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もふもふ元大魔王の成り下がり冒険譚  作者: あらまき


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問いの意味


「という訳で、依頼内容としてはもう十二分だと思うのですが、どうです? 学園長」

 学園長室にて、その主に向かいどこか楽しそうに、リーガは宣言する。


 学園長ウィードの前に用意された調査報告書は全部で二百ページを超え、プライバシーなんてどこに行ったという次元で事細かに情報が書かれていた。


「……そうだね。正直想像以上だよ。それで……資料は後で読むとして、君の見解を聞かせて貰えるかね?」

「見解……と言いますと?」

「何でも良いですよ。彼について感じた事、考えた事、もしくは彼のパーソナルデータで重要な事、推理や推測を聞かせて貰えませんか?」

「ふむ……少し頭の中で考えても?」

「ええ、どうぞ」

 学園長の言葉に従い、リーガは頭の中で考えを構築する。


 クリスについて……ではない。

 今考えるべきは、学園長の意図の方である。


『実際に働いた調査員の生の感情や感覚的な情報が知りたい』


 そういう建前だろうが、恐らく違う。

 学園長はもっと明確な意図を持ってこの質問を投げて来た。


 ではその意図は何か。

 流石にそれを推測する程のデータはない。


 依頼内容や学園長の行動から、クリスに対し敵対、ないしそれに準ずる可能性は低い。

 むしろ十中八九学園長とクリスは身内である。


 なにせクリスが魔王城の中に正面から入っていった。

 たった一枚の紙だけで、全てのチェックを無視して奥に。

 更に言えば小さな海騒動の時の事もある。

 最高責任者であるはずのヒルデと学園長でかつ四天王のウィードが即日で揃った。

 それは直接コンタクトを取る手段があったという事に他ならない。


 であるならば、学園長の意図はクリスに仇なすものである可能性は限りなく低い。

 それでも、クリスと学園長が敵対している可能性はゼロではない。

 ゼロではない以上、リーガはクリス側を贔屓する。

 依頼主に逆らわない程度に、友達を優先するというのがリーガのスタンスだった。


 そこまで考えた後、学園長の意図を探る為リーガは質問に対し質問で答えた。

「その前に一つ尋ねても? あの、殺意を向けるなって結局何の意図があったのですか?」

「ん? ああ。単純ですよ。彼は殺意を向けて来た相手を敵と認定する。それを避けたかった。それだけの事です」

「一体何の話ですか? 殺意を向けたら敵なんて、当たり前の事じゃあ……」

「まあ……わかりやすく言いましょう。彼はああ見えて敵対者には容赦しない。そうであると一度決めたら徹底的に戦う。それこそ、君達の様な掃除人が怯える程にね」

「……彼の裏の顔という事ですか?」

「いいや、そんな物はありませんよ。彼に裏の顔なんて物はない。あの純粋さのまま、敵対者を追い詰めるだけです」

「それは……」

 それは、あまりにもチグハグで、あり得ないとリーガは思った。

 彼は純真無垢で、単純で、そして素直である。

 誰かに騙されないか周りが何時も本気で心配する位には頼りないと言い換えても良い。

 特定の能力はあるが、あまりにも歪な能力しかない。

 それこそ、誰かに騙されて道具にされる為だけに生み出されたと感じる程に。


 そんな彼が容赦ない存在?

 そんな訳がない。

 そう思って鼻で笑おうとして……想像出来てしまった。


 あのもふもふな可愛いまま、いつもの笑顔のまま、殺戮を重ねる友の姿を。

 違和感しかないはずなのに、まるで現実であるかの様に想像出来て……リーガは静かに顔を青ざめさせた。


「そう、だからこそ、怖いんです。そこには悪意も敵意もなければ快楽目的でもない。狂気もなければ信念も、追い詰められた故の愚かさも、何も。ただ、相手がそういう関係を望んだから。それだけの為に、彼を殺戮者にする事。それを避けたかったんです」

「……理解、出来ません。でも、反論はしない事にします」

「ああ、それで構いません。さて、話す内容はまとまりましたか?」

 学園長の言葉を聞いて、リーガは困った顔を見せる。

 ちょっと今の精神状況では、学園長と頭脳戦をする事は出来そうにない。

 その位、自分の妄想にリーガは怯えていた。




「我が友について考察するに辺って、語るべき点は三つです」

「おや、それだけですか?」

「まあ……そりゃあ言い出したらキリがないのは確かですけどね。なんですかあのトンチキな存在は」

「あはははは。じゃあ、一つずつ聞かせて貰えますか?」

「ええ。まずは、彼の『交友関係』について」

「Dクラスで友人が一人居て、勇者候補生の女性と親しい。そう言う事ですか?」

「いいえ。そっちじゃありません。貴方がたの方ですよ」

「ほぅ」

 一瞬だけど、ウィードは眉をぴくりと動かした。

 それは警戒というよりも、興味が惹かれたかの様な内容だった。


「魔王城に直接入る事が出来る身分で、即日でヒルデ様を呼びつけるだけのコネがあり、四天王のウィードとも交流がある。これ、普通ですか?」

「いいえ。普通じゃあないですね」

「でしょう? まあ、怪しいとは思っていたんですけどね。ゲームが趣味で、あれだけの漫画を読んだ経験がある時点で普通の家の可能性はね」

「まあ、そりゃあそうですね。それで、次に気になる点は何かな?」

「次は……順当に『能力』ですね」

「チグハグですからね。身体能力は下限一杯に近く、魔法関連は壊滅的。潜在魔力だけは溢れているけど活用出来なくて」

「でも、成績は悪くない」

 リーガの一言にウィードはぴたりと押し黙った。


「特に良いのは遊戯形式の模擬戦。駒を動かすボードゲーム形式の戦闘指揮において彼は教師相手も含め負けなし。これは異常としか言えない」

「ゲーム趣味ってのは伊達じゃないって事ですね」

「そういう事にしておきましょう。でも、それだけじゃあない。というよりも、僕が言いたいのは戦闘能力の方じゃあないです」

「違うのかい?」

「ええ。彼、『デュアルオリジン』ですね。しかも両方有用な。これっておかしいですよね? 最高クラスの冒険者だってそんな人いないでしょ」

「いいや、オリジンに関しては気付かないで使っている人もいるし、隠している人も多い。だから案外探せばそれなりに……」

「います? あんな露骨な変化のあるオリジンを二つも持っている存在」

「……まあ、いない……よねぇ」

 そう、オリジンという能力を幾つか所有している人はいるだろうし、有用なオリジンを沢山抱えている人も探せば居るだろう。


 だけど、あんな露骨な変化をもたらすオリジンを持っている人はいない。

 自分の戦闘力を引き上げるとか、魔力を倍にするとか、そういう通常の自分を強化するのがオリジン持ちは多い。

 だけど自分のスタイルをまるっと変化させるオリジンは稀で、そんなオリジンが二つもあるともう意味がわからなくなる。


『己の攻撃さえも無力化する程の強力な防御性能』

『擬態さえも貫通し相手の秘匿情報を暴く観察眼』


 どちらのオリジンもリーガはまだこの程度しか特定出来ていない。

 だけど、この程度の特定の段階でもう能力としての上限を超えている。

 とてもではないが、単なる一個体が保有して良い能力ではないだろう。

 それこそ、四天王候補とかその位の次元でない限りは……。


「ああ、その話で思い出しました。リーガ、彼から何か私宛への伝言とかありませんでしたか?」

「ありましたよ。報告書にも書いてますが。意味がわからないんですが、教えて貰えますか?」

「構いませんよ。それで、彼は私に何と?」

 リーガは指を二つ立てピースサインを作った。

「『二つ』。これだけですね」

 クリスよりウィードに伝えて欲しいと頼まれた伝言は『二つ』という言葉のみ。

 本当にそれだけだった。


「そうですか……二つですか……。はぁ」

 ウィードは辛そうに胃を抑えながら、そうしみじみと呟いた。

「えっと、なんて意味なんです?」

「ああ……。君以外に彼を覗き見している人があと『二人』いらっしゃるという意味です」

「……へ? いや、それは……」

「彼の目はね、見なくても発動するんですよ。特に、自分を見る目には酷く敏感に発動します。……彼自身は、その目をほとんど使わない様にしているんですけどね」

 ウィードは憐れむ様に呟いた。


 彼曰く『ネタバレは悪い文明』という事で、その目は極力使いたくない能力であった。

 今の封印状態でない時はもっと強力であり、その目を憎んでさえいた位に。

 もしもその能力が消えるのなら、彼は喜んで己の両目をくりぬいただろう。

 目を失った程度でオリジンが消える訳がない為、実行する事はなかったが。


「……という事は、僕の追跡も見破られていた?」

「可能性は低いですが、ゼロじゃあないでしょうね。おそらく今の彼が見えるのは、精々眼の数だけですから」

「……僕に気付かれず彼を追う目が二つ……それは……」

「まあ、気にしなくても良いでしょう。良くも悪くも悪目立ちしますからね。あの容姿は」

 そう言ってウィードは苦笑してみせた。

 


「さて……では、最後の三つ目の報告をお願いしましょうか」

 ウィードの露骨な話題反らしは暗に『これ以上その事は考えるな』という物だったから、リーガもそれに従う事にした。

「三つ目、最後は『冒険者適正』ですね」

「ほぅ。少しばかり予想外だ。詳しく聞いても」

「はい。と言ってもシンプルな話です。あれ、冒険者というか一般社会に向いていなさすぎますね」

「あはは……そう思うよ、本当に」

「それ以前に、その必要がないとも言えます。彼、一体幾ら持っているんですか? 会社どころか国起こせそうな位お金持ってません?」

「あはは……うん。私もちょっと知らないかな……うん……」

 ウィードはそれに対して渇いた笑いを浮かべる事しか出来なかった。


 怪しまれるから持たせるお金は最小に。

 そんな事は当たり前の事であり、計画の初期段階でもうそう定めていた。

 じゃあどうして今あれだけの大金を彼が持っていると言えば……恐ろしい事に、ヒルデの考える最小金額があれであった。

 馬鹿みたいな金額の書かれた小切手の束と、見るのが恐ろしい通帳。

 それがヒルデにとっての最低限。

 ヒルデの用意した妥協の金額。

 金銭感覚が狂っている訳ではない。

 国家の経済さえも管理する彼女は大きな金額から庶民のお小遣いまで完全に把握している。


 狂っているのは、魔王への気持ちの方だった。

 というか……彼女はただただ過保護であった。


「まあ、理解したよ。うん……確かに普通じゃあない。じゃあ、それを踏まえた上で、君に問うよ。彼は一体何だと思う?」

 その問いこそがウィードがリーガの本当に問いたい事なのだと、リーガも理解出来た。

 クリスが何なのか……いや、彼の正体をどう思っているかを学園長は重要視していると。


 嘘をつく事も可能である。

 だが、それをするつもりはない。

 ここまでの会話と情報から、学園長とクリスの関係性も若干見えている。

 彼らは想像よりもずっと、近い距離にいる間柄だと。


「……そう……ですね。彼の友人が彼を『失敗した生物兵器』の可能性があると称していました。障害レベルの酷いスペックなのにあまりにも強力な能力を持っている事から」

「おもしろい推測だね。君もそう思うかい?」

「いや、僕は偶然そうなっただけと思います。まあ……つまるところ……」


 ゲームや漫画の趣味を持てる程度には良い待遇を受けていた。

 特に漫画に関しては相当大量に保有しそれを読める程度の環境と読書能力を保有している。

 金銭のかかる趣味である以上貴族以上が最低条件で、尚且つ魔王城に出入り出来る待遇。


 特別な力を扱いきれず持て余していて、純真無垢かつ裏稼業に疎い。


 極めつけは、信奉者という地位。

 それは通常高位神官の一部だけが認められる特別な物であり、爵位に等しい。

 そんな物を神から直接携わるという事は、特別な血の何よりの証明である。

 つまるところ……。


「彼はおそらく、生まれ立てだ。『生後一歳未満の王族の隠し子』。それが僕の推測です。おそらく、フィライト辺りでかつ魔法に優れた一族の」

 ウィードは小さな沈黙を作り、そっと息を吐いた。

「そうか。君の考えは理解した。生まれ立て……か。なかなかに鋭い意見だね」

 口では褒めているが、雰囲気はそうではない。

 その雰囲気はむしろ、落胆に近かった。

 少なくとも、先程の回答がウィードの期待する答えではなかったらしい。

 というよりも、期待する満点の回答があった様だ。


 ――学園長は、一体どんな回答を僕に期待したんだ?

 怪しみながら、そんな疑問を胸に秘める。

 だがそれを口にする事はなく、そのままリーガは学園長の部屋を後にした。

 話はそこで終わり。

 それがきっと、お互いの為であるような気がした。


 そうして自分の寮部屋に無事戻って……リーガはようやく一息入れる事が出来た。




「あれ、リーガこんな時間なのに居たんだ」

 部屋に戻って来たクリスはリーガの姿を見て、そう不思議そうに言葉にした。

「こんにちは。さっき依頼を終えたところだよ」

「おー。お疲れ様」

 楽しそうにコッペパンみたいな手を振るクリス。

 この、人の事なのに本当に嬉しそうにする友の姿がリーガは大変気に入っていた。

「ありがとう。と言っても、君についての調査報告の依頼なんだけどね」

「あー。それはご迷惑をおかけしましたなんよ」

 そう言って、ぺこりと一礼するクリス。

「いえいえ。過度な追跡本当に申し訳ない。これからはもう追いかける事はないから安心して」

「それはそれでちょっと寂しいね」

「あはは。ま、これからは普通の読書仲間で、冒険者としての先輩で、そして信仰を共にする同志だから。ついでに、もう少しの間は一緒の寮部屋仲間だし」

「うぃ。これからもお世話になります。先輩!」

「ああ、こちらこそ」

「……っと、ごめんなさい。次の授業があるから急いでたの」

「引き止めてごめんね」

 クリスはぺこりと頭を下げた後、ぱたぱたと走り荷物の用意をする。

 そっと、リーガは外を見る。

 窓越しに見えるそこには、じっとこちらに熱視線を送るリュエルの姿が、というかクリスが慌てている理由があった。


「んーっとんーっと……あったあった! じゃ先輩、これで失礼するんよ」

「うん。またね」

 そう言って、彼の背中にリーガは手を振る。


 ぱたんと扉が閉められた瞬間、カランと何かが転がり落ちる音が響いた。

「おや? 忘れ物だったら慌てて追いかけないと」

 そう思い、音の聞こえた方に目を向けると……そこには金色のモノクルが転がっていた。


 それは彼の物ではなく、自分の物だった。

 リーガはその正体を今更に思い出した。


「そう言えば、せっかく買ったのに使うのを忘れてたな」

 呟き、テーブルの上に転がっていたそれを手に取る。


 それは一種の解析機であり、クリスの調査の為に購入した物。

 確かに、それを使おうとは思っていた。

 思っていたのだが……まあ、途中から割とどうでも良くなった。

 なにせ魔王城に突撃したりエナリス神の信奉者になったり大量の小切手を持っていたりした。

 情報過多にも程がある。

 それより情報を精査したり推論する方で時間を取られ、今日までそこら辺に転がっていたという話である。


「まあ、もう今更だよねぇ」

 そう言って苦笑しながら、モノクルを目に当てる。

 そうして窓の外を見ると、仲良く手を繋ぎ走っているクリスとリュエルの姿があった。


 それはまあ、ちっぽけな好奇心ともったいない精神であった。

 せっかく買ったのなら使わないとという気持ち。

 そうして軽い気持ちで、リーガはモノクルの横にあるスイッチを入れた。


 かちりという音の後に、ガラスに数字が表示される。

 かたん、かたんと音を立て、数字が動きながら桁を増やしていく。

 一桁、二桁、三桁、四桁……。


「あれ? 何だろうこれ、使い方間違えた? ううん。そんな難しい物じゃあないはず。そもそも大まかにしか見れない物だから……でも逆に言えば、大雑把程度には信憑性があって……」

 五桁、六桁、七桁……。


 数字は止まらず、どんどん桁を増やしていき、その度にリーガの顔が青くなっていく。

 彼がリーガの目から、モノクルの範囲から立ち去るまでの間に桁の数は五十を超え、エラーを起こし機能停止を引き起こした。

 カタカタと、音がなる。

 気付いた時には、モノクルを持つ手が小刻みに震えていた。


 これは魔力の数値を調べる測定器――ではない。

 これは……。


「こ、故障だよね? そう、そうに決まって……でも、もしも事実なら……。いや、そもそも、()()()()()僕は……大きな勘違いをしていた? むしろ、逆だった?」

 頭の中で、推論が新しい推論を生み出される。

 何となくだが、答えに近づいている様な気がした。


『これは考えたらいけない事だ』

『平穏に過ごしたいならもう考えるな』

 頭ではわかっている。

 わかっているのに、一度始めた推論を止める事は出来ない。

 気づいたのが、遅かった。

 既に彼は己の意思では止められないところまで、考えを張り巡らせてしまっていた。


 あり得ない。

 この結果はあり得る訳がない。

 幾ら魔族だってそんな存在居る訳がないのだから。

 だけど……もしもそれが真実だとしたら……。


 このモノクルの効果はとても単純である。

 非常に大まかに、かなり雑に『年齢を測る』というだけの代物。

 高価ではあるが地味な効果でかつジョークグッズに片足突っ込んでいる為、入手難易度は格段に低かった。


 その大まかに図った年齢が、オーバフローを起こしていた。

 少なくとも、生物ではあり得ない桁数が表示された後で。


「考えるな! 止めろ! これはヤバい。考えたら……」

 それが本当にヤバいという事は理解出来る。 

 さっきから鳥肌は立ちっぱなしで耳の毛は常に逆立っている。

 それでも、もう手遅れだった。


 常識では生きていられない年齢。

 明らかに特異な能力。

 そしてその毛並みは――『黄金』。


 答えは、元々隠れてさえいなかった。

 最初は隠し子か何かと思った。

 だけど、そうじゃない。

 つまり……。


「能力を封印している……だから、だからチグハグだったんだ。生きていたという経験が積み重なった訳ではなく、もとからあった能力の一部だけだから……」

 そうして、彼はとうとう答えに行きついてしまった。


 魔王城に出入りできる立場。

 四天王とヒルデに直接話せるコネクション。

 もうここまで推測を重ねれば、選択肢は一つしかない。


 ジーク・クリス。

 考えたら、あまりにも単純で馬鹿な名前である。

 彼は、クリスは……。


 ぽんっと肩を叩かれた時、リーガは自分の心臓が止まった様な錯覚を覚えた。

 誰もいないはずの部屋で、誰かに肩を叩かれて。

 そうして振り向いた先には、にこやかーな顔をした、学園長であり四天王のウィードの姿が……。


「やはり君は優秀だ。ああ、素晴らしいよ」

「あ、あはは……どうも。それで、これって……知られたからにはという奴……ですか?」

「まさか! そんな事する訳がない! 私が真面目な生徒を消すなんて事、考えた事もないよ」

「いやぁ、不真面目に生きて来ましたので、しょうがない事かと」

「あはは。安心して下さい。むしろ逆です。そう、丁度欲しかったんですよ。あの方を共に助ける胃痛仲間(協力者)(がね」

「あの、記憶を消しても良いので辞退する事は……」

 ウィードはにっこりと微笑んだ。


 その笑みを見れば、理解出来る。


 つまるところ……リーガは嵌められたのだった。

 最初から調査の依頼ではなかった。

 事情を理解し、背景に気付き、逃げられない事を悟れる程度に優秀な協力者を求めていただけ。

 あれはそのテストに過ぎなかったのだ。


 最初からウィードはこうなる事を予測して依頼を出していたと気付いたと気付いたのは、もう本当に、今更な状況に陥ってからであった。



ありがとうございました。

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