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それゆけ、孫堅クン! ~ちょい悪オヤジの三国志改変譚~  作者: 青雲あゆむ
第4章 新王朝建国編

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後日談: 孫策クンは愚痴が止まらない

新作の宣伝を兼ねて投稿。

黄凰元年(204年)4月 建業


 俺の名は孫策。

 呉王朝の第2代皇帝だ。

 つい最近、即位したばかりである。


 いや、即位させられた、と言うべきか。


「クソ親父が」


 俺の口をついて出た言葉に、すぐ近くにいた周瑜が反応する。


「まだそんなことを言ってるのかい? もう3ヶ月も経つのに」

「ムカつくものは、ムカつくんだ」

「まったくもう……」


 俺の言葉に、周瑜が呆れた目を向ける。

 しかし俺にも言い分がある。


 なにしろ俺の親父は、あの孫堅 文台だ。

 漢王朝をその見事な働きで救い、鳳凰ほうおうから瑞兆ずいちょうを受けるような、掛け値なしの英雄である。

 さらには漢の天子から禅譲ぜんじょうを受けて、呉王朝の初代皇帝になった。


 ここまではいい。

 俺も親父の偉業に心酔し、その統治を支えようと思ったものだ。

 実際に華北の統治を任されて、ヒイヒイ言いながらも、役目を果たしていたからな。


 その一方で、親父の方もバリバリと働いていた。

 洛陽から建業までの通信網や水路を整備し、華北から華南に住民を移住させたり、華南の水路や農地を開発している。

 おかげで中華全土は商業が発展し、人口が増えると共に、農業生産も安定した。


 さらに北辺の警備体制を整え、各地域には親族を王や公として配置して、にらみを利かせている。

 異民族に対しても、硬軟おり交ぜての宥和政策を実行し、反乱を抑えつつも、労働力を確保した。

 ほんの10年前までは、あちこちで反乱が頻発していたというのに、それがすっかり鳴りを潜めているほどだ。


 まったく、見事なもんである。

 ガッタガタになっていた漢王朝を建て直し、呉王朝として鮮やかに生まれ変わらせたのだ。

 あまりに立派すぎて、涙が出そうである。


「だからって、息子に帝位を押しつけて、隠居していいわけじゃねえだろうがっ!」

「「「ッ!!」」」


 おっと、いかんいかん。

 気持ちが高ぶって、大声を出していた。

 おかげで一緒に仕事をしていた文官たちが、驚いて固まっている。


 すると周瑜がため息をついてから、”少し休憩にしよう”と提案する。

 文官たちは大急ぎで退室し、俺と周瑜だけが残された。

 周瑜はお茶を入れてから、俺の前に座る。


「ふう……ずいぶんと不満が溜まってるようだね?」

「くっ……そりゃあ、そうだろう。こんな真似されたんじゃよう。たまんねえぜっ!」


 俺がまた声を荒げると、周瑜はその美麗な顔で苦笑する。


「フフッ、まったく、そんなに先帝陛下がうらやましいのかい?」

「ち、ちげえよ。俺が言いたいのは、あまりに無責任じゃねえかってことだ。まだまだピンピンしてるのに、仕事を放り出したんだぜ」

「それについては、もう何年も前からおっしゃられていたじゃないか。孫堅さまは十分に、責任を果たしたと思うけどね」

「だけど親父は、まだ50にもなってねえんだぜ。普通は冗談だと思うじゃねえか」

「いや、君以外は普通に受け止めていたよ。だから張紘さまや張昭さまだって、それほど文句は言わなかったじゃないか」

「そ、それは……ほら、しょせんは他人事ひとごとだからだ」

「他人事ねぇ」


 俺の苦しい言い分に、また周瑜が呆れた目をする。

 たしかに孫堅おやじは、早めに隠居するようなことをほのめかしていた。

 ”俺、この国が安定したら、早めに隠居するんだ。その時はよろしく頼むぞ、策” とか言ってな。

 だけどそんなの、冗談かと思うじゃねえか。


 だから俺も冗談っぽく返してたんだ。

 ”何いってんだよ、親父。体が動く間は、しっかり働いてもらうからな”

 なんてな。


 それが去年の暮れになって、いきなり言いだしやがったんだ。

 ”よし、譲位するぞ。策、来年からお前が、皇帝な”

 だってよ。


 俺は最初、何を言われたのか、分からなかったね。

 それで少し遅れて

 ”はあっ、何いってんだよ、親父。つまらねえ冗談はやめてくれよ”

 って返したんだ。


 そしたら親父が呆れた顔で、

 ”お前なあ、何年も前から言ってるじゃないか。実際にこの中華は平和になりつつあるんだから、もう俺は辞めるぞ。そして田舎に帰って、のんびりするんだ。スローライフだ、スローライフ”

 だってよ。


 信じられるか?

 この中華の皇帝が、まるで服を脱ぎ捨てるみたいに、帝位を放り出すんだぞ。

 それになんだよ? ”すろーらいふ”って。

 意味わからん。


 頭にきた俺は、

 ”ざけんじゃねえ、このクソ親父!”

 って殴りかかったんだ。


 そしたらあのジジイ、ヒラリと身をかわして、俺を羽交い締めにしやがった。

 そして俺の耳元でささやいたんだ。

 ”フッ、まだまだ甘いな。むしろ皇太子になってから、なまってんじゃねえか? 孫家は尚武の家柄だぞ”


 もうブチ切れたね。

 それで親父をぶっ殺すつもりで、メチャメチャ暴れたんだが、結局一発も殴れなかった。

 くそっ、すげえムカつく。


 結局、あれよあれよという間に譲位が決まり、今年から俺が皇帝になった。

 そして当の孫堅おやじは、本当に母上を連れて、故郷の富春に帰っちまったんだ。

 今は母上と2人で質素な屋敷に住み、農作業をしたり、狩りをしているらしい。

 あり得ねえだろうがっ!


 そんな俺の胸の内を読んだのか、周瑜が口を開く。


「まあさ、孫堅さまは呉王朝を打ち立てるという、偉業を成し遂げたんだ。その道は険しくも、激しいものだっただろう? なら早めに隠居させてあげても、いいんじゃないかな?」

「だからってよぅ……自分だけ田舎に引っこむなんて、ずるいじゃねえか。今この国は、瑞兆を受けた親父のおかげで、まとまってる部分もあるんだぜ」

「う~ん、それも一理あるけど、わりと近いところで隠居してるからね。それなりに後見してるとも、言えるんじゃないかい?」

「なんだよ、周瑜。少しは俺の味方してくれても、いいじゃねえか」


 俺が情けない声を上げると、周瑜が楽しそうに笑った。


「ハハハ、だからこうやって、一緒に仕事をしてるんじゃないか。それになんだかんだ言って、孫堅さまは君のことを信頼してるんだ。だから大丈夫。なんとかなるよ」

「いや、そういう意味じゃなくてだな」

「ほら、あまりさぼっていると、仕事が片づかないよ。文官を呼んで、再開しよう」

「いや、だからな」

「さあ、みんな。仕事を始めるよ」

「「「はは~~っ」」」

「だから聞けって!」


 結局その日も、夜おそくまで仕事をさせられた。

 ちくしょう、あのクソ親父。

 いつか殴ってやる。

どうも、青雲あゆむです。

今回、太平洋戦争モノの新作を始めたので、その宣伝を兼ねて後日談を投稿しました。

”未来から吹いた風 ~5人でひっくりかえす太平洋戦争~”

 https://book1.adouzi.eu.org/n8961gy/


実は本作の終了時点で、後日談のリクエストを募ったものの、まったく反応がなく、放置していました。

やっぱり終わった小説なんで、興味なくなるんですかね。

しかしまったく後日談を投稿しないのも、やるやる詐欺みたいで外聞が悪い。

そこで孫堅から譲位された孫策について、描いてみました。

たぶん引き継ぐときはこんな感じだろうな、と。

新作の方ものぞいてもらえると嬉しいです。

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それゆけ孫呉シリーズの3作目はこちらから。

それゆけ、孫紹クン! ~孫策の夢はオレが継ぐ~

孫策の息子の孫紹に現代人が転生して、新たな歴史を作ります。

― 新着の感想 ―
[良い点] 面白くて一気読みしました。ぜひまた気が向いたら後日談よろしくおねがいします。
[一言] お久しぶりです。 完全に孫策の愚痴だけでしたが更新は嬉しかったです(^^ )
[良い点] やっぱりハッピーエンドの後日談は気持ちも楽に読めるし、楽しいですね。 [気になる点] わりと綺麗に終わっていたので、そのままでも良いかと思ってましたf^_^; [一言] 楽しい後日談、あり…
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