後編
週内に書けました(*>∀・)b
でも長くなっちゃった…。
いっけね、セルフレイティングのチェック忘れてた(≧Д≦)
―――翌日。
私は昨日同様、早朝にシスの手引きで王宮に向かいました。
マーガレット様達と別れ際に聞いたお話では、
『明日、大勢の貴族が断罪されるかも知れない』
…どういうことなのかは分かりません。
ですが、昨晩戻った屋敷の中は慌ただしく、私がこっそりと戻った部屋の中から聞き耳を立てていると、
「………クソッ、ロジエめ…」
! お父様の声…。
「………いや、大丈夫。こちらにはヴェルディエ公爵がついているのだ。いざとなれば………」
…そのまま声は遠ざかっていきました。
私が嫁がされるはずだったロジエ男爵に、何かあったのでしょうか。
ヴェルディエ公爵様は、王家に次ぐこの国の重鎮。国の大半の領地を治めています。
我がフィオレンティ家も、ヴェルディエ公爵の配下にあったはず…。
―――結局私は、昨晩の食事もほとんど喉を通らず、あまり眠れずに朝となり、シスと共に王宮までやって来ました。
「おはよう、リリー」
門の前にはマーガレット様達がいらして、ニコラス様が明るく声をかけて下さいました。その後ろでマーガレット様が、
「リリー」
? 少し表現が険しいようですが…。
「…これからここで行われることは、あなたにとって聞くに堪えない話かも知れない…。いざとなれば、退席しなさい。いいわね?」
思わず私は息を呑みました。
一体、このあと何が起こるのでしょうか―――
◇ ◇ ◇
―――王宮・謁見の間。
薬学研究所に通い詰めていた私は、他の令嬢のような社交活動もしてこなかったので、ほとんど縁のない場所でした。
うう…、マーガレット様達とご一緒でなければ、緊張と寝不足で倒れてしまいそう…。
………? 騎士様達が、誰かを引っ立てていらっしゃいましたが…。
! あれは、…お父様!?
「………来たか」
国王陛下のお声に、狼狽したお父様が叫び出しました。
「お、お待ち下さい! これは、何かの間違い…、ロジエ男爵は…!」
「ロジエなら全て吐いたぞ」
陛下の代わりに、そばに控えていた騎士団長がお答えになりました。
「あの男が輸入を担当していた、アロエーロ軟膏薬の原料・アローエ。南方でしか育たないあの薬草を、ロジエは北方へ横流しをしていたな」
「あれは横流しではありません! 北方・ホルガー国には、アローエを使用した薬の量産のために口を利いていただけ…、ホルガーでもラディウ症を含む、治療薬の開発協力をしていたではありませんか! あの国は我が国よりも、開発の成果は著しいはずだ!」
お父様の訴えに、マーガレット様が口を挟まれました。
「確かにそうかも知れません。…が、あの国では世界中で禁止されたメドウ、ロフなど、危険な素材を使用しています。あなたも知らぬ訳ではありませんよね?」
! メドウ! …あの薬草は痛みを緩和するものの、使用を続ければ中毒症状を起こし、命をも奪う危険なもの…!
ロフも幻覚症状を起こし、人を錯乱させる作用をもつ危険な薬草です。そんなものを使用する国に、素材を供給していたなんて…。
私が驚いていると、騎士団長が言葉をつなぎ、
「あの国で作られた薬は、我が国では厳重警戒対象だ。ロジエはアローエを流す代わりに、ホルガーで生産された使用禁止項目に連なる催淫剤…、マリファジアを取引していた」
「「!?」」
マリファジア…! あの薬は、ホルガー国のような気温の低い国であれば、少量なら暖を取るための血行促進剤として有効ですが、他国では催淫剤…、強力な媚薬であり、幻覚症状も引き起こすという…。あのような薬をこの国に………?
騎士団長の言葉に、しばらくの沈黙を貫いたお父様は、
「………わ、私は知らぬ。薬の取引については全て、ロジエに任せておいたのだ。大体、その薬を取引していたとして、マリファジアが我が国に出回っているという話は聞いたことがない。ロジエは私達が知らぬところで、勝手に金を儲けていたのだろう」
そう吐き捨てましたが、騎士団長はさらに追及するように、
「…残念だが、マリファジアの行方はフィオレンティ子爵、貴様が一番良く分かっているであろう。それともヴェルディエ公爵の方が詳しいか?」
「!」
お父様の顔色が変わりました。騎士団長が続けて、
「調べはついている。今頃公爵も捕らえられているはず。公爵だけではない…、この案件に関わった貴族の面々は、全員捕縛させてもらった」
「っ………!」
? お父様…、お父様達は、一体何を…?
私が訝しんでいると、騎士団長が私をチラリと見て、話を続けるのを躊躇っておられるご様子でした。
するとマーガレット様が、
「…リリー。あなたはこの先の話は聞かない方が良いわ。退席しなさい」
え!? そ、そんな! 私は思わず、
「い、いいえ! 私も聞きます! …そもそも、私達がもっと、画期的な薬の開発が出来ていれば、ホルガー国に頼る必要もなかったはず…。父の娘として、研究に携わっていた者として、聞いておきたいです!」
私が意思を伝えると、マーガレット様はため息をつきながら、
「………分かったわ。でも、気分が悪くなったら、すぐに退席するのですよ?」
そう聞いて、私は一応頷いて見せましたが…。
マーガレット様の合図で、騎士団長は手元の文書を確認し、話を続けられました。
「グレッグ・フィオレンティ。貴様、貧しい領民達の元へ訪れ、めぼしい少女がいれば親に金を握らせては随行させていたな。そして、ヴェルディエ公爵の領地にある隠し別荘へと促し、少女達にマリファジアを使用…、さらに…」
騎士団長が顔をしかめて、文書を読むのを躊躇っておられましたが、
「………酩酊状態になった少女を裸にし、別荘の一室に於いて全裸になった数十人の貴族の男達で囲み、少女一人に代わるがわる覆いかぶさって、陵辱の限りを尽くしたと…」
「「!?」」
う、嘘でしょう!? そんな………。
国王陛下も王妃様も、その場全ての方が顔をしかめました。私も一瞬、気が遠くなりましたが、
「わ、私はその場にはいなかった! あんな乱痴気騒ぎに乗じるなど、とてもじゃないが…!」
お父様が叫んでいます。が、騎士団長はさらに、
「だから罪がない、とでも? そもそも少女達を提供したのは貴様だろう? それに、我々の調べがついてないとでも思っているのか? 貴様とヴェルディエは、貴族共の狂乱の宴が終了したあと、薬の効き目が切れた少女を…」
「リリー! その先は聞くな!」
思わず、ニコラス様が私に向かって叫び、話を遮りました。その瞬間、騎士団長も躊躇を見せたのですが、
「…っ! い、いいえ! 聞きます! 父が一体、領民に何をしたのか………! 私は、きちんと知っておきたいのです!」
私の訴えに、騎士団長は険しい表情でしたが、少しの間のあと、諦めたように、
「………薬が切れた少女が、やめて欲しいと懇願する様を笑いながら、二人で…」
「それの何が悪い! 所詮使い捨て…、生き残れば女衒に売り飛ばすだけの、平民のガキだぞ! 嫌がって泣き叫ぶ方がいたぶりがいがあると、ヴェルディエ様が喜んでいたのだ! 私は悪くない! 私は…!」
…お、父様………、信じられない………。何という、ことを………。
「………もういい。聞くに堪えぬ」
! 国王陛下の声です。さらに陛下は、
「子供達の中には少年もいたそうだな。男共だけでなく、貴婦人然とした貴族の女達も、少年達を陵辱していたと聞く。…やり切れんな。この国の水面下で、領民を守るべきはずの貴族が、そのような狼藉を働いていたとは…」
「「……………」」
皆、言葉が出ず、陛下が「連れて行け」と御命令を下されましたが、お父様が、くっ、と呻いて、
「………何故、…何故事が露見したのだ…」
その問いに陛下が、
「以前よりヴェルディエが疑わしい行為をしている、との情報はあったが、貴様らは連携して事を巧妙に隠していたな。…だが、隣国・シルヴァンの協力…、友好的同盟を組んでいる彼の国の技術の結晶を持って、全て映像として証拠を残せたのだ」
「? …映像?」
お父様も、私も含め周りの方々も驚かれています。陛下は続けて、
「そこにいるニコラスが、シルヴァン国にて開発された最新の『録画装置』なるものを取り寄せ、やはり同国の暗部の者達の手を借り、ヴェルディエの別荘に仕掛けてもらったのだ」
…え? ニコラス、様が?
「! 貴様が! …この、平民の分際で!」
お父様が悪態をつきましたが、陛下が、
「ニコラスは、王族の者だ」
!?
「我が妹であり、我等の末姫であったフリージア…、そこのマーガレットとは旧知の友である彼女が、シルヴァンの王族に嫁いだことは周知だ。シルヴァンは近年首長国となり、王制は廃され国の象徴として残っているのみ。…ニコラスは、フリージアの二番目の息子だ。私の甥に当たる」
そ、そんな………!
「マーガレットも市井に下ったとはいえ、元は伯爵家の者。薬学研究所を開き、医の世界に後れを取っていた我が国への貢献は計り知れぬ。…そしてニコラスは、病弱であった兄のために薬学を学びたいと、マーガレットの元で研究に勤しんでいたのだ。今では彼女を、もう一人の母と慕っているようだが」
………知りませんでした。
私が呆気にとられてニコラス様を見ると、照れくさそうに苦笑してらっしゃいました。
国王陛下がそこまで語られると、マーガレット様が前に進み出て、お父様に向かって言い放ちました。
「…婚姻関係を結んでいた時から、私はあなたに進言していましたよね。ヴェルディエ公と親密になり過ぎてはいけない、と」
「………」
お父様が、マーガレット様を睨んでいます。が、マーガレット様は毅然とした態度で、
「昔からそう…。『女の分際で』、『平民の分際で』…。差別主義の塊で、その上人を人と思わない鬼畜の如き所業…。あなたと同じような考えの貴族の者達は、今回の件でようやく一掃されたわ。事に加担した者達の爵位は剥奪し、残った罪なき親族に爵位は託される…。没落する家もあるでしょうね」
「くっ…。覚えていろ! お前のような女は、いつか必ず…!」
お父様はそう喚き出しましたが、騎士達に捕縛されながら連行されていく途中、何者かが謁見の間へと現れ…。
! あれは、お母様!? 弟のサイラスも!
「………ローズ」
お父様がそう呟くと、お母様はサイラスの手を引きながら、にっこりと笑い、
「旦那様、この度は爵位をお譲り下さり、誠にありがとうございます」
見事なカーテシーで、お父様に挨拶されました。
お父様は焦燥とした様子で、そのまま連行されて行きました―――
◇ ◇ ◇
「知りませんでした。お母様とマーガレット様が、既に御友人同士だったなんて…」
―――あれから数日。研究所の庭園で、ハーブに囲まれながらお茶を楽しむ、私とマーガレット様、それから私の母であるローズお母様。
弟のサイラスとニコラス様は、庭園を探検中です。
マーガレット様がお茶を飲みながら、
「リリー、あなたが乳飲み子の頃、一度ローズが私の元へ謝罪に来たのよ」
お母様は元々、妾腹の娘と言われながら侯爵家で使用人以下の不当な扱いを受けていて、お金を貯めていつか出ていこうと、夜な夜な屋敷を抜け出し、酒場で働いていた15の頃、お父様の目に止まったそうです。
お母様もお茶を飲みながら、
「妾腹でも侯爵家の出身って言わなければ、私もきっとあの子供達と同様、貴族達の玩具にされていたのでしょうね。グレッグは私を娶る代わりに、侯爵家に多額の金銭を要求したそうよ」
何も知らないお母様が私を産んだ頃、初めてお父様がマーガレット様と離縁して、お母様と一緒になったことを知って、私を抱えてマーガレット様に謝罪に出向いたのだそうです。
「あんな男と一緒になって苦労するのは目に見えていたから、何かあれば声をかけるよう言っておいたのよね」
そう言ってマーガレット様は、お母様と笑い合っています。お母様は、
「それまでリリー…、あなたを私なりに守ってきたけれど、サイラスを授かってからあなた一人に手をかけられなくなって…。それでシスに頼んで、あなたをマーガレット様のところに連れて行ってもらったの」
そういえば…。あれは、偶然ではなかったのですね。
でも、シスって一体何者なのでしょう…? そばで控えていたシスを見やると、ふいにマーガレット様が、
「シスはシルヴァン国の、暗部組織の者なのよ」
え!? と私は驚きました。シスはいつもと変わらず、静かに微笑んでいます。
「シスの仲間達がこの国にも数人いてね。ヴェルディエの隠し別荘に録画装置を仕掛けたのも彼等なの。あの最新機器のお陰で、やっと全ての証拠が揃ったけど…」
録画されたものを見た者達が、あまりの非道ぶりに絶句したそうです。お母様は、
「今後は我が家の資産も、被害にあった子供達や領民のために使わせてもらうわ。贅沢は出来なくなるけど、構わないでしょう?」
私は、もちろん、と頷きました。贅沢なんかより、これからも研究所に通い続けられる方が嬉しいです。
そんな話をしていると、ニコラス様達が戻って来て、
「ねえさま! 見て! おっきなムシ!」
「まあ、サイラス! それはサナギですよ! 土の中に帰してあげて!」
私が言うと、サイラスは、はぁい、と返事をし、ニコラス様と一緒に土に埋めました。
サイラスは真っ黒な手で鼻をこすりながら、
「エヘヘ、これからはねえさまと、いっぱい遊べるね!」
可愛らしい満面の笑みで、再び庭園を駆け回ります。
ニコラス様がそれを追いかけようとして、ふいに足を止め、思いついたようにこちらを振り返り、
「リリー、サイラスはラディウ症を発症した、って言ってなかった?」
え? ええ、と私が頷くと、ニコラス様は少し考えて、
「…おかしいな、さっきラディウ症を悪化させるはずのカスパーに…、でもあの株は確か………」
何かブツブツ仰ってます。私は、はっ、と気づき、
「あの角に植えたカスパー…、あれは昨年交配を加えた品種改良分ではなかったですか? もしかすると…」
「! だよね! 義母さん! ちょっと検証したいから、リリーを借りるよ! サイラスを頼む!」
ああ! また私の気も知らずに手を取って…。
もう…。
………でも、こんな日がこれからも、ずっと続けば良いな、と、ハーブに囲まれた庭園で、ニコラス様に手を引かれながら、温かな木漏れ日に包まれた私は、そんな風に思いました。
秋の文芸展に間に合わせようと、前半は突貫工事になってしまいました。゜(゜´Д`゜)゜。
でもおかげで後半割と詰める事が出来ました。良かった。
長くなっちゃったし、コレが文芸かって言われると自信ないけど、豆的断罪劇書けたので満足です(*´ω`*)
ココまで読んで下さり、ありがとうございました!




