、入り口付近では滅多に現われないが。


 まあ、何の感慨もない。

 またドート・ウルフが出てくれたらいいなあくらいの物である。

 あのパーティーは楽しかったし、クリスきゅんと仲良くなれた。

 ああいうイベントなら何度だって大歓迎だ。

 とは言えあの狼は馬鹿がダンジョン内に持ち込んだだけだから出て来る可能性は限りなく低いが。


 そう思ってぼーっとしていると……。


「ごめ……ちょ……待って」

「りば……りばする……りばーすすりゅ……」

 気持ち悪そうにレストとグラディスがが床に倒れる。

 ダンジョンに入ってまだ一分も経過してなかった。


 もう一人、眼鏡の優男ルークはけろっとし顔をしていた。


「ダンジョン酔いが初期に出るタイプか。まあこの位なら数分もすればマシになるだろう」

 ユーリは状況を分析しそう呟く。

「そういうものなの?」

「ああ。冥府神の信仰もあるだろうしこの位ならな。そっちはどうだったんだ? ダンジョン酔い」

「私もクリス君も全く」

「そうか。やっぱりあんたらは特殊だな。普通はあれ位でも優秀って言うんだけどね」

 ユーリの言葉に合わせ、グラディスと呼ばれていた男の方は立ち上がりガッツポーズを取ってみせた。

 レストと呼ばれた男は口元を抑えながら、グラディスを恨めしそうに見つめた。




 リュエルはユーリと共に一般的な同期学園生の動きを見て、そしてリュエルは学習する。

 自分達の動きは相当普通でなかったと。


 ダンジョン酔いを恐れながらゆっくりと進む姿。

 しかも敵が襲ってくるなんて事考えてないと感じる程の雑な警戒。

 その動作はもはや前進ではなく単に散歩しているだけに近い。

 そして時には仲間との会話にうつつを抜かし気を抜き過ぎている。


 最低限の緊張状態も維持出来ていない彼ら三人組が相当酷いと思ったが、そうじゃあない。

 最初はこれが普通なのだ。


 とは言えそれは自分が凄いという事に繋がる訳ではない。

 才能があるのもそうだが自分はダンジョンアタックの経験がある。

 実際にダンジョンを潰した経験が無意識レベルで体が警戒を行っているだけ。

 ただそれだけの事。


 だからこの場合本当に凄いのは……。


「もしかしてクリス君って、かなり優秀?」

 その事実に気付き、リュエルはぽつりと疑問を口にする。

 当たり前の様に警戒して、当たり前の様にチームプレイ。

 ついでに言えば指示出しもなかなか様になっている。

 あれは経験がなければ出来ない事なのではないだろうか。

「判断に苦しむところだな。まあ普通じゃないのは確かだろう」

 ユーリはそうあのもふもふを評価する。


 事前に調べる能力や生真面目さ、そして熱意と冒険者に向く資質を幾つも持っている。

 リュエルから聞く限りダンジョン内での行動も百点をつけても良い。

 だがそれとしても、まともに武器も持てないというのはあまりにもデメリット過ぎるとしか言えなかった。

 今は良いが、必ずどこで問題が生じる。


「そう。でも、彼らよりクリス君の方が頼りになるよ」

「そりゃあ君にとってはそうだろう。君と彼の相性はあまりにも補完され過ぎている」

 指揮能力が高いクリスと戦闘特化のリュエル。

 単体だとそうでもないのにこれが組み合わさると一パーティー以上分の働きをする様になる。

 少なくともユーリはこの二人コンビとの模擬戦は厄介過ぎて相手にしたくない。


 とても相性が良い。

 その事実により、リュエルの機嫌はちょっとだけ直った。




 しばらくは、まるで子供のお使いと感じる様なダンジョン攻略をリュエルは眺めた。

 拙い立ち回りとは思うが文句を言う程ではなく、ユーリもリュエルも何のアドバイスもなくただ後ろから歩くだけ。

 そうして、前の時と同じりでそれは現れた。


 泥男。

 そう見える様擬態しただけの、ちっぽけな精霊。


 大地を操る精霊に対し彼らがどうするのか。

 リュエルもそれは少しだけ楽しみであった。


「ふむ。意外だな」

 ユーリはぽつりと呟いた。

「何が?」

「盾役だ」

 そう言ってユーリは眼鏡の優男を指差す。


 学者風の姿で鎧も身に纏っていない彼は後衛役かと思ったがそうではなく、彼が盾を持ち泥男の前に立ちはだかっていた。


 泥男の攻撃に備え両手でしっかり盾を構える優男ルーク。

 正直そんな慎重にする必要ないのだが、それは一度撃破したという情報のアドバンテージがある今だから言える事である。

 少なくとも今のルークにとってその行動は必要な事であり、そして非常に恐ろしい事であるはずだ。


「今です!」

 盾でぶにょっと押し付け動きを封じてからルークは叫ぶ。

 グラディスは大きな剣を構えた。

 両手用で、ダンジョン内でギリギリ運用出来る様なそんな大きさの剣。


 反対に、レストはショートソード二刀流という構えであった。

 代わりに剣に魔力が込められていた。


 純粋な物理アタッカーと魔力併用のアタッカー。

 良くも悪くもお手本の様な戦い方の二人だった。


「おらぁ!」

「はぁっ!」

 泥男の背後から二人は息を揃え、斬撃を叩きこむ。

 拙い動きではあるが、連携はちゃんと取れている様子だった。


 だが……ぶにょんと柔らかい泥が揺れるだけで、どちらの剣も泥に刃を突き通せていなかった。


「はい無理。撤収! 撤収!」

 レストがそう指示してから、残り二人と共に敵に背を向けない様後退を始めた。


「引くんだ……」

 リュエルは以外そうに呟く。

 引くという選択肢が彼女の中にはなかった。

「そりゃ、攻撃が効かないからそうするしかないだろ。普通はそうするんだよ」

 ユーリの声には呆れがふんだんに混じっている。

 初心者の範疇でごり押しで突破出来る奴なんていないとばかりに。

 だがリュエルはそんな事に気付いてもいなかった。




「という訳で作戦会議だ。全く通用しなかった。アレどうするよ?」

 レストは尋ねた。

「魔法でないと駄目とかじゃない?」

 グラディスの言葉にルークは首を横に振り否定した。

「いえ、それはありえません。そんな高度なダンジョンではないはずです」

「じゃあ、どうすれば良いんだ?」

「そうですね……無視して進むというのは?」

「アリだが危険が危ない。正直そこまで無理したくはない」

「では……どうしましょうか? お二人は手応え的にいけそうでした?」

「無理無理。あんなん何百何千と殴っても斬れない」

「そうですね。見る限りそんな感じでした。反面攻撃の方は遅く脅威さはほとんどなかったですが……」


 ユーリはちらっとリュエルの方を見る。

 その何百何千斬っても無理なのをごり押した気分はどうだと言っている様だった。

 リュエルは静かに無視した。


「……ふむ。一つ、思いついたのですが良いでしょうか?」

 ルークはそう口にした。

「お、優等生ルーク君は何かを思いついたか」

「この頭と運動神経と声と顔が良い男。仲間じゃなかったら嫉妬の炎で燃やし尽くしてやるぜ」

「あはは……。いえまあ気づいた事なのですが、あの泥の化物、途中から追ってこなくなったじゃないですか?」

「そうだな。相当足遅いみたいだな」

「いえ、そちらではなく、突然ぴたっと止まりその場で停止しました。ですので、もしかしたら一定範囲から動けないのでは……」

「ふむふむ。つまり?」

「結論という程ではないのですが、動けない理由が何かわかったら対処出来るのではと……」

「なるほど。じゃあ調べてみるか。ただし安全第一だぞ。特に盾役のルーク。お前が一番危険なんだから」

「ご安心を。では、行きましょうか」

 そうして三人は立ち上がり、再び泥男と対峙しに向かった。


「なるほど。普通はこうやって攻略していくのか……」

 リュエルは感心した様子で呟いた。

「ああ。普通は少ずつ情報を強いれて答えに導いていくんだ。この手の攻略はクリスの得意な分野だからリュエルが苦労する事はそうないと思うが」

「そうだね。私もそう思う」


 リュエルは静かに彼らを見守った。

 二度目の挑戦で泥男の行動範囲を見て、そして攻撃する時のタイミングが少し特殊である事に疑問を抱く。

 三度目の挑戦の頃には泥男に対しての恐怖心は完全に払拭したが攻略の糸口はつかめず四苦八苦してみせる。

 そして四度目にて、行動範囲の完全特定の後中央に隠れた土の精霊に気付き泥男の討伐に成功した。


 彼らは両手を挙げこれでもかと喜んで見せる。

 その姿を見て、何となくだがリュエルはクリスがしたかったのはこれなんだと思った。


「……ユーリ」

「何だ?」

「クリス君と攻略を……ううん。やっぱ良い。何でもない」

「そうか」

 何の話かまるでわからなかったから、ユーリはその言葉を追求しない事にした。

ありがとうございました。

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