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【ユグドラシルが呼んでいる】~転生レーサーのリスタート~  作者: すぎモン/詩田門 文【聖ドラ改稿中】
セクター6

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180/195

ターン180 嫉妬の炎

 樹神暦2642年12月(サジタリアス)28日


 19:00




 予選を明日に控えた今夜は、ユグドラシル24時間のレセプションパーティーが開かれる。


 会場は、「ホテル・ローラ」。


 世界樹ユグドラシルに隣接して建てられている、お城みたいに巨大なホテルだ。


 なんでも「ホテル・ローラ」って名前は、樹神レナードの妹さんである精霊女王ローラから名前を取っているんだとか。


 俺達を含め、参戦チーム関係者の大半はこのホテルに宿泊している。




 レセプションパーティに向けて、俺達シャーラ・ブルー()レヴォリューション()レーシング()の主要スタッフはおめかしをキメていた。




 男性陣はフォーマルな燕尾服(テールコート)


 女性陣は華やかなドレス姿。




 俺はこういうのって、けっこう慣れてたりする。


 前世地球の父さんは会社社長だったから、息子の俺も連れられて社交の場に出る機会は割とあった。

 

 転生後のGTフリークスドライバー時代も、スポンサーさん絡みのパーティーとかには出てたしね。

 



 ところがいざホテルの大ホールへと入ると、(ごう)()(けん)(らん)な雰囲気に圧倒されてしまった。


 こんなに規模のデカいパーティーは、前世も含め初めてだ。


 「ホテル・ローラ」は外観と同じように、建物内もまるでお城。


 (きら)めくシャンデリアの下では大勢の人々が歓談し、食事を楽しんでいた。




 今夜のパーティーは、立食形式。


 聞いたところによると、(あと)からダンスパーティーも始まるんだとか。




「やあランディ、ジョージ。……ヴィオレッタちゃんは、来ていないのかい?」




 このパターンも、慣れてきたな。


 キング・オブ・悪い虫、ブレイズ・ルーレイロの襲来だ。


 だけど、残念だったな。


 ヴィオレッタは、この国に来てないんだよ。




「ん。まあ、ちょっとな……」




 高笑いしてザマーミロと言ってやるつもりだったのに、俺の口から(こぼ)れたのはそんな曖昧な返事だ。


 ヴィオレッタが、なぜマリーノ国に残ったのか――


 その理由を思い出し、気持ちが沈む。


 母さんは今頃、どうしているだろうか?




 ブレイズに続き、もう1人の男がやってきた。


 デイモン・オクレール閣下だ。




「師匠、マリー・ルイスの姿が見えぬのだが……?」


「ああ、閣下。マリーさんは、仕事の都合で入国が遅れているんだよ」


 このパーティーには、間に合わないかもしれない。


 そう告げると、閣下は残念そうに肩を落とした。


 ヴィオレッタがいないと知って(うな)()れてしまったブレイズと並んで、がっくりイケメンコンビだな。


 2人ともダンスで、お目当ての相手と踊る(はら)づもりだったんだろう。




 我がBRRの面々は、ダンスより料理が気になる連中だ。


 ケイトさんもジョージもポールも、モリモリ食べている。


 アンジェラさんだけは、料理より気になるものがあるみたいだ。


 会場に集まっている、世界中の男達――


 トップドライバー、天才エンジニア、お金持ちのスポンサー達を熱っぽい視線で眺めながら、舌なめずりをしていた。


 違う方面の食欲が、旺盛だね。




 実はウチのチームで1番よく食べるのは、ニーサ・シルヴィアだったりする。


 (いち)(おう)あれでも社長令嬢だから、お食事のマナーは完璧。


 優雅に美しく、皿の料理をあっという間に消滅させていく。


 まるで魔法だ。




 今回もその魔法を披露しまくっているものだろうと思い、俺は会場内を見渡す。


 ――あれ? 

 ニーサがいない?




「ケイトさん、ニーサは来てないの?」


 ケイトさんの宿泊している部屋は、ニーサの部屋の隣だ。


 パーティーに来る前に、声ぐらいかけてきただろう。


 そう思い、訊ねてみる。




「あー。なんか準備に、時間がかかっとるみたいやったで。ちゃんと(あと)から、来るんちゃう?」


 ケイトさんは、グラスのお酒を(いっ)()に飲み干してから答えた。


 おいおい、大丈夫か?


 もう、顔が赤いぞ?


 そういえばケイトさんって、酔いが回るとどうなるんだ?


 俺の周りには、ロクな酒癖の奴がいない。


 語尾の怪しい、パッパラ令嬢と化すマリーさん。


 ウザいほど笑い(じょう)()で、俺を勝手に義兄呼ばわりするブレイズ。


 泣き上戸吸血鬼(ヴァンパイア)のオクレール閣下。


 アルコールが汗で全部抜けるんじゃないかっていうぐらい、筋トレするヤニ・トルキ。




 どれだけ飲んでも普段と全く変わらない、ルドルフィーネ・シェンカーが神に思える。




「ここのお酒は、美味しいなぁ。ついつい、飲んでしまうで」


「ケイトさん、ほどほどにね?」


 これは俺達が気にかけておかないと、ケイトさん何かやらかすぞ。




 そんな心配をしていた時、突如として会場の空気が変わった。




 どよめきと、(かん)(たん)の声。




 (いっ)(せい)に同じ(ほう)へと向く、パーティー参加者たちの視線。




 俺もその視線を、目で追った。




 会場である、ホールの大扉。


 そこから入ってきたのは、1人の女性だった。


 長身で歩幅があるからか、歩くスピードが速い。


 そのせいで、長いプラチナブロンドが風になびいていた。


 いつもと違い、先端を束ねてはいない。




 自信に満ちた蒼玉(サファイヤ)の瞳が、周囲を見回す。


 会場中から注目を浴びていても、彼女の立ち振る舞いは実に堂々としたもの。


 いや。

 堂々としているを通り越して、(こう)(ごう)しい。


 神話に出てくる戦女神、リースディース様が地上に降臨したらこんな感じだろう。


 現に周囲から(そそ)がれている視線は、()れるを通り越して崇拝に近い。




 真っ赤なイブニングドレスの(すそ)を揺らめかせながら、彼女は――


 ニーサ・シルヴィアは俺の前まで来て、立ち止まった。




「白……なんだな」




 (いっ)(しゅん)、なんのことだか分からなかった。


 だけどニーサの視線が俺の首から下に向いていたから、すぐにそれが着ている燕尾服(テールコート)の話だと気づく。




「あ……ああ。好きな色だし、シャーラのワークスカラーに合わせようかと思って……」


「……ふん。似合っているではないか」




 えっ?


 褒められたの? 俺?


 ニーサって、そういうこと言うキャラだっけ?


 ちょっとビックリ!



 

 ビックリだけど――嬉しい。




 そして嬉しさと同時に、焦りも湧いた。


 なにをボサっとしているんだ、俺!


 自分が褒められるより先に、彼女を褒めろよ!




「あ……ありがとう。ニーサも……その……」




 何かおかしい。


 体内で、重大なマシントラブルが起きている。


 こういう時、呼吸をするように褒め言葉が出てくる男だったじゃないか。


 頑張れ、俺!




「とても……綺麗だよ……」



 

 言えた!


 なんとか言えた!




「ふふっ。ありがとう、ランドール」




 いつもと違い、照れずにサラリとお礼を言うニーサに戸惑いを隠せない。


 くそっ!

 いつもと立場が、逆じゃないか。




「ニーサちゃ~ん。ドレス、ごっつ()()うとるな~。その大胆に開いた胸元と背中、たまらんで。ぐへへへ……」


 ケイトさんの酒癖が判明!


 オヤジ化だ!


 なんてこった。

 ついさっきまではほろ酔いだったのに、(めい)(てい)ゾーンに入りつつあるじゃないか。


 俺はジョージに目くばせした。


 奴は無言で(うなず)く。




(機会を見て、部屋に強制送還しよう)


(OK、僕に任せて下さい。放り込んできます)




 ジョージとは、長年(いっ)(しょ)にレースをやってきたからな。


 アイコンタクトひとつで、コミュニケーションは完璧だ。




 ちょうどその時、ホール内に音楽が流れ始めた。


 ここから、ダンスタイムのスタートだ。




 当然、最初はニーサにダンスを申し込もうと俺が1歩踏み出した時――




「ランディ君、ダンスやダンス! ウチと(いっ)(しょ)に踊るで~」




 エンジェリックドランカー、ケイトさんが脇腹に飛びついてきた。




「えっ、ケイトさん? いや、その……」




 この世界では、「ダンスは男性側から誘う」とかいうマナーは存在しない。


 地球でも、気軽なパーティーでは女性側から誘うケースもあったしね。


 ケイトさんの背後では、ジョージ・ドッケンハイムが凍り付いていた。


 どうやらケイトさんにダンスを申し込もうとして、タイミングを(のが)してしまったらしい。




 ――ジョージのバカ!


 スタート失敗だよ!


 レースと違って、フライング(ジャンプスタート)のペナルティとかないんだ。


 事前に、予約ぐらいしておけ!




 でもそれは、俺も同じか――


 前もってニーサと踊る約束を取り付けておけば、ケイトさんに失礼なくお断りできたのに。


 もう、ここから断るのはアウトだろう。


 見ればニーサも、貴族然とした(たたず)まいの男からダンスを申し込まれている。




 誰? あいつ?


 ここにいるなら、ユグドラシル24時間の関係者?


 (いっ)(しょ)に踊るって、ニーサに触れるってことだよな?


 ダメだダメだダメだ!


 今すぐ、ニーサパパのガゼール・シルヴィア氏を呼べい!


 彼ならきっと、全力でダンスを阻止してくれるはずだ。




 貴族風モブ野郎からの誘いを受けて、ニーサは戸惑っているみたいだった。


 そしてチラリと、俺の方を見る。




「そんな奴放っておいて、俺と踊ってくれ!」


 大声でそう叫びたいけど、そんなマナー違反な真似できるわけがない。


 俺の(ほう)だって、ケイトさんと踊るしかなさそうな流れだしな。




 ニーサは曖昧な(ほほ)()みを浮かべた後、貴族モブの手を取った。




 自分でも引いてしまうほどに、超高温な嫉妬の炎が胸を焼く。


 どうせならこの炎が火炎放射器みたいに、モブ男まで届けばいいんだ。


 消し炭にしてやる。




「なにをボサっとしとるん? 曲が終わってまうで?」




 ケイトさんにグイグイと引っ張られて、俺はホールの中央付近へと出た。


 すでに何組かのカップルが、踊り始めている。


 1曲目はもう、ニーサと踊るのを諦めるしか道は無い。




 さてさて。

 俺はダンスも、そこそこ得意だ。


 だけど、ケイトさんはどうなんだ?


 天翼族という種族柄、身軽ではあるけれども。


 しかも俺と彼女じゃ、身長差が30cm以上ある。


 踊りにくそう。




 ところがいざ踊り始めてみると、めちゃくちゃ踊りやすかった。


 身長差をカバーするため、俺が膝や腰を緩めているってのもある。


 だけどそれ以外にもステップとか、細かいところで息がピッタリだ。


 さすが、ジョージの次に付き合いが長いケイトさんだけあるな。


 そういやケイトさんと踊り損ねた、ジョージはどうしているんだ?


 気になったから、俺は踊りながら会場内に視線を巡らせてみた。




 ――いた。


 壁際で、俺とケイトさんをじっと見つめていやがる。


 無駄に眼鏡キラーンはやめろ。


 お前がやると、ものすごい圧力を感じる。




 最近やっと、分かってきた。


 ジョージの奴って、絶対ケイトさんのことが好きだよな?


 この曲が終わったら、次はお前がケイトさんと踊れよ?




 いや。

 むしろ踊るんじゃなくて、そろそろ部屋に強制送還を――




「あ……あかん。酔いが回ってきたで」


「そりゃ、これだけ酔っ払った状態で踊ればそうなるよ」




 俺はケイトさんの手を引き、会場隅に用意されている椅子へと連れて行った。


 フラフラしている彼女を座らせ、サービススタッフに水を持ってきて欲しいとお願いする。


 すぐにジョージも近づいてきた。




「あかーん! 体があっついわ! ドレス、脱いでエエ?」


 ケイトさんは暑そうに、背中の翼とドレスの胸元をバサバサする。




「「絶対にダメです」」




 俺とジョージの声が、綺麗に揃った。






 オヤジ化だけじゃなく、裸族化もするのか――


 酔っ払った時の危険度は、マリーさんとどっこいどっこいだな。






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本作にいただいた、イラストやファンアートの置き場
ユグドラFAギャラリー

この主人公、前世ではこちらの作品のラスボスを務めておりました
解放のゴーレム使い~ロボはゴーレムに入りますか?~

世界樹ユグドラシルやレナード神、戦女神リースディースなど本作と若干のリンクがある作品
【聖女はドラゴンスレイヤー】~回復魔法が弱いので教会を追放されましたが、冒険者として成り上がりますのでお構いなく。巨竜を素手でボコれる程度には、腕力に自信がありましてよ? 魔王の番として溺愛されます~

― 新着の感想 ―
[一言] はぁぁぁああああ??????? 今までホニャホニャしてひとりに決めずにきたくせに、ひとりに決めてもスマートにダンス誘えないのかよおおおおおお??????? ブレイズくんと閣下はどんよりしち…
[一言] >(OK、僕に任せて下さい。放り込んできます) さぁ、ジョージ! 放り込むんだっ!!! ランディ、変なところでヘタレなんですよねー。 なかなか一筋縄ではいかないですなー。なー。
[良い点] ケイトさんの嫉妬が炸裂するのかと思いきや、ランディでしたか! ケイトさん本人は酔っぱらって全然分かってないんでしょうけど、恋の矢印を意識して読んでみると、可哀相になってきます。 ジョー…
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