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もふもふ元大魔王の成り下がり冒険譚  作者: あらまき


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インタールード:Cクラスの日常


「おいお前聞いたか? あの話」

 Cクラスの教室にて、良く知らないクラスメイトからその男は声をかけられた。

 声をかけた方もかけられた方も、あまり特徴のない一般的な青年。

 冒険者にしては若いが子供という程でもない年齢で、それ以外に語るべきところを持たないなんて典型的なCクラス的人材だった。


 Cクラス。

 それは極めて優れている訳でも特別劣っている訳でもない冒険者見習いを集める場所。

 それ故だろう。

 クラス内の空気は他クラスと異なり非常に明るく、和気あいあいとし、皆がまるで友人の様に親しみを持ち合っている。

 とは言え、それが良い事ばかりという訳でもない。


 確かに冒険者というのはコミュ能力が非常に重要で、分け隔てなく誰とでも仲良く出来るというのは大きな強みである。

 だが、ここに居る彼らの大半はそういう事が分かった上で仲良くしているのではなく、気持ちも覚悟も足りていないが故のお気楽さ故のそれ。

 まるで物見遊山、もしくは学生気分が抜けていない状態。

 つまるところ、彼らは軽かった。


 だから、Cクラスには他所のクラスにはない一つの壁が存在する。

 互いに食い扶持を奪い合う同業者であると彼らはまだ理解出来ていない。


 そしてそれを真に理解した上で、どの様にクラスメイトと接するか。

 その答えのない問題に自分ならではの答えを出せる者しか、本当の意味で冒険者として生き残る事は出来ない。

 だけど、それはまだまだ遠いお話。

 少なくとも、今はまだそんな悩みが持てる程上等な存在ではなかった。

 現状は単なる仲良しグループでしかない。


「あの話ってどれだ? 同級生に勇者候補生がいるって話か?」

「いや。クール系かわいこちゃんの勇者とかそのマスコットとかそういう話じゃあない」

「……いや外見は知らんが。つか何だそのマスコットって?」

「知らんのか? 同級生の勇者候補生って可愛らしい外見なのに表情は氷みたいに冷たいクール系だってさ。高身長で胸はない」

「知らんがな。つか言い方。女子に聞かれたらハブられるぞ」

「おっと失礼。スレンダーと言い直そう。俺はその方が好みなんだがな。まあそれは良い。そんで、今勇者候補生様はマスコットと一緒にいるらしい」

「なんぞそのマスコットって」

「魔法少女のマスコットの如くぬいぐるみみたいなしゃべる動物だそうだ」

「……有名人も大変だなぁ。変な噂を流されて」

「いやマジなんだって」

「はいはい。まあ俺達普通組にゃあ関係ない話だろう。どうせAクラスの事だし」

 勇者と宗教は切っても切れぬ仲である。

 勇者と呼ばれる存在はその時点で宗教的権威を得る事となり、それ故に彼らは貴族に限りなく近い地位にいる。

 故に、勇者候補生がいるのなら十中八九Aクラスだろうと男は考えていた。

「いや、Aにゃいないらしいぞ。初日で騒ぎになってた」

「まじか。だったらBか。珍しいな」

「だな」

 そう、彼らは同意し合う。

 まさかテストを全て白紙で出してDクラス落ちしたなんて想像さえ出来なかった。


 更に言えば、彼らはまだ知らなかった。

 これからパーティーを組み試験に臨む事も、パーティーはクラス内だけでなく他クラスとも組めるという事も。

 だから、狭いCクラスの同級生だけで世界が完結しきっている。

 それをDクラス以外の彼らが知るのは一週間以上も後の事だった。


「それで、勇者の話じゃねーのなら、お前の言う『あの話』ってのは何なんだよ」

「おう。何でもこの学園にはな……」

 クラスメイトは男の傍に寄り、そして耳元で囁いた。


「『裏購買』たる施設があるそうだ」

 男はわざとらしく溜息を吐いた。

「はぁ……。はいはい良くあるよなそういう七不思議。裏学園に裏教師、ついでに裏生徒会っと」

「ちげーよ! そうじゃねぇ。そうじゃなくて……裏購買ってのはな、何でも買えてしまうらしいんだ」

「そうじゃないもなにもそういう七不思議系じゃねーか」

「だからちげーって。……エロ本が買えるんだよ」

 誰にも聞こえぬ小声でそう囁かれ、男の目は()()()()見開かれた。


「……まじか」

「まじだ。信憑性が微妙なのは事実だけど、可能性は低くないと見ている」

「……調べる価値はあるって事か」

 男の言葉にクラスメイトも同意し頷いた。


 彼らの顔は、宝を目指す冒険者の如く真剣そのものだった。

 彼らがここまで真面目状況となっているのにはちゃんとした理由があった。

 周りから見れば馬鹿馬鹿しくとも、彼らにとっては非常に重要な問題が。


 ハイドランド王国首都リオン。

 恐らく世界中で最も平和で、そして安定した街。

 それ故だろうか、合法であるにも関わらずエロ本の様なそういった代物を売っている店は非常に少ない。

 少なくとも、冒険者学園の周囲には存在しない。


 色街そのものはリオンにも存在する。

 だがこれは予算やら距離やらと色々な意味でハードルが高く気軽に行ける様な場所ではない。


 いやそれ以前に、今話をしている彼らにはそういう店に行く度胸そのものがない。

 だからこそ、彼らにとってそういう物は命題にも等しい程重要な事であった。

 彼らは良くも悪くも若い青年であった。


「……どう動く?」

 男は話を持ちかけて来たクラスメイトにそう尋ねる。

 例えその話が真っ赤な嘘だったとしても、一パーセントでも可能性があるのなら追い求める。

 そう男の目は物語っていた。


「相談した相手に間違いはなかったらしい。だが、慎重にだ。慎重に動かないと最悪向こう側に迷惑がかかる」

 彼らは既に裏購買の正体にまで心当たりが至っていた。

 それが自分達の様な馬鹿で、そして自分達より何年も先の先輩であると。


 小遣い稼ぎに遠征のついでに買って転売という形で供給してくれる。

 その可能性は決して低くないと思っているし、自分がもし先輩の立場となれば同じ事をする。


 故に、きっとこれは伝統でもあるのだ。

 裏購買という噂を利用した、モテない男達の友情の伝統だと……。


「ああ。嫌われたら不味い。存在したのに売ってもらえないは最悪だ」

「全くだ。という訳で俺はまず先輩に頼んで依頼形式で調査から……」

「随分盛り上がってますね。混ぜて貰っても宜しいでしょうか?」


 別の男に声をかけられ、彼らは一瞬で作り笑いを浮かべた。

「いや、大した話じゃあない。昨日の夕食とかそういう話だ」

「そうそう! こいつ昨日からもう寮入りしたらしくてな」

「なるほど。スカウト組ですか。優秀なのですね」

 そう言って、彼はにっこりと微笑みかけてきた。


 嘘をついて誤魔化したが、二人は彼の事が嫌いな訳ではない。

 ただ、話す内容が内容である。

 誰にでもして良い話ではないという事がわかる程度のモラルは彼らにもあった。


 新しく現れた三人目のクラスメイトの彼は眼鏡姿に学者風の服、そして物腰柔らかくと非常に勤勉そうな見た目である。

 そんな彼に対しセクハラ発言は同性であってもコンプラ違反ではないだろうか。

 そう、彼らは思い即座に会話を中断させ話を別のものに変えた。


「あ、ところでさ、言いたくないなら言わなくても良いんだけど、お前らどうしてこの学園に来たんだ? ちなみに俺は実家追い出されて。長男の兄が嫁見つけて来てな、居場所なくなっちまった」

 ゲラゲラと男はそう言って笑った。

「それはまた随分と酷い事で……」

 学者風の彼の発言に男は慌てて否定した。

「いやいや! 入学金一年分前払いしてくれてるし仲も悪い訳じゃあないんだよ! ただまあ、兄ちゃんが家継ぐとなると邪魔になるから俺から出てくって言ったんだ」

「なるほど。家族仲が良くて羨ましい限りです。私は天涯孤独ですので」

「あんたの方がよほどおもてぇよ。お前は?」

 噂を持ちかけてきた男は答えた。

「モテたいから、冒険者になろうかなと」

「徹底してるな。そっちのあんたは?」

 学者風の男は答えた。

「彼女を作りに」

「お前もかよ! というかあんた意外と話せる奴なんだな。びっくりだよその外見でその答えは」

 学者風の男はにっこりと微笑んだ。


「良くわかりませんが、皆様と仲良くはしたいですよ?」

 若干天然の入った様な発言だったが、その真意は理解出来た。


 気さくで優しく、とっつきやすい。

 それでも尚、学者風の男に対し二人は小さくない壁を感じている。

 なにせこの学者風の男……非常に顔が良い。

 狐目の穏やか系イケメンで、既にクラス内女子数名から熱烈なアプローチを受けている。


 モテない同盟である二人が、彼に対し真の意味で仲間と成る事はない。

 そう思い憎しみが捨てきれない程度には、学者風の男の顔は良かった。


「……いや待てよ。つまり一緒に行動すればおこぼれが貰えるのでは……」

「お前天才か。発想が常人じゃねー」

「へ? 何の話でしょうか?」

「昼飯、一緒に食おうぜってお話」

「ええ、私でよければ喜んで」

 そう言って、彼は本当に嬉しそうに微笑んだ。

 だからだろう。

 彼ら二人はほんの少しだけ、罪悪感を覚えて二人で彼の分の食事代も立て替えた。



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