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【ユグドラシルが呼んでいる】~転生レーサーのリスタート~  作者: すぎモン/詩田門 文【聖ドラ改稿中】
セクター3

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ターン86 飲ませたのはだ~れ?

 コース下見の(あと)、俺達は「フェアに戦おう」という協定を結んでから解散した。


 「フェアに戦う」というのは「禁止されていないことなら何でもやるぜ」と同義なので、あまり安心材料にはならないけどね。




 解散するなり俺はホテルに戻り、ノートパソコンを開くと動画投稿サイトにアクセスした。


 お目当ては去年パラダイスシティGP(グランプリ)を走った、ダレル・パンテーラさんの車載(オンボード)カメラ映像。




 俺はコース下見中に、「本番にならないと分からないことが多い」なんて言った。


 だけど実際にコースとなる道路の路面を見て、感じたことも少なくない。


 ダレルさんや他のドライバー達の走行動画は、マリーノ国にいる時から何度も見ている。


 だけど今日仕入れた情報を取り入れつつ見れば、また新たな発見があるかもしれないと思ったんだ。




 ジョージやケイトさんと動画を見ながら軽く打ち合わせをしていたら、いつの間にか日が暮れていた。


 軽くのはずが、熱が入っちゃったな。


 このまま打ち合わせを続けたい俺達は、ルームサービスを取ることにした。


 みんなでホテル外のレストランに行く予定だったんだけど、変更だ。




「お兄ちゃんが行かないなら、私もホテルに残るわ」


 ヴィオレッタの発言がきっかけか、マリーさんも残ると言い出した。


 当然彼女の執事兼護衛のベッテルさんと、お世話係のメイドであるキンバリーさんも残ると言い出す。




 結局俺とジョージの部屋にチーム全員が集まり、宴会のついでに打ち合わせを――いや。

 打ち合わせのついでに、宴会をすることになった。




 この世界での飲酒は、地球の日本国と同じく20歳から。


 俺やジョージ、マリーさんやキンバリーさんは飲めない。


 だけど他のスタッフ達は、アルコールOK。


 深酒はマリー監督から厳禁されたけど、彼女は飲めるスタッフ全員に高い酒を振舞った。




「ほどよく楽しんで、英気を養うのですわよ」




 物分かりがいいチームオーナー兼監督で、良かったと思う。


 彼女は意外とこういう配慮に長けていて、1年間スタッフ全員のモチベーションを高く保ちながら国内スーパーカート選手権(シリーズ)を戦ってきたんだ。




 酒が入ると、大人達は(じょう)(ぜつ)になった。


 楽し気に話すオッサン達の声をバックに、打ち合わせを進めるのも悪くない。


 耳に心地よい(けん)(そう)だ。




 俺はアスリートだから、地球で20歳になってからもアルコールは口にしなかった。


 今度の人生でも、きっと酒は飲まないだろう。


 だから宴会の真の楽しさというものは、これからも理解できないのかもしれない。


 それでもこのチームの宴会は、なかなか楽しいと思う。




「ランディ様。打ち合わせはそれぐらいにして、こっちへ来て(いっ)(しょ)にお話しませんことですの?」


 ソファの隣の席へ座るように(うなが)す、マリーさんの語尾があやしい。




 ほんのり赤く染まった(ほお)と、いつもより(うる)んだグレーの瞳。


 そして銀色縦ロールを揺すりながら、ヒックヒックと(ひん)(ぱん)に繰り返されるしゃっくり。


 その症状から、導き出される答えはひとつだ。




「誰だよ!? マリーさんに、お酒飲ませたのは!?」




 ポールがいない今、チーム内でこういうことをやる人物はひとりしか思い浮かばない。


 酔っ払ったマリー嬢の姿を、ビデオカメラで撮影している危険なメイド。


 彼女の顔には、おなじみのぬらりとした笑みが浮かんでいた。


 マリーさんにお酒を飲ませた犯人は、キンバリーさんで間違いないだろう。




 キンバリーさんはぬらりスマイルとカメラを構えた姿勢をキープしたまま、ベッテルさんに耳を(つか)まれ部屋の外へと引きずられていった。


 ベッテルさん。

 その問題児メイドに、ガッツリ説教をお願いします。


 キンバリーさん自身、酔っていたのかもしれないな。


 彼女もまだ、飲酒できない歳のはずだけど――




「ランディ様! 早く! となり早く! でないと来年、レイヴン自動車メーカーチーム(ワークス)への移籍は認めませんざますよ?」


 酔った監督は、ちょっと幼児退行気味――いや。

 これが、年相応な言動なのかもな。


 マリーさんは待ちきれない様子で、ソファのクッションをポムポムと叩く。




「はいはい。監督命令じゃ、逆らえませんね」




 ケイトさんとヴィオレッタが少しムッとしていたけど、仕方ないじゃないか。


 話を聞きながらお茶やジュースを飲ませて、さっさと彼女の酔いを()まそう。




 俺がマリーさんの隣に腰を下ろすと、オッサンスタッフ達が「ホォー!」と声を上げて(はや)し立てた。


 やめてくれ、オッサンズ。


 これ以上、酔っ払い令嬢を(あお)るんじゃない。




 俺はマリーさんの隣に座ると、紙コップにジュースを(そそ)いで差し上げた。


 それなのに彼女ときたら、飲み物には無反応。


 ()わった目で、俺を(にら)みつけてくる。




「ランディ様! 今日はあなたに、お説教があります!」


「はいはい、監督。なんでございましょう?」




 説教されるようなことは、何も思い浮かばない。


 国内スーパーカート第2戦と3戦で、リタイヤした件かな?


 でもあれ、俺が事故ったとかじゃなくってメカニカルトラブルだったし。




「女性関係についてであります!」




 ――完全に、身に覚えがない。

 

 俺には関係を持っている女性なんて、1人もいないよ!




「あなたはいったい、何人の女性の心を奪えば気が済むんでありんすの? ケイト様。ルディ様。最近ではクラスメイトの淫魔族(サキュバス)にも、言い寄られているそうですわね? それにワタ……いえ。最後のは、なんでもありませんでござる」


「ちょっとマリーちゃん! 何を言うとんねん?」


 誤解されたケイトさんが、顔を真っ赤にして反論する。


 ――いかん、二次被害が。

 



「ちょっとマリーさん! 私の名前が、お兄ちゃんのハーレムリストから外れてるよ!」


 ヴィオレッタ!

 そんな人聞きの悪いリスト、存在しないから!




「地球でランディ様が暮らしていた日本は、(いっ)()()(さい)制だったのかもしれません。ですがこの世界(ラウネス)の主要国で、重婚アリの国家はありませんでげす」


 ――でげす?




「ちょ……ちょっと待ってよ。人をそんな、何股も掛けている男みたいに……。それと俺が前世で住んでいた日本でも、重婚は禁止だよ」


「まあ! それで異世界に来て、タガが外れてしまったというわけですか。日本の小説では、異世界でハーレムを作るというジャンルが人気だったらしいですわね? ランディ様も、そういうのばかり読んでいらしたのでちか?」


 なんで日本の婚姻制度について知らないのに、そういう情報は知っているんだ?


 ――っていうか日本では本当に、そういう小説が流行っていたの?



 

「……俺はね、まだ誰とも付き合う気はないんだよ。レースに集中したいんだ」




 俺は、不器用な男だ。


 女の子を大事にしつつ、自分の夢を実現できるかって問われると自信がない。


 今はレースに集中するのが、正解だと思う。




「そこがダメだと、言っているのですわ! 『誰とも付き合っていないのなら、まだ自分にも望みが』などと、周りの女性は考えてしまうのです。そろそろ誰か特定の女性を決めて、正式にお付き合いしなさい。そしてそれを、校内新聞できちんと公表するのですわ!」


 ――あ。

 今の語尾は、まともだった。


 いやいや。

 どうもマリーさんは俺について、盛大な誤解をしているようだ。


 どうせキンバリーさん辺りが俺の身辺を調査して、


「ランドール・クロウリィは、色んなところでモテモテです。爆発しろ!」


 とか、(いつわ)りの報告をしているに違いない。




 それにしても――

 恋愛まで、チームに管理されるいわれはないぞ?


 おまけに校内新聞で公表って、意味が分からない。


 マリーさん、相当酔っているな?


 彼女をこんな風にしたキンバリーさんは、ベッテルさんからこってり絞られればいいんだ。




「ランディ君。対外的に彼女役が必要なら、ウチがいつでも引き受けるで」


「ケイトさんも、酔っているの? ダメだよ? 女の子が、そんなことを軽々しく言っちゃ。男って生き物は、すぐ自分が都合にいいように誤解しちゃうんだからね」


 俺が(たしな)めると、「ブーメランや!」という叫び声とともにケイトさんのハリセンが飛んできた。


 動体視力チートの俺が、なぜかケイトさんのハリセンは()けられずに食らってしまう。


 っていうか、海外までわざわざハリセンを持ってきていたのね。




「まったく、もう……。ランディ様ときたら……。ちゃんと女性と付き合わないから、『ジョージ様と相思相愛』などという(うわさ)が校内で流れてしまうのですわよ?」




 またコレか――


 噂を流している、腐海の住民が絶対いるよね?


 見つけてとっちめてやる。


 女の子だろうから乱暴はしないけど、口から魂が(こぼ)れ出ちゃうぐらいにはお説教が必要だろう。




「やれやれ、迷惑な話ですね。僕だって普通に、好きな女の子がいるというのに……」


 俺も迷惑だよ!


 それにブレイズに対する態度から、ジョージはそっちの気があるんじゃなかろうかと、俺はずっと疑って――




 ――は?

 ジョージさん?

 今、なんと(おっしゃ)いました?




「ジョージ。それって、タイヤが4つ付いてる女の子の話じゃないよね?」




 そう。

 コイツは俺と同じ、レース馬鹿だ。


 ならばカートやレーシングカーを女の子だと思い込んで、ハアハア興奮していたとしても俺は驚かない。




 ところがジョージは多少驚いたらしく、眼鏡がズリっと片側だけ落っこちる。


 それを無表情で押し上げながら、


「そんな痛々しいこと、言いませんよ。ランディじゃあるまいし」


 と、涼しげに答えやがった。




 俺に喧嘩を売っているのか?


 痛々しい上等。

 表に出ろ、ジョージ。


 いや待て。

 いま重要なのは、そこじゃない。




「それ、ホンマなん!? キャー! 誰なん? 誰なん? お姉さんに、話してみい」


 こういう時ケイトさんのテンションは、お姉さんを通り越してオバちゃんそのものだ。




 キラリと無機質に光ったジョージの眼鏡に、背中の翼をブルりと震わせて息を呑むケイトさん。

 

 恐怖の番長だと、怯えていた日々を思い出したのか。




「ジ……ジョージ君。そんなに怒らんといて! 女の子はみんな、こういう話題は気になるもんや。なあ、マリーちゃん? ……マリーちゃん?」




 部屋に訪れる、(いっ)(しゅん)の沈黙。


 耳を澄ませば隣から聴こえる、スゥーッ、スゥーッという可愛らしい息づかい。


 視線を右にずらすと、そこには寝息を立てて眠るマリー監督の姿があった。


 なにか柔らかい手応えと、心地よいぐらいの重みを感じると思ったら――


 彼女は俺の肩に寄りかかったまま、夢の世界へとクラッチを繋いでいた。






 これは完璧な、フライング(ジャンプスタート)だね。






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本作にいただいた、イラストやファンアートの置き場
ユグドラFAギャラリー

この主人公、前世ではこちらの作品のラスボスを務めておりました
解放のゴーレム使い~ロボはゴーレムに入りますか?~

世界樹ユグドラシルやレナード神、戦女神リースディースなど本作と若干のリンクがある作品
【聖女はドラゴンスレイヤー】~回復魔法が弱いので教会を追放されましたが、冒険者として成り上がりますのでお構いなく。巨竜を素手でボコれる程度には、腕力に自信がありましてよ? 魔王の番として溺愛されます~

― 新着の感想 ―
[一言] えーっ、ジョージくんはブレイズじゃなかったのー!? 誰、誰ー!? きゃーきゃー(≧▽≦) ↑ 盛り上がるオバチャンですww
[良い点] マリーお嬢の説教がわりと的を得ているのにとぼけているところですよね、やっぱり。 >日本の小説では、異世界でハーレムを作るというジャンルが人気だったらしいですわね? ↑ だれだ!? 余計な…
[一言] 酔ったマリーちゃんギャンカワ( ˘ω˘ ) そしてジョージも年相応の男子だったんだね!w でも全然予想がつかないな……w
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