表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/52

24 手遅れ悪役令嬢、情報屋を呼ぶ2

「失礼いたします」


 ノックと共に、オルガに案内されたフェオドール・オリックが応接間に入ってくる。

 フェオドールは入るなり私のことを見て、驚いたように目を見開いた。


「フェオドールさん、お久しぶり。来てくれてありがとうございます。クリスティーネです。今は……アンリ殿下の婚約者、ということになってます」

「久しぶりって、ほんの数日ぶりだろう? クリス嬢」


 フェオドールは姿勢を正した。


「……いやクリスティーネ様、本日はお招きくださいまして誠にありがとうございます。私がオリック商会のフェオドール・オリックでございます。この度は当店をご利用いただきましたこと、誠に感謝いたします」


 すらすらと淀みなく挨拶を述べると深く礼をして顔を上げ、こちらにパチリとウィンクをしてくるのだった。


「こんなものでいいかい?」


 変わらないフェオドールの態度に私は微笑む。


「今は私だけですから、気にせず楽にしてください」

「そうさせてもらうよ。クリス嬢」


 フェオドールの言う通り、前回下町で会った時からまだほんの数日だというのに、私を取り巻く環境はガラッと変わってしまった。


「アンリ殿下の婚約者が平民の娘っていうの、学園の方でも噂になっているよ。もしかしたら君かな、とは思ったけど、本当にそうだったとはね」

「ええまあ、あれから色々ありまして……」

「まあ、そこら辺の話も機会があれば聞かせて欲しいものだね。って言っても俺は言うなと言われたことに関してはちゃんと口が硬いぜ?」

「そうなんですか、意外です」


 もっと口先から生まれた系のチャラ男かと思ってました。


「それで、今日は何がお望みなんだ?ドレスでも小物でも宝石でも、何でも一流の品を用意できますよ? そう、情報でもね」

「話が早いですね。勿論、情報を」



「まず、フェオドールさん、以前下町に来た時のことですが、どなたから私のことを聞いて来たんですか?」

「あの時は……確かうちの店のヤツにすごい美人がいるって聞いて、ただの興味と、本当に美人だったらうちの店員にどうかって勧誘に行ったんだ。うちの店は店員の見た目からこだわってるからさ」


 言われてみれば先ほどフェオドールと一緒に来た店員達は美女揃いで、しかも洗練されていた。

 前世で言うところの百貨店の美容部員のお姉さんが皆美人というのと同じなのかもしれない。


「それでは、私に会った後、誰かにそのことを伝えました?」

「ああ、伝えたぜ。マティアス殿下に」

「会えたんですか? 卒業してしまって簡単には会えないと言ってましたよね?」

「まあな、あっちは王族だし俺はしがない商人だし。だから手紙なんだけどさ。マティアス殿下の側近にアトキン家のでかい男がいただろ? あいつがエレナを王城に送り迎えしてるのを知ってたからさ、エレナの目を盗んで、マティアス殿下に伝えたいことがあるって、手紙に書いておいたのを渡してもらったんだ」

「それ、すぐのことですよね?」


 私は聞いた。フェオドールと私が会ったことがすぐに王妃側に伝わったのならば。私が下町にいるのを怪しまれ……マルゴさんの店に入った泥棒や、ブレブレを襲撃した事件にも繋がる。


「あの日は午前の授業をサボ……いや自主休講して下町に行って、午後には戻ってちゃんと授業に出たから放課後すぐのことだな……って」


 フェオドールは困った顔で頭をかく。


「もしかして俺、なんかまずったか?」

「……いえ、マティアス殿下には所在を伝えていいって私が言ったんですし、それは構わないのですが、今ちょっと王族関連から命を狙われているんですよね、私。そんなわけでこちらに匿ってもらってまして」

「え……ちょっと待てよ、それ、俺が聞いたらまずいやつだろ!」

「ちょっとまずいですね。ここから出たらフェオドールさんも攫われて情報吐き出させられて殺されてしまうかもしれません」

「わー……信じられねえ」


 青い顔をして頭を抱えるフェオドールに私は言った。


「大丈夫ですよ。ここは安全ですから、この屋敷から出なければいいんです。客室を用意させましたから、フェオドールさんは今日から私のお仲間ですよ」


 ふふふ、と笑ってみせる。


「いや、あのさ、ここ、アンリ殿下の屋敷だろ? そんでクリス嬢はその婚約者で庇護下にあるわけだろ? 勝手に俺のこと泊める算段したらまずいだろ!」

「大丈夫だと思いますけど。アンリ殿下はお優しい方ですし、同じクラスの人が命を狙われているのに放り出すようなことはしませんって」


 だってこの私もそうやって助けてもらってここにいるのだし。

 フェオドールは、自分の頭をかき乱しながら、こいつ絶対わかってねえ……と呟く。

 それが何のことなのかわからないけど。


 今までの私だったら、フェオドールを巻き込むなんて選択肢は絶対に選ばなかっただろう。

 けれど、おとなしくこの屋敷に匿われて自分だけ安全圏内でただ待っているだけなのは絶対に嫌だ。私に出来ることを何かしなければ、今までと何も変わらない。辛いことを自分ひとりで抱え込んでただ耐えているというのは、実質何もしていないに等しい。健気に振舞っていたって何も解決しない。それはただ、他の人が問題を解決するのを待っているだけだから。


 ……ただのエゴだとは思うし、フェオドールには本当に悪いと思うけど。


 フェオドールは全てを諦めたような顔で手近のソファにどっかりと座り、天を仰ぐ。……が体はソファに沈み込んでいく。


「うわなんだこれすごい沈む」

「でしょう? この屋敷の家具とかどれもすごいですよ。お風呂も大きいですし、折角だから堪能して行くといいですよ」


 フェオドールはこちらをちらりと見ると大袈裟にため息を吐いた。


「はあー。わかりましたよ。その代わり、アンリ殿下にはちゃんと説明してくれよ? 俺、あの人に剣の授業で勝てたことねえからな!」

「アンリ殿下は本当にお強いんですね。でも何で戦うことになってるんですか?」


 フェオドールは相変わらず、わかってねえ、とご自慢の赤毛をかき乱しながら呟くのだった。





 私とフェオドールは向かい合って、オルガが淹れてくれた紅茶を飲みながら話していた。


「あー……これ王室御用達のロンヴェネの茶葉か。やっぱ美味いな。もう一杯頼む」


 そうオルガに頼み紅茶を注いでもらうフェオドール。


「……そう言うわけで、ここに連れてきてもらったんですよ……って聞いてますか?」


 私はこれまでのことを、恥ずかしい部分を除いてざっくりと話して聞かせた。

 しかしながらこのやる気のなさである。


「聞いてま~す~。で、クリス嬢はどうしたいわけ? 俺に雑談したいんじゃないでしょうが」

「まあそうですけど……。フェオドールさんは王城に警戒令が出たのって知ってます?」

「警戒令? いや、いつのことだ?」

「昨晩です。隣国ベクレイアがアンゲルブルシュトに向けて挙兵だそうですよ。一般への戒厳令はもう少し先になりそうですが」

「マジか……戦争になるのか。あー俺らもうすぐ卒業ってことは、徴兵される可能性もあるなこりゃ」


 フェオドールはため息を吐いて再び頭を抱える。


 アンゲルブルシュトは18歳で成人になるので、私もフェオドールももう成人ではあるのだが、学生のうちは徴兵や税金が免除されている。だがフェオドールはもうすぐ卒業だ。貴族だと当主や長男も免除の対象であるが、フェオドールは平民なので、戦争が始まれば徴兵される可能性が高い。私の家だってグレンお兄様やエミリオも徴兵されるかもしれないのだ。


「……だから、なんとかしなくちゃって思うんです。私に何ができるともわかりませんけど。まあ一応足掻いてみようかなって」

「ふーん。なんかたった数日なのに、随分と考え方が変わったんだな……。まあ俺にできることなら手伝うさ。死にたくはないからな。だけど何すりゃいいんだ?」

「ええと、情報が欲しいんです。私が知ってることは多くないし、それが合ってるかもわからないので、答えあわせがしたいというか」

「あー成る程。俺のわかることなら答えるぜ」

「まずベクレイアが挙兵したのって、陛下の病が原因だと思うんです。国のトップが弱っている時に叩くのが定石でしょう? 実際、陛下がいない王城内もぐだぐだだと思います」

「ああ、間者が王城に入り込んでいるのか」


 私はそうですね、と頷く。


「王城に入れる貴族がベクレイアの間者を引き入れたんじゃないかなって思います。そして、陛下の病の原因すらも、ベクレイアだと思うんですよ」


 眉をひそめるフェオドールに私は続ける。


「ベクレイアは呪術の国って知っていますか?」

「詳しくは知らない。呪術ってうちの国の魔法と起源が一緒だかなんかで、だけど違う発展を遂げたんだったか? 俺らが産まれた頃にはもう国交断絶してたからな」

「その呪術の中に、病のようにじわじわと体を蝕み弱らせていくものがあるんです」

「……なんでそんなこと知ってるんだよ」


 実はこの情報は『恋情ラプソディア2』でのヒロインがハレムで巻き込まれた事件での話からだった。

 国が違う、年代が違うということで無関係かと思われた情報だったが、ここで繋がるとは思ってもみなかった。


「まあ……特殊な情報源からってことで。その呪術は魔法と一緒で遠隔ではできません。誰かが無防備にしている王のすぐ近くまで連れて来ないといけないんです」


 魔法もそうだが、基本的に遠隔では出来ない。距離が離れてはダメなのだ。最低でも4.5メートルくらいだろうか。その距離で視認していなければならない。

 そして魔法と同じく、呪術の使い手は王族や貴族が中心。ベクレイアの中枢に関わる人物をこっそりと陛下の近くに連れてくるのは非常に難しい。


「ベクレイアから側室が来たとか、そういう話って聞いたことがありますか?」

「……いや、ないな。国交断絶したままだし、そんなことがあれば絶対に噂になってる。そうなれば俺も知らないはずがない」

「じゃあ側室ではなく個人的に、例えば自分の側近として陛下の近くに連れてったとか……」

「そんなことができるのは、同じ王族か、貴族の中でも陛下からの信頼の厚い大貴族だけだろ? ……例えばベルトワーズ公爵家のような」

「……そうです。とは言っても私は実家を信じてますからね。他の貴族だと思います。そこでフェオドールさんに質問なんですが」

「なんだよ」

「……貴族の関係者で、ものすごく目端が利くとか、先のことまで見てきたようによく分かる、なんて言われるような人って知りませんか? フェオドールさん、噂とか詳しいでしょう」

「目端が利くねぇ……切れ者ってのなら大抵の大貴族の当主はそうだろうな。商人だけどうちの父親だってそう言われるし、あとクリス嬢の1番上の兄貴とか」

「フィリップお兄様ですか。へえ、そんないい評価なんですね」


 なんとなくうれしい。


「あとはアンリ殿下だってそうだしな。あの人も相当優秀だよな。わりと隠してるっていうか、能ある鷹は爪を隠すって感じだけど」

「他はどうですか……? 貴族じゃなくてもお抱えにすごく当たる占い師がいるとか、予知や予言ができるなんて人は」


 フェオドールは顎に手を当てて考え込む。


「……かなり昔の人間でもいいか?」

「いるんですね」


 ……おそらく、その人が私以外の転生者だ。そしてその人が、王妃にゲームの内容を伝えたり、ベクレイアの情報やもっと多くの情報を黒幕に流したのだろう。


「20年以上も前だ。だから俺も伝聞でしか知らない。預言者って呼ばれた子供がいたんだ。幼い頃から、知るはずもないことをバンバン言い当ててたって話だ」

「その人は……?」


 私は手のひらをぎゅっと握る。もしかしたら前世のわたしの同郷かもしれない人。まさか20年以上前の人とは思わなかったが。


「ベクレイアとの戦争が始まってゴタゴタして、そのままめっきり聞かなくなったらしい。名前は……なんだったかな。ユニスだかユニトだか言って、カステレード公爵家の庶子だったと思う」


 ……カステレード公爵家。ベルトワーズ公爵家に並ぶ大貴族だ。

 カステレード公爵であれば、陛下に自分の側近を連れて近付くことも可能だろう。

 そして何より、カステレード公爵家からすればベルトワーズ公爵家は目の上のたんこぶ。動機があるのだ。


「カステレード公爵家は戦後しばらくは鳴かず飛ばずって感じだったが、ここ数年はまた勢いが戻ってきた家だな」


 つまり、と私は頷く。


「黒幕はカステレード公爵家ってところですかね」


 そうすると、一連の繋がりが見えてくる。


 カステレード公爵家は転生者の情報を使いベクレイアと通じ、陛下に呪術を用いて病にさせる。ジェミール殿下を次代の王にしたい王妃は焦る。そこを上手く突いて、王妃を操り、マティアス殿下と私、ひいては私の実家であるベルトワーズ公爵家の失脚を狙った。

 もしも全ての企みが成功していた場合、陛下亡き後、幼いジェミール殿下が即位することになる。その時にベルトワーズ公爵家の力を削いでおけば、後はカステレード公爵家の独壇場だ。幼いジェミール殿下の宰相となり国の実権を握ることができる。


「そうなるとベクレイアの挙兵はブラフ……。おそらくは20年前のように軽く小競り合いをして、今度はこちらが負けたフリをして戦争賠償金として呪術の報酬を渡すってところかしら」


 ふむふむ、と呟く。


「おい、なんだかひとりで納得したみたいだけど、俺にも説明……」


 フェオドールが言いかけたところで、――突如、空が光った。

 カッと目が眩むほどの強い光が室内までを煌々と照らすのだった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ