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【ユグドラシルが呼んでいる】~転生レーサーのリスタート~  作者: すぎモン/詩田門 文【聖ドラ改稿中】
セクター2

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53/195

ターン53 ボクはあなたをオーバーテイクする!

 レースが終わって、パドックエリアには人が多くなってきた。 


 俺は鋭い曲がり(カット)回転(スピン)を駆使し、人混みの中をすり抜けて走る。




 ピットまで戻ってみたけど、チームメンバー達の姿は無かった。


 みんな、いったいどこへ?




 俺は気付いた。


 人だかりができている場所がある。


 コースの(いっ)(かく)、ピットロード出口付近だ。


 近づいてみると、チームのみんなが揃っていた。


 K2-100クラスの子供達を指揮している、ドーン・ドッケンハイム総監督も(いっ)(しょ)だ。


 俺は人垣をかき分けて、その中心まで進む。


 すると、1台のレーシングカートが停まっていた。


 黒いカウルにYAS研のロゴは、ウチのチームのマシン――ルディ君だ。




 ルディ君は、車から降りられなかった。


 バケットシートに体重を預け、ぐったりしている。


 ヘルメットは脱がされたらしく、シャーロット母さんが手に持っていた。




「さあ、飲んでな」




 ケイトさんが、スポーツドリンク入りのボトルを差し出した。


 チューブ状のストローを、(なか)ば強引にルディ君の口へと突っ込む。


 ケイトさんはそのままカートスーツのファスナーを降ろし、ルディ君が呼吸しやすいようにしてあげた。


 顔を紅潮させ、ハアハアと荒く呼吸を繰り返していたルディ君。


 だけど俺の姿を見つけると、ニッコリ微笑んだ。




「先輩……やりました……。ちゃんと、チェッカーは受けましたよ。クールダウンラップは、走り切れなかったけど……レースは完走です。順位は……何位まで落としたのか、ちょっと分からないですけど……」


「うん、うん。よく頑張ったね」




 順位なんて、今日はもうどうでもいい。


 俺は君に、「1年かけて速くなれ」と言ったね。


 棄権(リタイヤ)してちゃ実戦(レース)を経験できないから、速くなれない。


 だから「完走」こそ、君に望む最高の結果(ベストリザルト)だったんだ。




「ちなみに、ルディちゃんの順位は15位や。しっかり選手権(チャンピオンシップ)ポイントを、もぎ取っとるで」


「今日は本当に、良くやってくれた。偉いぞ、ルディ君」




 俺は褒めたのに、ルディ君はどことなく不満そうだ。




「先輩。言葉だけじゃなく、態度で示して下さい。ご褒美があるんですよね?」




 ええーっ!

 今、ココでなのかい?


 周りにけっこう、人がいるよ。




「ああ。そういえばウチも、ランディ君に優勝のご褒美あげるんやった。ほら、ヘルメット外しぃ」




 何ですか? その羞恥プレイは?


 そりゃあケイトさんのように、素敵なお姉さんから頭を撫でられるのは嬉しいけど――


 これだけ周りの視線を、受けながらっていうのは――






「そろそろ、(ざん)(てい)表彰式ですよ? ……貴方(あなた)達、何やっているんですか?」




 ジョージ・ドッケンハイムが眼鏡の位置を微調整しながら、(いぶか)しむ。




 かなり奇妙な光景だろうな。




 ルディ君の頭を、ナデナデする俺。


 サラサラとした繊細な髪は、撫でるこちらも気持ちいい。


 それ以上にルディ君は、心地良さそうだ。




 そして俺は、ルディ君を撫でると同時にケイトさんから撫でられている。


 彼女の細い指が俺の金髪をなぞる(たび)、心が安らぐ。

 



 そんな頭ナデナデの連結状態を、覗き見ている女の子がいた。


 ピットの柱に隠れて、恨みがましそうにハンカチを噛む姿が視界の端に映る。


 銀髪のドリルヘアが目立ってしまい、全然隠れられていなかったマリー・ルイス嬢だ。




 そんなに恨みがましい目で、見ないでくれよ。


 自分から「シルバードリル」のドライバーが、言い出したんだろう?


 誰かひとりでも、俺の前でゴールしたらって。


 頭ナデナデへの執着を見るに、彼女はまだ俺を婚約者にしたいとか思っているんだろうか?




 うーん。

 可愛い子だけど、あのヤンデレっぷりは勘弁してもらいたい。


 俺は束縛する子、苦手なんだ。




 場内放送で暫定表彰式の呼び出しがかかるまで、このままルディ君を撫で続けてあげようと思ってた。


 だけど、それを邪魔する影が現れたんだ。




「おおー! ルドルフィーネ! 最後の方しか観れなかったが、立派な走りだったぞ!」




 そう言って俺との間に割り込み、ルディ君に抱きついた男。


 俺はその男に、見覚えがあった。


 ――というか、平日は毎日顔を合せている。




「ミハエル先生。なぜ、先生がここに?」




 謎の男の正体は、去年に引き続き今年度も俺の担任教師。


 仕事はいい加減な、ヒゲエルフのミハエル先生だった。




「おお、ランディ。そうか……。お前がカートで活躍しているのは知っていたんだが、まさかルドルフィーネと同じチームだとはな。場内放送でお前の名前を聞いて、初めて知ったよ」


 さっきからミハエル先生は、ルディ君のことを「ルドルフィーネ」と呼んでいる。


 きっとそれが、ルディ君の本名なんだろう。


 それにしても、2人の関係はいったい?




「えーっと……。先生と、ルディ君の関係って……」


「何だルドルフィーネ。俺のこと、ランディ達には話していなかったのか? 歳は離れているが、ルドルフィーネは俺の妹だ」


「ええーっ!」


 俺は思わず叫んでしまった。


 信じられない!




 そういえば、ミハエル先生のファミリーネームもシェンカーだったな。


 珍しくない姓だから、全然意識していなかったよ。




「そんな……。不真面目が服着て歩いているような先生と、真面目で可愛いルディ君が兄妹だなんて……」


「なかなか失礼なことを、言ってくれるな。副担任からそんなこと言われて、俺は悲しいぞ」


「勝手に生徒を、副担任にしないで下さい」


「あのー、先輩。驚くのは、そこですか? 妹ですよ? ルドルフィーネって、女の子の名前ですよ? ボク……いえ。私が女の子だってところは、スルー?」


「ああ。だって俺、前から知ってたし」




『ええええええええーっ!』




 ルディ君を含む女性陣4人が、めいっぱい驚く。




「なんだい? そんなことに、俺が気付かないとでも思ったのかい? 俺ってみんなから、どれだけ(にぶ)い奴だと思われてるの?」


「せ……、先輩。いったいいつから……?」


「ルディ君がカートデビューをした、次の日。マシンの慣らし運転(シェイクダウン)が済んで、初めて本格的な走行をした後かな? ドライビングスタイルや体の動きを見て、ありゃ女の子だろうと」


「ちなみに僕も、気付いていましたよ。走り終えたマシンのタイヤ摩耗と、エンジンのスパークプラグの焼け方などを見て」


 いやいやジョージ。

 君はちょっと、オカシイから。


 男女でプラグの焼け方やタイヤの減り方に差が出るなんて話、聞いたことないぞ?




「そっか……。黙っててごめんなさい、ランドール先輩……」


「謝るようなことじゃないよ。レースの参加申請書には、性別を書く欄なんてなかっただろ? だったら問題無いんじゃない?」


「でも、先輩は弟分が欲しかったんじゃ……」


「ああ、それ? そんなことは、今から父さんと母さんに頑張ってもらえばいいのさ」


「もう! この子ったら!」


 今日も背後から聞こえる、風切音。


 母さんの攻撃を予測していた俺は、素早く前に踏み込だ。


 前進することで、後頭部への攻撃を回避――




 ――したつもりだったのに、直撃してしまった。


 間合い(リーチ)を読み違えた?




 ()(げん)に思って、振り返る。


 そこにはケイトさんから借りたハリセンを、振りぬいた母さんの姿があった。






■□■□■□■□

□■□■□■□■

■□■□■□■□

□■□■□■□■






■□ルドルフィーネ・シェンカー視点(オンボード)■□




 暫定表彰式――




 ボクは観客に混ざって、その様子を見ていた。




 子供のレースなのに、表彰式にはたくさんの人達が集まっている。

 

 シミュレーターの世界大会で優勝した時は、表彰式なんてなかった。


 ラウネスネットを介した、オンライン対戦だったからね。


 後日、電話でインタビューを受けたぐらいだ。




 現実の表彰式は、華やかな世界だった。


 表彰台に登った、3人のヒーロー達。




 1位のランドール先輩は、堂々としていた。


「表彰台の真ん中は、俺の定位置」


 無言でそう、主張しているように見える。




 2位のクリスさんは、ちょっと悔しそう。


 ランドール先輩の方をチラチラ見ながら、苦笑いを浮かべていた。




 3位のキースさんは、とっても嬉しそう。


 グレンさんとの激しい争いを制して、表彰台入りしたからだね。


 ボクの近くで表彰式を見ていたグレンさんと、何やら冗談を言い合ってる。




『それでは優勝したランドール・クロウリィ選手に、お話を伺いたいと思います』




 インタビュアーは、ドワーフ族の女性。


 成人みたいだけど、背が低い。


 ランドール先輩は5年生の人間族(ヒューマン)としては背が高いから、マイクを突き上げるような形になっていた。




『えっと……あの……その……』




 ああ。

 ランドール先輩は、インタビューが苦手だって言ってたなぁ。


 先輩。

 インタビュアーから差し出されたマイクを、掴んじゃダメですよ?


 さっきまでの堂々とした態度はどこへやら、急にオロオロし始めた。


 でもなんか――情けないというより、可愛いなぁ。




 そんなランドール先輩の姿を眺めていたら、ふと彼と目が合った。


 急に鋭い顔つきになった先輩は、インタビュアーからマイクをひったくる。


 うん。

 冷静さを、取り戻したわけじゃないみたい。




『表彰台……ここは最高だ。レースに勝ったということが、自分が生きているということが、1番強く実感できる場所。チームの人達の支えが、観客のみんなの熱い応援が、形になって見える。まさに絶景だ』




 隣の2位表彰台に居たクリスさんが、ヒューと口笛を吹いた。


 3位のキースさんも、ニヤリとした笑みを浮かべる。




「そ……そうですか。そろそろマイクを返してもらえると……」


 ドワーフ族の女性は、先輩のマイクを取り返そうとした。


 だけど先輩は、マイクを自分の頭上に上げてしまう。


 それを追ってインタビュアーさんがピョンピョンとジャンプしている隙を突き、先輩はもういちどマイクを口元に持っていった。




『だから、ここまで上がってくるんだ! ルドルフィーネ・シェンカー! 俺は君と(いっ)(しょ)に、ここへ立ちたい』




 頬が熱くなった。


 頬だけじゃない。


 耳も、手足も、そして胸も――


 観客からの注目が集まって、恥ずかしかったからとかじゃない。


 これは、燃えているんだ。


 ボクも、あの場所に立ちたい。




 それにしてもランドール先輩――

 (いっ)(しょ)に表彰台に立ちたいって言ってたけど、ちょっと甘いと思う。


 少しの間だけだったけど、今日ボクは確かに先輩の前を走ったんだ。




 (いっ)(しょ)に表彰台に登るというより、ボクはあの場所を他のドライバーから奪い取る。


 それは、ランドール先輩も含めての話。


 だからボクは先輩の呼びかけに、「ハイ!」なんて素直に応えてはあげない。




 右手の形はピストルに、そして左手を添える。


 標的(ターゲット)は、表彰台の真ん中にいるドライバー。






 ボクは片目を閉じて狙いを定めると、心の中で引き金を引いた。






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本作にいただいた、イラストやファンアートの置き場
ユグドラFAギャラリー

この主人公、前世ではこちらの作品のラスボスを務めておりました
解放のゴーレム使い~ロボはゴーレムに入りますか?~

世界樹ユグドラシルやレナード神、戦女神リースディースなど本作と若干のリンクがある作品
【聖女はドラゴンスレイヤー】~回復魔法が弱いので教会を追放されましたが、冒険者として成り上がりますのでお構いなく。巨竜を素手でボコれる程度には、腕力に自信がありましてよ? 魔王の番として溺愛されます~

― 新着の感想 ―
[一言] おお、なでなでキターーー! からの、 お嬢様かわいい! からの、  なにぃ気づいていただとぉぉ!なんてヤツだ、ランディ! からの、 表彰式ズギュン! 盛り沢山で楽しかったです!
[良い点] 気にしたこともなかったですが、タイヤの減り方やプラグの焼け方。統計をとれば性別の差がでる……わけがないですね(笑) 発想が面白いです。
[一言] ヒロイン達がみんな魅力的ですね! ヒロインが可愛いのは、何よりの武器だと思います!
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