表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ユグドラシルが呼んでいる】~転生レーサーのリスタート~  作者: すぎモン/詩田門 文【聖ドラ改稿中】
セクター4

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/195

ターン92 ピーキーな乙女心

りすこさんの作品、「田中梅子(30)、悪役令嬢になります! ~読み専転生者の夢の乙女ゲーライフ」の第92部分https://book1.adouzi.eu.org/n1704fm/92/から強いインスピレーションを受けて書いたお話です。


何が言いたいかというと、ランディがこんな目にあってしまったのは、りすこさんとキンバリーさんのせいであり、作者は何も悪くない。

 「(ひん)すれば(どん)する」とは、よく言ったもんだ。


 この格言は地球だけではなく、異世界ラウネスにも存在している。




 俺は、レース資金の調達に困っていた。


 なんせまだ、学生の身分だ。


 基礎学校(ベーシックスクール)10年生――高等部に上がった俺は、アルバイトができるようになった。


 だけど本業は、あくまで学生。


 バイトで稼ぐにしても、あまり時間をつぎ込めるわけじゃない。


 給料も、そんなに良くないしね。


 短い時間で、効率的に稼げるバイトがしたかった。




 だから、飛びついた。


 話を聞いてはいけないあの人からの紹介だったのに、そのバイトに食いついてしまったんだ。




 明らかに俺は、鈍していた。


 今になって、後悔が胸に押し寄せる。


 思いとどまっていれば、あんなことには――






■□■□■□■□

□■□■□■□■

■□■□■□■□

□■□■□■□■






■□3人称視点(コースサイドカメラ)■□




 樹神歴2633年、7月(キャンサー)


 メターリカ市の中心部、サンドマン町。


 ここには多くの人々、様々な種族が行き交うショッピングモールがあった。


 大きな三日月状の建物内に、様々な店舗が入っている。


 それが広場をぐるりと取り囲む構造が、このショッピングモールの特徴だ。




 ショッピングモール内の広場では、2人の少女が待ち合わせをしていた。


 ひとりは、ウェーブのかかった黒髪の少女。


 年齢的には、間違いなく少女である。


 だが妖しく整った顔と豊満な肢体は、そこいらの大人の女性では(かな)わないほどの色香を(ただよ)わせていた。


 道行く男達は思わず振り返り、二度見、三度見しながら通り過ぎていく。


 彼女はそんな男性達のギラついた視線を、涼しく受け流す。


 ミニスカートの腰の辺りから飛び出た、先端がハート型の黒い尻尾。


 淫魔族(サキュバス)(あかし)であるそれをフリフリしつつ、妖艶な笑みを返していた。




 もう1人の少女は、背が高い。


 女優かモデルのように、明るく強烈な存在感を放っていた。


 日差しを受けて輝く長いプラチナブロンドの髪は、腰の辺りでひとまとめに(くく)られている。


 彼女もまた、尻尾が生えていた。 


 髪と同色の(うろこ)に包まれた、長い尻尾だ。


 活力あふれる美しい顔には、蒼玉(サファイヤ)のような(そう)(ぼう)が輝く。


 彼女はさながら、歩く財宝といったところか。


 ジーンズに包まれた、長い足。


 タンクトップとその上に羽織ったシャツの隙間から覗く、白い素肌。


 これまた男性陣が、(まぶ)しそうに見つめながら通り過ぎて行った。




「久しぶりね、ニーサ」


「ええ。元気にしていた? アンジェラ」




 淫魔族(サキュバス)のアンジェラ・アモットと、竜人族(ドラゴニュート)のニーサ・シルヴィア。


 ベーシックスクール初等部から、2人は仲の良い友人同士だ。


 中等部の3年間、ニーサはハトブレイク国へと留学してしまっていた。


 なので2人は、その間まったく会うことができなかったのだ。


 今年ニーサはマリーノ国へ帰国したものの、今度はアンジェラがこのメターリカ市へと引っ越してしまう。


 実家がガッデス市にあるニーサとは、なかなか(いっ)(しょ)に遊べない日々が続いていた。


 今日は久しぶりに、2人でお出かけである。


 運転免許を取ったニーサが、メターリカ市まで車で気軽に来れるようになったおかげだ。

 



 ショッピングモール内を歩きながら、少女達は楽しげに近況を話す。




「ニーサの(うわさ)は、聞いているわよ~。こっちに帰ってきてからも、大活躍らしいわね」


「まあ、ワークスドライバーだからね。活躍できないと、すぐクビになっちゃうの」


 自分の首を、手刀で切るジェスチャーをしてみせるニーサ。


 しかしその表情に深刻さは感じられず、16歳の少女らしい屈託のない笑みを浮かべていた。




「ワークスドライバーって、自動車メーカーのお(かか)えレーサーのことよね? 凄いわ~。ウチの学校にも、ワークスドライバーになりたがっている男の子がいるのよ。だけど、なかなか難しいみたいね」


「ふぅん、そうなの。男の子は特に、レーサーになりたいって子が多いからね。その子に伝えて。『レイヴンワークスのニーサ・シルヴィアが、応援してた』ってね」


「ふふっ……。ニーサのおかげで、その子に話しかける理由ができたわ。彼、とっても()()()()()な子なのよね」


 ふっくらとした唇を、舌舐めずりして湿らせるアンジェラ。


 その様子を見たニーサは、笑顔をキープしつつもちょっとだけ眉間に(しわ)を寄せた。


 欲望に忠実な友人に、呆れているようだ。




「相変わらずね、アンジェラ。また、男の子を食い散らかしているの?」


「愛に生きるのは、私達淫魔族(サキュバス)の本能よ。ニーサ。あなたもせっかく可愛いんだから、恋でもしたら?」


「私は……。別に恋なんて、しなくていいよ。男の人と話す時は、なんだか変な口調になっちゃうし……。それに……」


 ニーサはその先を言いよどみ、よく晴れた7月(キャンサー)(そら)(せつ)なげな視線を向けた。




「夢に出てくるっていう、黒髪の(きみ)?」


「……うん。彼みたいな人に出会ったら、愛せるのかもしれないけど……。それまでは、恋なんてしない」


「ニーサってば、ロマンチストなんだから」


 あなたはそれでいいのよとばかりに、アンジェラはニーサに向かって優しく(ほほ)()む。




「でも男の子と話すと変な口調になる(くせ)は、なんとか克服したいと思っているの。それが原因で、男の人からは嫌われちゃうことが多いし……」


「男勝りというか……。どっかの王族か、皇帝陛下みたいな喋り方だものね。……そうだわ。男の子が苦手なニーサが慣れるために、ちょうどいいお店があるの」


 アンジェラはポンと拳で手の平を叩き、自らの名案に瞳を輝かせた。




「男の人が多いお店とかは、嫌だよ」


「いいからいいから。きっと、大丈夫よ」


 尻込みする親友の背中を押しながら、アンジェラは強引にニーサを目的のお店へと拉致するのだった。






■□■□■□■□

□■□■□■□■

■□■□■□■□

□■□■□■□■






「ここよ、ニーサ。こないだ、雑誌に載ってたの」


「え? でもアンジェラ……。ここって……」




 アンティーク調のドアを開け、2人が入った空間。


 そこには高級そうなテーブルと椅子、(じゅう)(たん)が設置され、シャンデリアに照らされていた。


 地球で例えるならば、ヨーロッパ風の邸宅。


 それも貴族か富豪でも住んでいそうな、豪邸の(いっ)(しつ)に見えるが――




「おかえりなさいませ、お嬢様」




 2人を出迎えたのは、茶髪のポニーテールが印象的なメイド。


 種族は人間族(ヒューマン)だ。


 つぶらな瞳と、愛らしい顔立ち。


 同性のニーサから見ても、かなり魅力的な女の子に思えた。




「どう? ニーサ?」


「どうってアンジェラ……。ここはいわゆる、メイドカフェってやつ? どうしてここが、男の子に慣れるのにちょうどいいの?」


「うふふふ……。この『リンの森(リンズフォレスト)』にいるメイドさん達はね、全員男の子なのよ」


「ええっ!?」




 ニーサは目を見開き、出迎えてくれたメイドの全身をあらためて眺め回す。


 たしかに、声こそ低めのハスキーボイスだが――




 どこをどう見ても、女の子にしか見えない。




「本当に、男の子?」


「本当に、男の()よ」


 アンジェラの返答にも、いまだ半信半疑のニーサ。


 彼女は狐につままれたような表情のまま、男の娘メイドに案内されテーブルについた。




「ニーサの家も、こんな感じだったわよね?」


「ここまで豪華なインテリアじゃないよ。メイドさんも、いないしね」


「でも、通いの家政婦さんはいたでしょう? この、お金持ちお嬢さんめ~」


「私が稼いだわけじゃないから、自慢にならないよ。それにお父様は商売で儲けていても、趣味の車やレースに散財する人だからね。シルヴィア家はいつか、没落するかも」


「あの個性的なお母さんが()(づな)を握っている限り、大丈夫なんじゃない?」




 2人が笑い合っていると、店員さんが注文を取りにくる。


 もちろん、メイドさんだ。


 紅茶とセットになっているランチ。

 それをニーサが、アンジェラの分も(いっ)(しょ)に注文。


 すると男の()メイドはしずしずと、厨房へ向かった。




「ふ~ん。やっぱり、平気みたいね」


「あっ、本当だ」


 ニーサはちょっと、驚いた。


 注文の際、いつもの王様か皇帝陛下のような口調が出なかったのだ。


 どうやら男の娘は、対象外らしい。




「このままこのお店に通い続けたら、そのうち普通の男の子にも慣れるんじゃない?」


「え~っ。そこまでして、慣れなくていいよ」




 2人で他愛のない会話をしているうちに、紅茶とランチがティーカートに乗せられてやってくる。




 運んできたのは、ブロンドヘアのメイド。

 

 かなり背が高く、180cmぐらいあった。


 長袖、ロングスカートのメイド服が、異様なほど似合っている。


 だが先程のポニーテールメイドに比べると、動きが少々ぎこちない。




 アンジェラが長身メイドの胸元を見ると、名札には「研修中」と書かれていた。


 料理を出すその手際は良いのだが、いかんせん全身から緊張が(にじ)み出ている。


 顔も(ぶっ)(ちょう)(づら)で、愛想がない。


 せっかく、綺麗に整った顔立ちだというのに――




「あら? あなた、どこかで会ったことがあるような……?」


 そんなアンジェラの(ひと)(こえ)に、長身ブロンドメイドはビクリと体を震わせる。


 彼女――いや。

 彼は覗き込むアンジェラの視線から、顔を隠すように(そむ)けた。


 店員としては、失礼極まりない接客態度だ。


 だがアンジェラが感じたのは、怒りではなく疑念。


 やはり、自分の知っている人物なのではないかと。




 (いっ)(ぽう)のニーサは、怒りの表情を浮かべていた。


 接客態度に対しての怒りではない。

 

 ただ怒りの対象は、やはり長身ブロンドメイドで――






「パラダイスシティGP(グランプリ)予選1番手(ポールシッター)が、こんなところで何をやっているのだ? ランドール・クロウリィ!」


 ニーサの言葉にアンジェラは驚き、目を見開く。


 同時に鼻を、ヒクつかせた。




「本当だ! 香水で誤魔化しているけど、この匂いはランディ(くん)!」




 ――匂いで分かるものなのか?


 ニーサはそう思ったが、今は突っ込む気にもなれない。




 ランディ(?)は(うつむ)いたまま、無言を貫いている。


 気まずい沈黙が、店内を支配していた。




 そんな時だ。


 来客を告げるベルの音と共に、沈黙を破る天使が降臨する。




 唐突に開かれた店のドアから、ズカズカと乱入してきたのは――






「ランディ君! ここでバイトしとるって、キンバリーさんから聞いてきたで!」




 可愛らしい天翼族女性の乱入に、長身ブロンドメイドは表情を絶望で染めた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本作にいただいた、イラストやファンアートの置き場
ユグドラFAギャラリー

この主人公、前世ではこちらの作品のラスボスを務めておりました
解放のゴーレム使い~ロボはゴーレムに入りますか?~

世界樹ユグドラシルやレナード神、戦女神リースディースなど本作と若干のリンクがある作品
【聖女はドラゴンスレイヤー】~回復魔法が弱いので教会を追放されましたが、冒険者として成り上がりますのでお構いなく。巨竜を素手でボコれる程度には、腕力に自信がありましてよ? 魔王の番として溺愛されます~

― 新着の感想 ―
[一言] これはグッジョブーーー!(笑) パラダイスシティのレース秒でこけた時には、めちゃくちゃもにょりましたが(笑) ランディくんにこのバイトをしてもらうためだったのですね!(笑)
[良い点] 実力はあっても、浪人してしまうこと自体は気の毒で、笑っちゃ悪いと思うんですが、この展開は笑わざるを得ません。 シルヴィアがどんな人なのか、という興味が吹っ飛びました(笑) 日常パートも面…
[一言] 山あり谷ありのレーサー人生って感じで、読んでいて楽しいです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ