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もふもふ元大魔王の成り下がり冒険譚  作者: あらまき


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神々について


 当たり前と言えば当たり前なのだが、正しき神の姿というものを人々は知らない。

 神から人に干渉する事もそう容易い事ではなく、この神域に生きたまま訪れる事が出来るのも世界でクリストフただ独り。

 クリストフだけが例外であり、そうでない限り人と神との間にある溝は相当に深いものであった。


 だからこそ、神は地上で干渉しやすいお気に入りを見つけると、露骨にえこひいきする。

 場合によっては傲慢なる神が己の身を削る程に。

 とは言え、神のお気に入りとなる事が良い事ばかりというわけでもない。

 それは神に目を付けられるという事でもあるからだ。

 神の干渉を受けるという事は否が応でも穏やかな日々との縁斬りを意味し、その人生は確実に波乱な物となる。


 神は人の事を愛でる事は出来ても理解する事は出来ない。

 人に対しての理解度が高いのが一番トンチキなる白の神な辺りでお察しである。


 神と人の間にある壁は次元そのものに等しくその隔たりは深い。

 それを容易く超える事は出来ない以上、神も人も互いに正しく知る事がない。


『神を知る』

 それが叶うのは、今の所クリストフだけであった。


『天空神ユピル』


 事実上の神の頂点であり、支配の神とも激情の神とも言われている。

 地上にて姿絵を描く時は雄々しき青年か威厳なる老人となっている場合が多い。

 正しき姿が伝わっていないという訳ではないのだが、見栄っ張りなユピルの性格からそうなっている。


 だからだろう。

 天空神教会上層部ではユピルに対し孫を見る様な生暖かい目を向ける者も少なくない。


 実際は見目麗しい勝気そうな少年。

 輝く金色の髪にぎらついた金色の眼。

 不遜たる微笑に堂々たる余裕。

 身に着ける物も金が多く全身きらびやか。

 そして彼は、黄金であるクリストフを友と呼ぶ。

 その感情がどういった物かは別の話になるが、クリストフは天空神唯一の友である事だけは事実であった。


『海洋神エナリス』


 海を象徴する神であり、大いなる恵みと試練を与えるとされる。

 海に関しての権能がある為船乗りからの信仰が特に篤く、反面内地であるハイドランドに信者はほとんどいない。

 姿絵は実物と同じく見目麗しき青髪令嬢。

 気品は女王の様であり妖艶なる魅力はどこか蠱惑的にさえ映る。

 社交界にて彼女の様な麗しき華が出れば間違いなく衆人の瞳を釘付けにするだろう。

 所以に、社交界が活躍の中心である一部貴族からも多大な人気が得られている。

 ついでに言えば愛多きという建前で浮気の神なんて不名誉な物も人は勝手に造った。


 実物は、我儘で欲しがり。

 神域を己の物にしようと画策していると他の神に思われる位には、他者の物を何時も欲しがっている。

 これが人の物を欲しがるだけならただの恥ずかしい神で済むのだが、エナリスは人の物だけでなく神の物さえも欲しがる。

 しかもそれが何度か成功している位には、彼女の知性……というか悪知恵は働いた。


 具体的に言えば、雨色の強い物限定だが『荒れ狂う嵐』をユピルから奪い、『地震』をクトゥーから奪った。

 それでも尚満足しないあたり、彼女は欲しがりと呼ぶよりは強欲と呼ぶ方が近いだろう。


『冥府神クトゥー』


 ダンジョンの権能を持つ為最も人気な神。

 冒険者は当然わずかでも戦闘に関わる者なら入り得とさえ言われている。


 それ以外にもクトゥーの管轄は『宝石』『貴金属』『死』と人にとって重要な物がこれでもかと多い。

 だからこそ人の世界においてはクトゥーは最も身近な神とされている。

 優しき死神、宝物を蓄えた金持ち、ダンジョンを寝床とするドラゴン。

 あまり人々に干渉しない為、地上ではその様な姿で描かれる事も多い。


 一枚だけだが、写真にも匹敵する程正確な姿絵が地上にて現存している。

 あの部屋で仕事をするその姿を描いだ時の彼は微笑を浮かべており、その絵は美術館にて大切に保管されていた。


 実物は、仕事第一主義。

 優れた権能が多いという事は、それだけ行うべき義務が多いという事。

 しかも残りの大神二人が『我儘少年』と『強欲女王』である。

 彼らの分の負担までもをその一身に背負い、神の能力を持ちながらも何時も過労死寸前なのが彼であった。


『緑の神フェスタ』

 人々の世界にて豊穣を司るとされ、年に一度ワインと肉を振舞う派手な感謝祭が開かれている。

 実際その様な方向で権能も特化している。

 とは言え、彼女自身今の感謝祭はあまり好みではない。

 彼女の好みはもっと牧歌的で、そして素朴な物。

 お酒よりも果物をそのまま、お肉よりも畑のお肉。

 要するに、彼女の豊穣は農作物を中心とした物である。


 大地より生まれているからか、彼女は大神三柱全ての影響を均等に受けている。

 その為彼女の立ち位置はいつも三神の間のフラットなもの。

 まあ、いつでもぽーっとしていて動作ものろいからフラットというよりもおとぼけという感じだが。


 そう、彼女は基本的にのんびり屋さん。

 ただし鍬とか鎌とか農作業用道具を持つと覚醒する。

 なにげに害獣の処理も彼女の恩恵の一つである。


『白の神ホワイトアイ』

 人々の間では、正義の使者、正しき神なんて言われ、知名度も人気も他の小神と異なりぶっちぎりに高い。

 人々より生まれたからこそ人々に絶大な人気を誇り、同時にホワイトアイの管轄である勇者の知名度も引き上げている。

 勇者とはホワイトアイの代弁者であり化身そのものとさえ言われていた。


 人々の世界では美形の男女の対の神と語られているが、実際は足して割らない姿。

 男は度胸、女は愛嬌故にあてくしは最強なのよなんて言う様な神である。

 人々の願いから生まれたからだろう。

 良くも悪くも人から多大な影響を受けてしまっていた。


 それでも人に対してのスタンスは神の中で最も正しく誠実。

 自分の気持ちは度外視し、常に人の未来を考え行動するからこそ勇者の権能を亡き創造神よりホワイトアイは引き継いだ。

 尚ホワイトアイというのは人々に付けられた名前であり、実際の名前は『白眼ビャクガン』となるが、人を愛する神だからか実際の名よりホワイトアイの名の方を気に入っている。


『青の神ルア』


 天空神の権能より生まれた為、そのスタンスは『ユピル様は常に正しい』というもの。

 自分が受けた信仰全てユピルに差し出す位には、彼に忠誠を誓っていた。


 良く言えば親思いの忠義者。

 悪く言えば独り立ちも出来ない神。


 ついでに言えば根暗で存在感も薄い。

 青髪メカクレでおどおどした青年は、今回もまたユピルにクリストフの権利を差し出す為この議会に参加した。


『赤の神タウフレイヴ』


 彼は炎より生まれたとされる。

 彼は戦乱の中うぶ声をあげたとされる。

 彼は戦争を愛で、人々が殺し合う姿を悦ぶとされる。

 血の様な赤いワインを持ち、壮絶たる戦場の姿を眺めていると。


 そんな風に、人々の間では悪神に近い存在とされている。

 それでも、戦争国家にしてみれば信仰し甲斐のある神であるが。


 実物は、若干異なる。

 軍服を身に纏う焔の様な髪の青年。

 冷酷そうな冷たい表情ではあるが、どちらかと言えばただ堅物なだけで、生真面目な堅物軍人の様な存在である。

 確かに彼は戦争を好む傾向にあるが、むしろ戦争国家の様な『無駄な戦争』は彼が最も忌み嫌うものである。

 そもそも戦争が特別好きと言う訳ではない。

 彼が好むのは何時だって、人が『真なる成長を遂げる戦い』である。


 それが大規模であろうと小規模であろうと変わらない。

 重要なのはその純度の方。

 つまり彼は、誰よりも人々の成長を願う神であった。


 それはそれとして試練と称して争いをぶつけてくる有難迷惑な神である事は事実であり、神様世界満場一致で『こいつだけは大神にしてはいけない』と思われている位にははた迷惑な存在だった。




 そんな個性的な神々が言論にて争う様子をトロフィーであるクリストフはただ静かに見守っていた。


 議会の場と言えどもクリストフに発言の権利はない。

 いや、ない訳ではないが発言する理由がほとんどない。

 なにせ彼は今回単なるトロフィー。

 それがどこかに肩入れするというのはあまり面白い結果にならない。

 だからよほどの事がない限りは黙ってその場を見守るつもりだった。


 そもそもの話だが、クリストフは自分は彼らに好まれていない事を理解している。

 神の領域を踏み荒らす己の事を。

 ならば無駄な事は口にしない方が良い。

 その位の分別は、クリストフだって持ち合わせていた。


 そう……クリストフは別に神と親しい訳ではなく、むしろ神敵に等しい。

 親しい様に見えているのは、神がそうせざるを得ない状況に追い込まれただけに過ぎなかった。


 天空神ユピルが友と呼ぶのが最もわかりやすいだろう。

 最も気高き大神序列一位が人如きを友と呼ばねばならぬ。

 その時点で、それはもう単なる屈辱でしかない。


 天空神ユピルはかつてクリストフと一騎打ちをし、そして破れた。

 神が人如きに敗北した。


 それは神としてクリストフを特別扱いせねばならない状況で、そして最もプライドが傷付かないのが友となる事。

 故に、ユピルはクリストフを友と受け入れた。

 内心は屈辱的で、マグマの様な怒りを宿していても。


 そして同時に、神は嘘を付けない。

 どの様な状況の始まりで、そしてどの様に想おうとも、クリストフを友と思う心に嘘はない。

 憎しみを抱きながらも、友情を感じる。

 そういう不器用過ぎる生き方しか、神には出来なかった。


 神は人より上位の存在だが、人と異なる側面で縛られている。

 神は己に嘘をつく事が出来ず、己を偽る事が許されない。

 だから、ユピルだけでなく全ての神が大なり小なり同じ心境であった。


 憎悪を宿しながら親愛を持つ。


 それが多数の神がクリストフに対して持つスタンス。

 そしてクリストフもそれを理解しているから、余計ななれ合いをせず神として彼らにただ敬意を向けていた。

 少なくとも、封印解除状態の今は。


ありがとうございました。

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