愛される存在
それから、数ヶ月経過したら。
エルダは変わった。
「エド!」
タタタと走って来て。
「おう、エルダ、ただいま」
ドスンと体当たりをして抱きつく。
「おい、おい、今はいいけど、もう少し大きくなったら、耐えられないぞ」
「エへへへへ」
エルダは10歳か。イタズラをしたい盛りだ。今まで出来なかったから爆発しているのか?
これは子育ての経験があるマダムは違う見解をした。
「あれはどこまで信頼できるか試しているのよ・・・養子に出された子が引取先が無害と分かると、イタズラや接触して無意識に試すというわ。特に虐待された子に見られるそうよ。エルダちゃん。可哀想だわ」
「じゃあ、どうすれば?」
「スキンシップを超えたら怒りなさい。それから本当の関係構築ってもんよ」
「はあ、頑張ります」
マダムに養子先を頼んでいるが上手く行かない。
「あの子、貴族の色でしょう?うちで引き取っても良いけど・・・悩むと思うわ」
「そうですか。では、あの子の母方の祖父に何とかしてもらおう・・・調べて見ます」
そんな一線を超える事はないなと思ったが起きた。
クエストから帰ると、エルダが倒れていた。
【エルダ!】
抱きかかえ顔を見る。口から血が出ている。
「エルダ、大丈夫か?今、回復術士につれて行くからな!」
すると、ニッコリ笑って。
「エへへへ、エド、冗談だよ。血はトマトの汁だよ」
と言う。
何だと、思わず。
【バカ野郎!心臓が止ると思ったじゃないか!そんな冗談はするな!】
大声で叱ってしまった。しまった。威圧感を与えないように注意したのに。
しばらく沈黙してしまった。
「ねえ、エドは私が死ぬと悲しい?」
「当たり前だ!」
「何故?家族でもないのに」
家族、この子はこの子で悩んでいたのか。
ここは正直に・・・
「分からない」
と答えた。
「助けてくれた時も」
「ああ、心がそうしろと命じたのだ!」
「強いて言えば、エルダは愛される存在だからだ!」
「私がヒドい存在でも?グスン、お父様やお祖父様から嫌われても?」
「何だそりゃ、この街の者はエルダが大好きだ!エルダが皆から嫌われても俺だけは愛するぜ!」
「グスン、グスン!」
抱擁した。俺も泣いた。
それからどっか遠慮がなくなったように思える。
「エへへへ、エド、文字覚えたよ」
「おう、夕飯食べたら確認するぞ」
夜はエルダと寝床が一緒だ。
「エド、言って」
「おう、エルダは愛される存在、とっても良い子、エルダは・・・」
まるで子守歌のように言い聞かせる毎日だ。
「あのね。最初はお母様のドレスや宝石を売るのは止めて欲しいと言ったら、納屋に閉じ込められて・・・ボロ袋を渡されて・・・グスン、私はどうすれば良かったかな」
「分からない。しかし、エルダは悪くない。誰でも母の遺品を売られたらそう言うぜ」
「グスン、それでね。お祖父様も私のこと大嫌いだから言っても無駄だって」
「それは誰が言ったのだ?」
「お父様が、私の行動を報告したらとんでもない我が儘娘だから大嫌いだって」
「そりゃ・・・嘘だろう。誰かがお前を嫌っているという話は大抵嘘だ。一度調べてみるべきだ。お母様の実家は・・・」
「ダイア侯爵家・・・」
エルダは眠りについた。心を許してくれた。
だが、それは別れが近いことを意味する。
別れまでこんな穏やかな日が続けばいいかな。
と思ったが、そうは行かなかった。
☆☆☆
「ちょっと、エド、これから仕事よね。エルダちゃんを預かるわ」
「そうよ。エルダちゃんはあたしらに任せなさい」
「ええ、クエスト終わって、数日休みにするつもりだが?エルダと公園にお出かけの予定だよ・・それにエルダはお留守番出来ると太鼓判をおしてくれたじゃないか?」
スミス夫人を筆頭にマダムたちが早朝にやってきた。
負に落ちない話をする。
目を異様にパチパチしている。何かのサインか?
まさか・・・・
「エド、お早う・・・」
「エルダ、マダム達と行きなさい」
「どうして、公園にお出かけの約束だよ」
「いいから、急用が出来た」
俺は膝を折り。エルダの目線まで落として言い聞かせた。
「エルダは愛される存在だ。俺は何があっても後悔しない。エルダを愛しているぜ」
「うん、分かった。早く帰って来てね」
「おう」
嘘をついた。
その後、スミス夫人が連れ出した後。マダム達がエルダがいた痕跡を消してくれた。
「エルダちゃんの持ち物は後で届けるわ。これで最後ね」
「エド、ギルマスもどうにも出来ないのよ・・ごめんなさい」
「いや、今まで有難うございました。あのこのお金エルダに渡して下さい」
「分かったわ」
マダム達が去ったら、官吏がすぐに来た。
「平民エド!貴族に対する不敬罪容疑で逮捕する!」
「家を探せ。子はいないか?女の子だ!」
縄をかけられ、冒険者ギルドに行く。そこで冒険者の身分も剥奪されるのだ。
途中、街中に見知った顔がいた。モウア伯爵家の使用人達だ。先輩の顔も見た。
「女の子だ。金髪の女の子はいなかったか?」
エルダを探しているのか?
しかし、街の人々は。
「はあ?知らないね」
「金髪?そりゃ俺だ。チンの毛がね」
「貴様!」
と次々に知らないふりを決め込む。
子供達には甘言で聞くが。
「そこのお嬢ちゃん。お菓子をあげるから、金髪の子を知らないかい?君と同じくらいの年齢くらいだ」
「「「キャアーーー、変態!」」」」
「変態が来たわ!」
「おい、お菓子を奪って逃げるな!」
「ウミャー!ミャーミャー!」(汚物にウンコだ!)
「おい、猫、ウンコするな」
トラ先生まで・・・エルダはやっぱり愛される存在だ。
俺は嬉しくなった。
冒険者ギルドのマスターに正式に冒険者の資格を剥奪された。
本来なら、冒険者ギルドが守ってくれるが、貴族相手の不敬罪は大罪だ。
「エド、逮捕だ」
「ああ、やっぱり?」
「元犯罪者はいいが、現役はダメだ。特に貴族相手の犯罪はな」
その場で正式に官吏に取り押さえられた。。
連行されるとき。群衆の中から俺の名を叫ぶエルダの声が聞こえた。
「エド!エド!エド!」
「ハハ、楽しかったぜ。幸せになれよ!エルダは愛される存在だ!」
☆☆☆エルダ視点
「エド!エド!エド!どうして・・・グスン」
何が起きたのか。分かっている。
いえ、考えなかったわ。
「エルダちゃん。分かっているわね」
「はい、スミスのおば様」
「そう、商隊に話をつけたわ。行きなさい。これエドからのお金よ。旅費に使いなさい」
「はい、おば様!」
20日かけてダイア侯爵邸まで行った。
アポ無しだ。
しかし、門番の人はジロジロ見る。
「まさか、その瞳は」
「私の母の名はケルベルカ・モウア、父の名は・・・フランツ・モウアです。お祖父様にお取り次ぎをお願いします!」
屋敷に通された。私と同じ瞳の子がいるわ。
「まさか・・・そんな。まさか・・」
お母様と同じ髪色と輝くエメラルドグリーンの瞳の老人がいた。この方が私のお祖父様らしい。
私は今までのことを話した。
お祖父様と私の話には齟齬がある。
私は義母と不仲で外国で暮らしていたらしい。
「気にはかけていた。しかし、まさか、虐待を受けていたとは・・・家政権がある。下位貴族でも干渉は出来なかった。許しておくれ」
「いいえ、お祖父様、これからのことですわ。エドを助けて下さい」
「ああ、もちろんだ。処刑を阻止しよう。嘆願書を書く」
「有難うございます。お祖父様・・」
「うむ。私の養子になりなさい。もう、平民の生活をおくらせない」
この家の養子になる。それはエドと別れることだ。
「・・・はい、エドを助けてくれるのなら」
最後までお読み頂き有難うございました。




