序章
「平民エド、貴族への不敬罪で死刑に処する!」
俺は平民のエド、冒険者さ。更にその前は騎士だった。
王宮内に設置された処刑台に登り。
首に縄をかけられた。縛り首だ。
俺の目の前にモウア伯爵夫妻とその子供達が陣取っている。
特等席で見物するらしい。
うあ、それにしても伯爵一家趣味が悪い。
子供達までつれて来ている。あの子の義弟、義妹か。
夫人が死ななければエルダは愛され長女だったのだろうと考えても仕方ない。
「エド、お前のくだらぬ正義感とやらがこうなったのだ」
伯爵の護衛騎士がそうのたまう。俺の先輩だった。
正義感だったのか?いや、俺でもよく分からない。
少し記憶を遡った。
あれは騎士学校を卒業して運良く伯爵家に雇われやる気に満ちていた頃だ。
☆☆☆回想
「ほら、ウスノロ!さっさと掃除をしろ!」
「キャア!」
・・・何だ。このとき俺は騎士学校を出たばかりの平民騎士だった。
雇われ先のモウア伯爵家だ。明らかに自分よりも年下の男の子にボロを着た少女がホウキで庭の落ち葉を掃くように命じられている。
体に比してホウキがデカく見える。枯れ葉が落ちてくるから、これは罰か?
首筋や手、足からは痣が見える。
先輩に聞いてみた。
「あれな。伯爵殿の娘だ。実の母親が亡くなってから、それからは、まあ、あんな感じだ。継母と折り合いが悪いのだろう」
「では、お嬢様として対応すれば良いのですか?」
「いんや、見えないと思え。お前も慣れるよ、ここは給金が良い」
「まあ、確かに」
俺は苦労して騎士学校を出た。平民だから何とか奨学金をもらい。その返済をしなければならない。
そうだ、世の中、もっと、悲惨な境遇の子もいる。
貧民なんて、ストリートで肩を寄せ合って地面で寝ている孤児もいる。
俺は自分のことを考えれば良い。
見てみぬふりをしよう。
どうせ、慣れるさ。
と思いつつ。
「やあ、初めまして、俺はエド、お嬢様、ホウキをお貸し下さい」
「えっ、怒られる・・・よ」
「いいから、座って下さいな」
声をかけてしまった。
すると明らかにお嬢様よりも幼い子供達から批難された。
これは義理の弟妹か?
「おい、そこの騎士、何をしている!」
「これはウスノロへの罰よ!」
手にはムチを持っている子もいる。
「お嬢様、失礼」
「キャア」
お嬢様を脇に抱えて。
「うっせー、お前らネチネチとナメクジか!ばーか、ばーか」
と言って、屋敷を出奔した。
その際、止める騎士の先輩を殴打し、止める執事を蹴飛ばしたな。備品も壊した。追っ手もまいた。
おかしいな。俺はそんなキャラではないのにな。
そして、良くある冒険者になったのさ。
女の子の名はエルダ、汚れていて分からなかったが綺麗な金髪だ。目も輝くグリーンか?
始めの頃は、俺が「よお」と手をあげて挨拶すると。
「ヒィ!」
と頭とお腹を押さえて縮こまる。
こりゃ、やられていたな。頭とお腹を守る仕草が習性にまでなっている・・・
「いや、服だよ。俺、どっか行くから着てみてちょーだいな」
わざと軽薄に言ってみた。威圧感を与えないようにするべきだ。
しばらして戻ってみると、服を抱えて泣いている。
「グスン、グスン」
「え、どうしたの?気に入らなかった?サイズ合わなかった?返品しようか?」
「新品の服・・・グスン」
どうやら、新品の服は久しぶりか?貴族令嬢なら月に一回はドレスを新調するのに。
この子の来ていたボロは、袋に穴を開けて頭を通して、縄をベルトにしていたものだ。
どれだけヒドい扱いを受けていたのだ。胸が痛くなった。
「君のだよ。お兄さん。ちゅっと、外出してくるわ」
食事も床に座る。食堂でもだ。
「はあ、椅子に座ってもいいんだよ。って、頼む。周りから冷ややかな目で見られているから!お願い。椅子に座って下さい」
ヒソヒソヒソ~
「やーね。少女奴隷・・・」
「許可書もっているのかしら」
「ちょっと、聞いて見ましょうかしら?」
何で、マダム達が冒険者御用達の食堂にいるんだよ!
だが、これが良かった。事情を説明したら、何とか分かってくれたし、女の子特有の難しい問題もマダム達がやってくれた。
「まあ、下着、男では買えないでしょう」
「って、ゆうかエルダちゃん。服は自分で選びなさい」
「そう、そう、今から自分に似合う服を選ぶ。これも学習よ」
何でもマダム達は冒険者の上澄みの奥様達で、女将的な立ち位置らしい。
マダムのリーダー、スミス夫人と言う。主に彼女が相談に乗ってくれた。
「困ったことがあったら、言いなさい。出来る事はやってあげるから」
「助かります」
お言葉に甘えて、野営があるクエストの時はエルダを預かってもらった。
「おう、行ってくるぞ」
「はい・・・」
帰って来ると。
「エルダ、ただいま」
「はい・・・」
こんな感じだ。
「スミス夫人、エルダは大丈夫でしたか?」
「大丈夫じゃないよ」
「え、何か迷惑をかけましたか?」
「違うよ。とても良い子だよ。言えばお手伝いもきちんとする。大丈夫じゃないのはあんただよ。ほら、他の家庭を見てごらん」
夫人が指さす方を見ると。クエストに出かける親を見送る子供がいた。
「父ちゃん!いつ、帰って来んだよ!」
「お父さん。グスン、グスン」
「おう、トム、マリー、長くなるわ。母ちゃんの言う事をちゃんと聞くんだぞ」
・・・・・・・・・
「ほら、これを見て何とも思わないかい?」
「いや、それは・・」
いいかい。子供は守ってくれる存在に執着するものだ。
実の親、義理の親、親に準じる存在、それは変わりない。
エルダちゃんはあんたにそっけないよね!
「まだ、あんたを信頼していないのよ」
「ええ、そうか」
「エルダちゃんをどうしたいんだい?」
「そりゃ、しかるべきところに養子に出して・・・」
「あの子は貴族の色だよ。そこらへんの家に出したら、エルダちゃんが苦労するよ。しなくても良い苦労をね」
「そうだよな・・・」
「あんた、エルダちゃんを助けたのなら、しっかり一生面倒を見る覚悟を持たなきゃダメだよ!」
「はい・・・身に染みました」
そうだな。そうだな。そうだな。
と言ってもどうする?
「親は子を見守るものだよ」
「分かりました・・・」
とりあえずエルダを見ることから始めた。
最後までお読み頂き有難うございました。




