愛される存在②
囚人護送馬車で王都に送られ。
裁判をかけられた。
「貴族に対する不敬罪の審議を始める。平民エド、モウア伯爵家に初出勤の時に暴れて出奔した。相違はないか?」
「いや・・・・」
否定しづらいな。しかし、エルダの事は・・・言わない方が良いか?
証人は伯爵家の騎士、使用人達だ。
「エドは私を殴打しましった。ええ、私はこいつに負けるはずがありませんが。坊ちゃん。お嬢様がいたので暴れるのをよしとしませんでした。手加減をしました」
嘘つけ、剣を抜いてガチでエルダごと殺そうとしたくせに。
「伯爵家騎士団長であります。こやつを追いましたが、同じ理由で手加減をせざる得ませんでした、でなければ、騎士8名負傷する理由がありません」
嘘つけ。弓まで使ったくせに。
どうやら、エルダは消えているらしい。
唯一の希望はエルダを隠せたことか・・・
結果。
「平民エド、貴族への不敬罪により極刑!縛り首」
となった。
「「「「やったー!」」」
伯爵夫妻は手を取り合って喜んだ。
・・・・・・・・・・・・・・
あれは何だったのか。今更考えても仕方ない。
父母は早くに死んだ。妹は遠くに嫁入りだ。この余波を受けないだろう。
【執行ぉぉぉおおおおお!】
処刑人の声が木霊するくらいに響いた。
俺はこのまま死ぬのだ。
最期ぐらい伯爵を睨み付けてやる。
と思ったがいつまで経過しても床が落ちない。
首に縄をかけて床がズドンと抜ける仕組みなのにな。
改めて天を見る。晴天だ。ああ、死ぬには善い日だ。
【おおおおおお・・・・・・・・・・であるが、本日、王太子妃殿下が出産された記念の日なので、恩赦ぁああああああ】
はあ?
「おい、待て!」
「そんな馬鹿な!」
「そうよ。私達のイジメ人形を取り上げたのよ」
「そうだ。母上と父上が結ばれるのを邪魔した女の子を逃がした極悪人!」
「今の発言は記録される。尚、エド殿は王太子預かりだ」
「「「はああああああ!」」」
意味の分からないままに王太子宮につれて行かれた。
王太子が何で?
王太子の執務室に連れて行かれた。
騎士学校で習った礼をした。
膝をつき。右拳を地面につける。
「やあ、エド、調べさせてもらったよ。貴族への不敬罪は貴族院の管轄でもある。そして貴族院に養子縁組の届け出が来た。エルダ嬢は母方の祖父の養子になったよ。侯爵家が事情書を出した。君の事が書かれていたよ」
マダムがやってくれたのか。感謝だ。
「立ち給え。君はエルダ嬢を助けたそうだが、もっと上手く立ち回ろうと思わなかったかな?
例えば、じっくり時間をかけて計画を立てて、協力者を募って連れ出すとか?」
「いえ、思い付きませんでした。思ったら行動していました」
「ククククッ、実に善い」
王太子殿下はその金髪を揺らして笑い出した。
「君はただの善人だ。だから、私とアリーとの子の守り役に任ずるよ」
「・・・過大な評価でございます。他に適任者はおりましょうに・・」
「私はね。妻を愛している。その産んだ子も愛している・・・故に最強の守り役を欲している。君、我が子の養育係も兼ねて守り役をやってもらいたいのだが?」
これは、王命の前の事前調整か・・・
逆らえないな。
「ただの善人を探していたら君なのだ。派閥で選ぶと、派閥の意向に沿わなくなったら・・・・殺害まであるのが貴族社会だ」
「しかし・・・」
「君なら、どのようなことがあっても子供たちを裏切らない。喩え、私と敵対することになってもね」
「あり得るのでしょうか?」
「可能性の話だ」
俺は尚書付の騎士になった。王子宮に出仕する。
「エド!」
ドンと王子殿下が背中に飛び乗った。
「聞いてよ。算数が出来なくて家庭教師に怒られたよ」
「それはようございました。王族を叱れる家庭教師は貴重です。父上様が殿下を愛している証拠でございます」
「役に立つの?」
「はい、やってはいけない事をやったらどのような事が起きるのか?計算して予想してやめるためにも算数が必要でございます」
「わかんないよ」
「なら、モウア伯爵家の事件をご存じですか?」
「知っている・・・実の子をいじめた可哀想な事件・・」
「ええ、伯爵は前妻の子の実家に養育費までも請求していましたが、実態は後妻の子に使っていました。侯爵閣下はカンカンに怒り。見過ごした使用人ともども処罰を請求し、王国は受諾しました・・・」
「分かった。頑張る!」
フウ、分かってくれたか?綱渡りの日々だ。
あれからエルダからは手紙が来る。日々、上手くなっている。
今度会いに来るそうだ。
熊のヌイグルミでもプレゼントしようと思ったら、
機嫌を損ねた。
「エド様!私はもう15歳になります。今年から貴族学園に入学ですわ」
「失敬・・・すまない。今、しまうよ」
「いえ!いるわ!」
可愛らしい令嬢に育った。しかし、『いるわ』は分からない。
今年から休みの日はエルダと会えるのか?これを楽しみに職務に邁進するつもりだ。
「そうだ。すまない。プレゼントは何がいい?給料は冒険者時代の三倍だ。使い道がなくて困っている」
「・・・指輪とか」
「指輪?侯爵令嬢に相応しい物って用意出来るかな」
「高い物じゃなくていいわ。あの街で買って欲しいわ。おば様たちにも挨拶をしたいわ」
「無理だ。そんな休暇は取れない。すまない」
「・・・・」
それから数日後。王太子夫妻に直々に呼び出された。
「エド殿、宮中伯に興味はないかしら?」
「ございません」
「グスン、可愛い坊やの養育係がね。私は良いけども、口すがない雀たちが平民を側に置くとは何事かとささやくのよ。グスン、グスン」
「えっ、何それ」
しまった。思わず素が出た。
「手柄はございません。それに恩赦を受けたとはいえ。元犯罪者です」
「功績なら職務良好にするわ。ねえ、ビル良いでしょう」
「私は異存ない」
「職務良好って、解釈がいろいろ・・それに貴族の妻のあてがございませんよ」
「そうだわ!」
王太子妃殿下は、パアと明るい顔をして言いやがった。
「休暇も必要よね。しばらく、前の養育係に任せて旅行にも行きなさい」
「しかし、旅行の・・・あっ」
エルダと旅行してお世話になった人達に挨拶をしよう。
しかし、年頃だから、連れ出すのは無理かな。
と思ったらあっさり許可が下りた。メイドと従者を連れて行くのなら良いとのことだ。
王都の侯爵邸まで迎えに行った。出むかえたのはエルダのお祖父様だ。金髪に白髪交じりの紳士、エルダと髪の色と瞳が同じだ。
「孫をよろしく頼むぞ。末永くな。フン!」
「はい、もちろんです」
若干、不機嫌だ。まあ、そうだろう。男と旅行に行くのだから、挨拶した後。お付きの使用人達が来た。
「お前はマリーとトムじゃねえか?懐かしいなおい」
「貴族の使用人になれたぜ!」
「フフフ、兄妹でエルダ様にお仕えしているの。お嬢様はもうすぐ来るわ」
「ミャー、ウミャー」(若造、挨拶ないな)
「トラ先生まで」
トラ先生がエルダに抱っこされて登場した。
「エド・・」
「エルダ」
心なしか色気があるように思える。
「エド、言って」
「おう、エルダは・・・」
【愛される存在だぜ!】
もう、恥ずかしいのを通り越して、この子のためならいつでも叫んでみせる。
それが俺の役目だ。
最後までお読み頂き有難うございました。




